Home > インサイドレポート > プライドを捨てたガンバ大阪が浦和レッズを止めた

プライドを捨てたガンバ大阪が浦和レッズを止めた

[浦和レッズ 2対3 ガンバ大阪@埼玉スタジアム]


 目の前に置いてある選手用のペットボトルを、ガンバ大阪の西野朗監督はおもむろに手に取った。5分と表示されたロスタイムも4分が過ぎたころだった。声を出しすぎた喉を潤したかったのか。あるいは、興奮する心を落ち着かせたかったのか。試合終了と自軍の勝利を告げるホイッスルが敵地の埼玉スタジアムに鳴り響くと、指揮官は両拳を握り締めて空へ突き上げ、次の瞬間、ベンチに深く腰を落とした。
「非常にタフな試合だった。試合後は後味が悪い雰囲気になってしまったことが残念ですが、ガンバは死力を尽くしたと思う。この試合の重要性を選手たちが本当によく理解してくれた」
 歓喜のあまり終了直後のピッチでガンバ大阪の選手が輪を作って雄叫びを上げたことが浦和レッズと浦和サポーターを刺激し、選手同士の小競り合いやゴール裏のサポーター同士による乱闘が勃発。スタンドから落下したガンバ大阪の35歳の男性サポーター1人が右足首を負傷し、救急車で運ばれる騒動も発生した中で、西野監督は白星の重みを深くかみしめていた。


 優勝候補の一角に挙げられながら、開幕から勝ち切れない試合が続いた。11節を終えて4勝4分け3敗の10位に低迷。首位の浦和レッズとは勝ち点で10の差をつけられていた。くしくも、日本代表のワールドカップ予選による中断前の最終戦の相手は浦和レッズ。会場は過去に白星を挙げたことがない埼玉スタジアム。3シーズンぶりの優勝への望みをつなぐためには絶対に落とせない。この一戦にかける西野監督の思いは、後半37分の選手交代に凝縮されていた。
 FWバレーがアウト、DF水本裕貴がイン。
 その3分前にFWエジミウソンのゴールで3対2と追い上げられていた。約5万7000人の大観衆の声の塊に乗せられて、浦和の波状攻撃はさらに勢いを増そうとしていた。交代枠は残り1枚。西野監督は水本を投入することでセンターバックを2枚から3枚に増やし、1点のリードを守り切る采配に打って出た。
 果たして、ガンバ大阪はワントップのルーカスを含めた11人全員が自陣に引いて赤い悪魔のパワープレーに対抗する。体を張ってセンタリングを弾き返し、こぼれダマを大きく蹴り返す。戦術も何もない。文字通りの専守防衛。昨シーズンから貫いてきた4バックとパスをつなぐサッカーをかなぐり捨てた先に、歓喜の瞬間が待っていた。
 試合後の記者会見。西野監督は思いの丈を吐露している。
「ラインもポジションも何も求めない。クリアをしてそのまま(のサッカー)は本当はやりたくない。でも、対レッズということで、最後はやらざるを得なかった。これが今できる最大のパフォーマンスかもしれない」
 勝利の余韻に浸ることなくベンチに深く腰を落としたのは、精も根も尽き果てたこともあるが、それ以上に理想と現実のはざ間に揺れ動いた西野監督の心境を象徴していたのではないだろうか。


 今シーズンは4月13日のアルビレックス新潟戦と30日の大宮アルディージャ戦で残り5分を切ってから決勝点を奪われて敗れ、前節の横浜F・マリノス戦でも終了8分前に同点弾を浴びて引き分けている。土壇場で勝ち点を落とし、波に乗り切れない状態が続いてきたからこそ、DF山口智は指揮官の采配に後押しされたという。
「バタバタしかけた中で、守るんだという(西野監督の)メッセージが伝わってきた。水本が入ってきて集中し直せる部分がった。今日は先に点を与えないことと、最後は押し込まれる中でどこまで耐えられるかがテーマだった。今のウチにとっては、勝つことがとにかく大事なことですから」
 リーグ戦と同時進行でACL(アジアチャンピオンズリーグ)を戦ってきた過密日程の影響もあり、この日もMF遠藤保仁、DF安田理大の両日本代表がベンチスタートを余儀なくされ、FW播戸竜二は欠場した。しかし、MF橋本秀郎はそのACLにおいて苦戦を味わい、最終的にはチーム史上初の決勝トーナメント進出を決めた経験がチームに新たな力を与えたことを感じている。
「この間のタイでの試合(5月7日、対チョンブリFC)でも、最後はかなり泥臭く守ったんです。Jリーグでは僕らに対して相手が引いて守ることが多いんですが、今日はACLの経験が生きたと思う。サッカーの幅が広くなったとも言えますし、ガンバのサッカーじゃない、と言われればそれまでなんですけど(笑)。とにかく、この勝利を先につなげていかないといけない」
 セットプレーから1点目と3点目を奪った。前半ロスタイムの2点目は主審の微妙な判定に浦和が足を止めた間隙を突いたものだった。「いつもと違って、今日は攻め込めなかったのに効率よく点が取れた」と西野監督は苦笑いしたが、敵地の執拗な罵声を浴び、泥にまみれながら傷だらけになって手にした勝ち点3には思わず表情を崩した。
「Jリーグが面白くなるように、(6月25日の)中断明けで活性化するようには持っていけたかな」
 ホームの万博競技場における浦和レッズとの再戦はリーグ戦大詰めの11月29日。ゲルト・エンゲルス監督の就任後は8勝2分けと無敗だった浦和レッズを止め、プライドと引き換えに手にした勝利と自信がガンバ大阪を復調させれば、乱闘騒動の遺恨を引きずる一戦はリーグ優勝がかかる大一番となっているはずだ。


(文・藤江直人)


[得点者]中澤聡太(G大阪・前半17分)、山崎雅人(G大阪・前半44分)、梅崎司(浦和・後半8分)、遠藤保仁(G大阪・後半23分)、エジミウソン(浦和・後半34分)

2008年5月17日 18:43|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

トラックバック(0)

この記事のトラックバックURL: http://sv62.wadax.ne.jp/~sports-times-jp/mt/mt-tb.cgi/53

コメント(0)

コメントを書く