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岡田ジャパンのキリンカップ優勝をどう見るべきか
[キリンカップ最終戦/日本代表 0対0 パラグアイ代表@埼玉スタジアム]
記者席のある5階から会見場のある1階まで通じる埼玉スタジアムのメーンスタンド下の階段を、スコアレスドローに終わったばかりの日本代表対パラグアイ代表を旧知の外国人記者と振り返りながら降りた。長く日本を拠点に活動している彼は、イビチャ・オシム前監督時代の日本代表の試合の大半を取材してきた。
「どこが変わったと思いますか」
岡田武史監督が目指しているサッカーとの違いを聞いてみると、彼は首をかしげながら同じ言葉を繰り返した。
「セイム(同じ)、セイムです。今日はパス、パス、パスでした」
南米の曲者パラグアイを埼玉スタジアムに迎えたキリンカップ最終戦。6月に待つワールドカップ・アジア3次予選の4連戦をにらみ、岡田監督は24日に行われたコートジボワール戦から7人を入れ替えて引き分けでも優勝が決まる一番に臨んだ。
25日のチーム合流初日に左太ももの裏の違和感を訴えたMF中村俊輔の先発にめどが立ったこともあり、中盤にはボランチの中村憲剛と鈴木啓太、トップ下に山瀬功治、その左右に遠藤保仁と中村の5人を配置。ワントップには巻誠一郎が入った。コートジボワール戦の4-4-2から4-2-3-1へ。岡田監督の脳裏には期待感と、そして不安とが同居していた。
「今日のメンバーを見れば、こういう展開になる危険性も十分にあった。ただ、一度やってみないとわからないのでトライした」
キックオフから面白いようにショートパスがつながる。パラグアイが自陣に引き気味だったこともあるが、テクニシャンのMF陣を中心にした日本のボールポゼッションはパラグアイのそれをはるかに圧倒した。
しかし、パスのサイズ、方向、速さがほとんど変わらない。中村俊を経由したときにはリズムが生まれ、前半17分、40分と決定機が訪れたが、大半の時間帯でパス回しに酔っているようなシーンが繰り返される。前線へクサビを入れれば、必ずといっていいほど巻がボールを失う。主力が来日していないパラグアイの攻撃が単調だったから助かった、と言っても決して過言ではないだろう。
図らずも、岡田監督が抱いていた不安が現実のものとなった。
細かいパスをつなぐスタイルはオシム前監督も標榜したサッカーだったが、サイドチェンジの意識が希薄だった分だけ、オシム時代よりも攻撃は単調だった。後半7分、右サイドの中村俊から左サイドの中村憲に約40mのパスが通り、相手ゴール前へ惜しいクロスが入ったのが唯一のサイドチェンジの成功シーンだった。ボールも人も動いた前監督時代から、この日のパラグアイ戦ではボールに比べて人が動くことはほとんどなかった。
左太もも裏の違和感を忘れたかのように90分間フル出場した中村俊も、単調な攻撃に終始した味方に注文をつけている。
「一度ボランチに下げて、サイドを変えてから攻めていけばいいのに。右サイドでオレがフリーになっているのに、左サイドで長友君と(鈴木)啓太君とで短いパスを繰り返していたこともあった。ボールを回せているけど、3人目の動きがなかった」
後半開始からは遠藤に変えて松井大輔が投入され、山瀬と2人で相手の最終ラインの裏を突く戦法も加えたが、逆にゴールの予感が消えてしまう。パラグアイのヘラルド・マルティノ監督からは「日本は前半と後半とでまったく違うチームだった。後半の日本は自滅したというか、自分自身でチームのレベルを下げてしまった」と選手交代を含む岡田監督の采配をむしろ歓迎されてしまった。
これには、岡田監督も黙ってはいない。
「後半から松井が入って(前線への)運動量が出たことで、確かにボールポゼッションは減ったけど、相手の最終ラインのウラを取るといういい面も出たと思っている」
FW玉田圭司のファインゴールで1対0で勝利した24日のコートジボワール戦では、特に前半において前線からの激しいプレス、ボールを奪ってからのサイドへの展開、2トップを中心とした素早い攻撃を徹底。日本サッカー協会の川淵三郎キャプテンをして「素晴らしい試合」と言わしめた。
しかし、パラグアイの攻撃スタイルはまず最終ラインからロングボールを前線に当てるパターンが多く、中盤を省略するゆえにプレスの網にもかかりにくい。その意味でまず中盤を厚くして、日本のボールポゼッションを高める選手起用に変えたのは当然の選択だったが、ワントップのところでボールが収まらなければパス回しで時間は稼げても相手に脅威は与えない。
故障明けでコンディションが悪く、何よりも「利き足は頭」と公言する巻が後半18分にベンチに下がるまでに放ったシュートは0本だった。この数字こそが、相手のペナルティーエリアが近づくほどに攻撃陣が「エンスト」状態に陥っていたことを何よりも端的に物語っている。
ワールドカップ・アジア3次予選のグループ2で、現時点で日本と1勝1敗で並んでいるオマーンについて、岡田監督は攻守両面でパラグアイに近いイメージを描いている。いわば「仮想オマーン」のパラグアイと対峙した4-2-3-1の布陣こそが、3月にバーレーンに苦杯をなめた直後に指揮官の口を突いた「脱・オシム路線宣言」に対する回答のひとつなのではないだろうか。
会見では岡田監督はこう語っている。
「前半に関しては、ボールをきちんと動かすことはまったく悪くない。パスを3本つなぎ、その間に1人がウラを突くようなプレーができれば問題はない、とハーフタイムに選手たちには言った。正直に言うと、両方が出ればと欲張りに思っている」
両方とは高いボールポゼッション率と相手の最終ラインのウラに飛び出す動きとなるが、だからこそワントップの人選が最も重要になってくる。巻に代わって投入された高原直泰も、シュートを1本も放てないまま試合終了のホイッスルを聞いた。
所属する浦和レッズでの不調を代表チームにも引きずっている感のある高原に関しては、会見でも「現状をどう見ているのか」という質問が飛んだ。
岡田監督の答えは単純明快だった。
「今日の試合にスタメンで出ていないことにもあるように、高原の現状は決して我々が満足するものでも、本人が満足するものでもないと思っている。ただ、環境が変わってしまうと(順応するのに)時間がかかる選手もいる。高原は代表でも出場試合数の半分に近いゴールを挙げている。彼が本来の姿を取り戻すことは我々にとっても極めて重要であり、その意味では忍耐が必要だ。マスコミの皆さんにも、同じく忍耐力をもっていただきたいと思っています」
パラグアイ戦を終えた時点でキャップ数57、日本歴代6位の23得点を挙げているエースへの厚い信頼感。これには高原も「1試合で必ず一回はチャンスがくる。それを決めないといけない」と自らに言い聞かせるように復活への決意を新たにしていた。
進行中の3次予選は、4か国中で上位2位までが9月開幕のアジア最終予選に進むことができる。つまり、6月2日にホームの日産スタジアムで行われるオマーンとの直接対決は、場合によっては南アフリカ切符獲得に赤信号が灯る事態を招きかねない。
その前哨戦となるキリンカップの優勝を告げるホイッスルが鳴った瞬間、岡田監督はコーチ陣と握手を交わし、ピッチ上の11人は半ば呆然と立ち尽くした。あまりに遠かったゴールが、6月決戦への不安を増幅させていたのか。笑顔ひとつない異例の優勝決定シーンだった。
GKが川口能活から楢崎正剛に代わり、左サイドバックには21歳の新星・長友佑都が抜擢され、ディフェンスもオシム前監督のマンツーマンからゾーンに切り替えられた。その結果として2戦連続で完封を達成したが、岡田ジャパンにおいてもともと守備に関しては計算が立っていたのも事実。当たり前のことだが、ゴールを奪わなければ勝てない。そして、ゴールへの道筋、つまり岡田監督が唱えた「俺のやり方」がキリンカップの2試合で鮮明になったとは言い難い。
パラグアイ戦の入場者数2万7998人は、埼玉スタジアムにおける日本代表戦のワースト記録を大幅に更新した。平日のナイターという点を差し引いても、ブランドとして確立されていたはずの「日本代表」に対して、特に第2次岡田体制になって以降はサポーターから厳しい視線が向けられていることは紛れもない事実だ。
オマーンとは04年に3度対戦し、いずれも日本が1対0のスコアで辛勝している。FIFAランクは日本の方が上だが、決して楽に勝てる相手ではない。かつてない逆風の中で刻一刻と6月2日が迫ってくるが、チケットの前売り状況は27日の時点で3万枚に遠く及ばない。 (文・藤江直人)
2008年5月28日 05:56|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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