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英国旗ユニオンジャックを敵にして

文/原田公樹


 先日、英国・グラスゴーの地下鉄で声をかけられた。「ナカムラを見に来たのか?」。この3年、セルティックのファンから何度、こうして声をかけられたことか。「ナカはすばらしい。あんな選手は世界のどこを探してもいない。セルティック史上、最高だ」と褒めるのだ。お尻がこそばゆいが、まんざらでもない。


 今季に入ってからは、こうも聞かれる。「ところでナカは来季もいるか? 日本へ帰るって本当か? ずっとセルティックにいて欲しい、と伝えてくれ」。
 ところが、この日は違った。いつも通り「そうだよ」と言ってしまったのが運の尽き。「今日のナカムラはクソだったな。何であんなをわざわざ見に来たんだ? 無駄足だったな、ハハハッ」
 上着の下にレンジャーズの青いユニホームをのぞかせて、男は高笑いする。後悔の念。レンジャーズの本拠地アイブロックで、セルティックが0−1でオールドファームダービーに負けた直後だった。この勝利で、レンジャーズが3年ぶりのリーグ優勝へ、大きく前進したのだ。黙っているのもしゃくなので、つい言い返した。
「今日、ナカムラはスパイクされて、ケガしたのに90分プレーしたんだ」
 火に油だった。「おいケガだってか? ナカはいつもケガしてんだろう!」とわざわざ他の乗客に聞こえるように大声でいうから、車内中の視線が集まる。だが絡まれて気の毒、という目はなく、「言い訳するな」という冷笑が注がれる。車内はほとんどが「青」の人たちだ。まずい。
「ナカがよかった試合なんてあるのか? 見たことないぞ。いつだ?」
 僕は俊輔のファンでも、セルティックを応援しているわけではないが、何年も取材すると感情移入するものだ。いい加減、黙らしてやろうと思い、「昨季のマンU戦がベストだ」というと、「へっ、3年間でたった1試合か。おい1試合かよ」と切り替えされた。目的地の駅へ降りるまでの数分間は、もう沈黙を通すしかなかった。


 セルティック対レンジャーズの背景の違いや、歴史的な対立はこの3年、すでに雑誌や新聞で数多く報じられたから、熟知している人も多いだろう。簡単にいうと、レンジャーズはアングロ・サクソン系のプロテスタント。つまりユニオンジャックを振る人々に対し、セルティックはその名の通りCeltic(ケルト系)のカソリックたち。だから同じ背景のアイルランド系にも支持され、セルティックのファンはアイルランドの国旗をスタンドから振るわけだ。


 今季、セルティックも俊輔も調子が上がらず、無冠で終わろうとしている。なるほど、レンジャーズはこの2年間、屈辱に耐えていたのだ。この機に積年のうっぷんを一気に吐き出したいのだろう。改めて、俊輔はとんでもない怪物と戦っていた、と思い知らされた。

2008年5月 7日 12:01|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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