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北島康介の「うっとうしい」発言の真意

 北京五輪に出場する日本競泳陣のエース、北島康介(25)=日本コカ・コーラ=が18日、浮力を高めることで今年に入って17個の世界記録を誕生させている英国スピード社製の水着「レーザー・レーサー」を巡る騒動に対して初めて公の場で言及した。
 東京・辰己国際水泳場で開催された第80回早慶対抗水上競技大会で100mと200mの平泳ぎにオープン参加した北島は「速い水着が出れば着たくなるのは当然」と自らを含めた選手全員の本音を代弁。その上で、北京五輪で日本選手がスピード社製水着を使用できない問題だけに焦点が当てられている現状に「うっとうしい」と不快感をにじませた。


 北島に対しては前日の17日にアドバイザリー契約を結ぶミズノ社から改良品が提供されていたが、レースには4月の日本選手権で着用した同社製の「ウォータージーン」であえて出場。100mは1分0秒82とまずますの結果を残したが、200mでは2分15秒10と自身がもつ日本記録の2分8秒84に遠く及ばない記録でフィニッシュした。
 レース後には14日の練習前から右肩の腱に炎症を起こしていることを明らかにした上で、「今週はほとんど練習ができなかったこともあって体重が増えたのかも。故障がなければ、もう少し高い意識で臨めたんですけど」と苦笑いを浮かべた。しかし、ミズノ社の改良品を着用しなかった理由については曖昧な説明に終始した。
「皆さん、だいぶ期待されていたみたいですけど、残念ですね。(肩の)状態が状態なので。これからも新しいのを作っていただけるそうなので、チャンスがあれば試したいですけど。興味がないことはないので、コーチもいろいろと考えてくれていると思うので、その辺はその辺で」
 早慶対抗水上競技大会には、北島とともに平井伯昌コーチ(44)の指導を受ける女子背泳ぎ代表の中村礼子(26)=東京SC=もオープン参加。通常のアシックス社製の水着をスピード社製の「レーザー・レーサー」に変えて臨んだ中村は、100mで1分0秒02と自己の持つ日本記録に0秒19と肉迫するセカンドベストをマーク。200mでも2分9秒95と平井コーチの予想を3秒も上回り、同コーチをして「今の時期にこんなにいいタイムが出るわけがない。水着の効果は大きい」と唸らせた。中村自身も「調整を全然していない中でこの記録は、やはり速いと思う。浮力というか、バサロのときに加速しているような感じ」と効果に思わず目を丸くしている。
 当然のように、北島にも目の前で見た「レーザー・レーサー」への感想が求められる。
「やっぱり速いんじゃないですかね。他の選手もそう言っているようですけど、速い水着が出れば着たくなるのは当然。僕にあまり意地悪な質問をしないでください(笑)」


 現状では日本水連が契約するミズノ、アシックス、デサントの3社に5月30日を期限にスピード社製の水着に対抗できる改良品を提出するように要望。それをもとに選手の意見を集約し、6月10日の常務理事会でスピード社製水着を認めるかどうかの結論を出す。
――北島選手は、その流れをどのように思っていますか。 
「五輪はなるようにしかならないですからね。水着の問題がすごく先行しているので、僕としてはトレーニングを先行させたい。もちろん、選手が安心して五輪に臨めるのがベストですけど、まずは僕らがきちんと練習することが必要なんじゃないかと。速く泳ぐために水着以外の部分で練習をしてきたものがあるので。今はまだ時間があるので、きちんと力をつけて五輪で勝負したいという思いがあります」
――中村選手も平井コーチもスピード社製の水着の効果を認めていますが、北島選手としては試してみたいですか。
「ずるい(質問)ですね。後ろの方にミズノの人もいるので(言えません)。もちろん、興味はあります。速いと言われて、世界記録もたくさん出ているのだから当たり前ですよね。スピード社の水着はダメだ、という声はひとつも聞いたことがないですから」
――北京五輪へ向かう中で水着問題の持つ重みとは。
「正直言っていいですか? うっとうしいです。いろいろなところで聞かれますから。水泳にあまり興味がない人までが聞いてくる。本当になるようにしかならない。選手はみんなそう思っていますけど、(スピード社製水着が)世界で注目されているからこのような報道になっていることもわかります」
――どのメーカーの水着うんぬんよりも、水着騒動そのものが「うっとうしい」わけですね。
「僕個人の意見としてはそうですね。テレビをつければ水着問題をやっていますから。いろいろなコメンテーターの方があれだけ水着に対して話すのはなかなか見られないことなので、僕としては客観的に見ていますけど。もっと違う形で水泳が注目されたかった、という気持ちでいます」


 アテネ五輪で平泳ぎの2冠を獲得し、北京五輪でも2種目で優勝候補筆頭に挙げられる北島の言葉や行動が与える影響力は、他の選手とは比較にならないほど大きい。
 早慶対抗水上競技大会でミズノ社の改良品水着を試用すれば、当然のようにスピード社製水着との比較対照の格好の材料になる。ましてや、右肩痛を抱えている状態では、満足な泳ぎは到底できない。改良品の試用回避はアドバイザリー契約を結び、以前から厚いサポートを受けてきたミズノ社への北島流の配慮だったのではないだろうか。もちろん、水着騒動そのものも「北島」というビッグネームを触媒にしてさらに拡大していったはずだ。


 そして、「うっとうしい」発言は水着問題に浮き足立つことなく、8月の開幕までの限られた時間の中で自己を究極まで高めろという、競泳陣のリーダーとしての「檄」にも聞こえる。スピード社製水着の脅威に対して「水着のドーピングだ」という声とともに日本競泳陣に動揺が広がる中、アスリートとして最も肝心な部分をおろそかにすれば、例えスピード社製水着が解禁になったとしても五輪前で勝負は見えている、と伝えたかったのではないか。
 6月6日から8日まで壮行レースを兼ねる「ジャパンオープン」が辰己国際水泳場で開催される。五輪代表に決まった31選手は所属クラブ単位で参加するため、日本水連が契約する国内3社以外の水着、つまりスピード社製のものも着用できる。
「五輪本番で着られないのなら試しても仕方ない部分もある。選手にメダルを狙わせようとするならば、一番速いと言われる水着に基準を合わせたいというのが正直な思いです」
 平井コーチが競泳陣を指導する側の本音を代弁したように、6月10日へ向けて競泳界を取り巻く状況はさらに騒然としてくるだろう。早慶対抗水上競技大会が行われた会場にはミズノ社の関係者も駆けつけていたが、北島に提供した改良品に関しては「それを含めて、いろいろなものを検討している最中ですので」といっさい詳細を明らかにしなかった。刻一刻とタイムリミットが近づく中で、舞台裏はすでに慌しさを増している。
 それでも、北島が放つ、泰然自若としたオーラは変わらない。
「皆さんはすごく騒いでいますけど、僕は(水着問題を)深く考えていませんから。いっさいの不安はありません」
 当面は右肩の治療を進めながら、状況に流されることなく、北京での2冠獲得への土台となる筋力と持久力のアップを図っていく予定だ。


(文・藤江直人)

2008年5月19日 02:09|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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