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J1・千葉の初勝利の要因と今後
ジェフユナイテッド千葉の今シーズン初勝利を告げるホイッスルが鳴り響くと、ホームのフクダ電子アリーナに鮮やかなコントラストが描かれた。
ゴール裏ではまるで優勝を果たしたかのようにサポーターが狂喜乱舞し、ピッチサイドには涙を流すチーム関係者の姿もあった。そして、雨が降りしきるピッチの上ではイレブンの大半が両ひざに手をあて、歓びよりも90分間を戦った後の脱力感に支配されている。
意外性あふれるプレーで攻撃陣をリードしたMF谷澤達也は、その場に座り込んでしばらく動けなかった。
「実は後半20分過ぎからすごくきつくて。バテバテだったけど、サポーターの声援が助けてくれました」
開幕から12戦目を迎えた5月10日。それまで2分け9敗とJ1勢で唯一白星を挙げられなかった千葉が京都サンガを1対0で振り切り、待望の勝ち点3をもぎ取った。
前節で浦和レッズに0対3と大敗した翌7日にヨジップ・クゼ監督を解任。8日には後任として、プレミアリーグの強豪リバプールでヘッドコーチを務めていたアレックス・ミラー氏を電撃的に招聘した。就労ビザの取得やJリーグへの登録手続きなどでミラー新監督がベンチ入りするには時間がかかるため、新監督の要望で8日にヘッドコーチ就任が決まった中京大学の沢入重雄前監督が京都戦までの練習の指揮を執った。
京都戦までわずか2日という限られた時間の中で、沢入ヘッドコーチが着手したのは11戦でリーグワーストの25失点と崩壊した守備の建て直し。不動のセンターバック斎藤大輔のポジションを上げ、4バックで構成する最終ラインとボランチ下村東美との間にもうひとつの「壁」を築くことで安定を図った。その一方で、同じく11戦で8ゴールと決定力不足に悩む攻撃陣には「もっとリスクを冒してもいい」と声をかけただけだった。
Jリーグ創世記に名古屋グランパスでFWとして活躍した沢入ヘッドコーチは、昨年にイギリスを訪れた際に知人を介してミラー新監督と知り合い、以来、親交を深めてきた。チームメートですら驚いた斎藤のコンバートに関しても新監督の意向が反映されていると見るのが当然で、京都を零封したことでまずは結果を出したことになる。
オフの間にDF水本裕貴(ガンバ大阪)、MF羽生直剛(FC東京)、山岸智(川崎フロンターレ)、水野晃樹(セルティック)、佐藤勇人(京都)と一気に5人の日本代表経験者がチームを去った。千葉を強豪へ育て上げたイビチャ・オシム氏の息子であるアマル・オシム監督も解任し、G大阪の監督時代にまだ高校生だった宮本恒靖や稲本潤一を抜擢したことで知られるクゼ監督に「若手を育てながら勝つ」ことを託した。
しかし、G大阪のときは軸になるベテランや中堅選手がいたからこそ宮本や稲本が自由奔放にプレーできる土壌が育まれたが、今シーズンの千葉が直面していた状況は大きく異なっていた。
経験が不足している若手でも一足飛びに主力扱いとなり、結果を残すことを求められ、ミスをすればクゼ監督から容赦なく叱責された。創造的な攻撃センスをもち、今シーズンですでに7試合に出場している高卒2年目のMF米倉恒貴などはよく前任者のターゲットにされたという。
必然的にチームからは「リスクを冒して攻める」という意識が薄まり、セーフティファーストの消極的なプレーを選択するようになる。黒星が積み重なればミスを犯すことや先に失点することへの恐怖感がさらに増幅される。負のスパイラルに陥った結果が2分け9敗という成績だった。
チームの精神的支柱であるDF坂本將貴は振り返る。
「サッカーの原点を忘れていた。ジェフのサッカーの一番大切な部分を見失っていました」
走る。闘う。リスクを冒す。すべてはイビチャ・オシム氏に3年半にわたって叩き込まれた「ジェフの礎」のはずだったが、同氏が日本代表監督に就任して以降の約1年8か月の間で曖昧になりかけていた。一気に主力が抜けたことで、次の世代へ伝わり切らなかった部分もあるのかもしれない。
だからこそ、沢入ヘッドコーチが発した「もっとリスクを冒してもいい」という短い言葉は選手たちの心に響くものがあった。自身を育ててくれた古巣の危機を感じ、わずか1シーズンでアルビレックス新潟から復帰した坂本は言う。
「何か吹っ切れた感じがする。今日のこの気持ちを忘れずにしていきたい」
後半23分の決勝点のシーンはカウンターからFWレイナウドが抜け出し、GKをかわして放ったシュートがポストにはね返ったところを全力疾走でフォローしていたMF工藤浩平が右足で押し込んだ。試合終了間際には相手のバックパスに対してレイナウドが猛然とプレッシャーをかけ、最後は矢のようなスライディングタックルを見舞うシーンもあった。
試合後に谷澤が漏らした「バテバテでした」という言葉は、チーム全員が原点に戻ってガムシャラに走り、闘い続けた証でもあった。
試合後の会見で、京都の加藤久監督は自軍に対して呆れた表情で90分間を振り返った。
「気力、運動量、出足の激しさ。あらゆるところでジェフの方が上回っていた。選手にはもう少し闘ってほしかった」
監督解任という「ショック療法」で開き直り、初勝利を手繰り寄せた千葉だが、もちろん手放しでは喜べない。チーム関係者の一人は、0対0の状態が続いた前半の最後の戦い方に肝を冷やしている。
「ズルズルと最終ラインが下がり、連敗中の悪いパターンが出ていた。後半に向けてよく修正できたと思う」
リスクを冒すという点でも、イビチャ・オシム氏がこだわったサイドチェンジは京都戦ではほとんど見られなかった。
何よりも、ショック療法の効果は長く続かない。今後は10日午前に来日し、初勝利をスタンドで見届けたミラー新監督の手腕にすべてが委ねられる。試合後に会見した新監督は「監督というチャレンジに、それも海外のクラブでできることに最大の魅力を感じた」と99年から務めてきたリバプールのヘッドコーチの座を投げ打った理由を説明した。ロンドン在住のイングランド協会公認代理人、遠藤貴氏を通じて監督就任のオファーを受けたのは4月の最終週だったという。
千葉の昼田宗昭チーム統括本部長は「まだリーグ戦の3分の1が終わったばかり」とミラー新監督に全幅の信頼を寄せながらチーム再建を託したが、初勝利を挙げてもJ1最下位という現実は変わらない。17位のコンサドーレ札幌との勝ち点差は5も開いている。残り22試合で勝ち点30を積み上げなければ、J1残留もおぼつかない。
古河電工として参戦した日本リーグ時代から下部リーグへ降格したことがない歴史をもつ千葉が迎えたクラブ史上最大の危機。冷たい雨の中でも約1万人がスタジアムを埋め、声をからして初勝利を後押しした千葉のサポーターにとって、08年のJ1戦線は12月の最終節までハラハラドキドキを余儀なくされそうだ。 (文・藤江直人)
2008年5月11日 03:12|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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