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約7か月ぶりのオシム節を堪能してください!

 サッカー前日本代表監督のイビチャ・オシム氏(67)が4日、日本サッカー協会のアドバイザー就任を受けて東京・文京区のJFAハウスで記者会見した。昨年11月16日に脳こうそくで倒れて以来、初めて公の場で発言したオシム氏だったが、開口一番に「向こう側の世界まで行って戻って参りました」と集まった報道陣を笑わせるなど、ユーモアとウィットに富んだ「オシム語録」は健在。そのすべてを公開します。


 午後5時。約200人の報道陣が集まった記者会見は、10分近く続いたオシム氏の「復活宣言」とともに幕を開けた。
オシム氏 「向こう側の世界まで行って戻って参りました。私の復帰に激励を寄せていただいた皆さんに改めて感謝申し上げます。私も努力してこの場に戻ってきました。それはプロとしてやらなければならないと思う努力をしてきたからです。新聞記者の皆さんもプロとして努力してもらいたいものだと思います。
 こんなにたくさんフラッシュをたかれると知っていれば、サングラスを持って来たのですが。こんなに多くの方が来るとは誰も言ってくれませんでしたね。もう少し顔のお化粧でもしてくればよかったですね。それはともかく、人間誰でも人生の中でひとつ、何かこれだけはしたいという希望があるものです。それがあったからこそ、私は向こう側から戻って来ることができました。つまり、私がやり始めたことを完成できなかった。その思いが私の復帰を後押ししたということです。
 私だけでなく、生きている人間であれば何かやり遂げたいという希望や目標があって当然です。私が代表監督の要請を引き受けたときの希望というのは、日本をワールドカップに導くことが最低限の仕事であると思っていました。もちろん、それだけでは十分ではありません。もっと大きな希望もありました。それについて、いつも夢を見ておりました。しかし、その夢の中身は教えません。あまりにたくさんの夢を見過ぎましたから、この場で言うには時間が足りません。
 そのうちのひとつは、日本のサッカーは自分自身の力でもっとよくなることができるということです。それをうまく生かすことができれば、日本が世界チャンピオンになることも無理ではない。それは大き過ぎる夢かもしれませんが、夢を見るのはいいことです。少々時間がかかるかもしれませんが。
 先に言わなければならないことを忘れてりました。(専務理事の)田嶋さんに対しても、日本サッカー協会の皆さんに対しても、私をアドバイザーとして要請してくださったことにまず感謝を申し上げます。日本語があまりできませんが、覚えた日本語のひとつに『頑張れ』という言葉があります。『戦え』ということですね。今度は私が皆さんに『頑張れ』と申し上げる番です。頑張らなければ前進はしません。その際に忘れてならないのは、サッカーはただ戦えばいいというものではないということです。ある種の技術を身に付けなければならない。美しいサッカーをしたければ特にそうです。世界中にたくさんの紛争や戦争があります。だから、サッカーだけは戦えば済むというものにしたくないのです。
 アドバイザーを引き受けましたけど、ここにこんなに新聞記者やカメラマンの方がたくさん来ているのを見ると、私には少し荷が重いかなという気持ちもして参りました。というのは、皆さん全員にアドバイスを送るには、私一人では足りないと思うからです。新聞記者やジャーナリストの皆さん一人一人がサッカー界にとってのアドバイザーです。でも、その数が少し多過ぎるかもしれませんが。いずれにしろ、私は自分ができる限りのことをしたいと思っています。約束できるのは私ができる範囲で、ということです。
 もうすぐヨーロッパ選手権があるために(オーストリアの自宅に)帰りますが、できるだけ多くの試合を見て、そこで起こっているサッカーの新しい発見があれば、それを見逃さないようにしたいと思います。ジャーナリストの皆さんからも私の闘病中に激励をいただきました。あらためてお礼を申し上げます。私は日本サッカーの日本化ということを掲げて仕事を始めたわけですが、今その望みは後任の方に引き継いでもらうことになりました。これからは日本のチョコレートの日本化にでも取り組もうかと思っています。というのは、ユーロの開催国のひとつがチョコレートで有名なスイスだからです。だから、(再来日するときの)お土産はチョコレートにしようと思っています。ちょっと長くなりました。皆さん、ありがとうございます。しゃべりすぎましたね」


 以下は質疑応答。当然のように日本代表監督の件に集中する。
――闘病途中で後任監督が決まった時の気持ちを聞かせてください。また、就任要請があるなしにかかわらず、再び日本代表監督をやってみたいという気持ちはありますか。
オシム氏 「私が生き残るという保障がなかったので後任監督を決めたわけではないでしょう。私はどんな場所にいてもサッカーの話をするのが大好きです。どんな仕事をするにしろ、私は日本に来て日本のサッカー界に何か自分がしたという痕跡を残したいと思っています。ひょっとしたらとんでもない痕跡を残すことになりやしないか、と心配していますが。
 私がそもそも仕事を引き受けたのは、日本のサッカーに何かよい方向での変化を与えようとしたからです。ただし、私自身(脳こうそくで倒れることは)まったく予想していませんでした。残念なことに病気になってしまい、その仕事を続けることはできなくなってしまいました。ですから、その分、私は別の形で貢献したいと思います。
 以前ほどではないかもしれないですけれども、皆さんの前で冗談をしゃべることもできるようになったし、サッカーに関する考えとか知識とかも失われてはいないと思っています。その範囲で貢献したい。ですから、私がここまで申し上げてきたひとつひとつの単語について、全部シリアスには受け取らないで下さい。夢を見ることは禁じられていません。夢を見たっていいじゃないですか。皆さんも夢を見るでしょう。その夢の方向が少しでもそろっていけば、日本のサッカー界は前進するのではないですか。そこから変化が始まります。
 そろそろ、カメラのフラッシュをたくのを控えていただけませんか。まぶしくなってきました」
――日本代表監督として復帰したいという気持ちはありますか。
オシム氏 「意欲がないなら引き受けない方がいいですね。ここの壁に寄りかかったらどうなるかわかりかせんけど、日本サッカー協会は私がこの重い体で寄りかかっても大丈夫なほどしっかりとした組織だと思いますよ。
 先ほど申し上げた通り、アドバイザーというポストに関しては私は感謝しております。私をそこまで信頼してもらったことを嬉しく思います。そういう信頼関係があるということです。やりかけた仕事の一部を続けさせていただくということです。これまで私がやってきた痕跡がこれだと示す時間はあまりありませんでした。しかし、別の方向で今後はポジティブな変化を与えていきたいと思っております。そこでよくやったと皆さんがお気付きになっていただけるのなら、私にとってそれほど嬉しいことはありません。
 新しい仕事は、新しい責任です。そのうちのひとつは、私が引き続き健康であることです。体をもっとよくするというリハビリテーションも含まれていると解釈しています。ただ命を永らえるということではなく、もっとよくなるということですね。
 私の人生はずっと戦いの連続でした。選手時代は相手チームの選手と、監督時代は自分のチームの選手と、そして代表監督になってからは新聞記者の皆さんとです(笑)。でも、負けたとは思っていませんよ。まだまだ心臓が動く限りは戦い続けます」
――(通訳に対して)質問と答えが違っているように思えますが。日本代表監督への再就任に関してどう思われていますか。
オシム氏 「もちろんベンチに座りたいという気持ちはありますよ。でも、ベンチで死にたくないという気持ちもあります。見ていてあまりスペクタクルではないでしょう」
――日本の選手に足りないところ、早急に学ばなければいけないことは。
オシム氏 「言いたいことはたくさんあり過ぎて、この場では簡単にまとめることができません。そんな単純なものではないと思います。一般論でお話しますが、第一に日本のサッカー選手はもっと走らなければいけません。いいサッカーをするためには、もっと走る量を増やさなければいけない。走るだけではなくて、一般に日本の選手は技術があるように見えますけど、それには実はクエスチョンマークがつきます。つまり、技術のレベルをもっと上げなければいけないということです。
 小さな子供の時期から動きながらのプレーをもっと習得しなければいけません。現代のモダンサッカーの方向というのはプレーの速さがアップしています。それに伴って、考えるスピードを速めること、走るスピードを速めること、これが最低限の前提になります。その上で速いプレーが可能になります。速いプレーを可能にするためには、もっと高い技術を身に付けなければいけません。これは一般論ですよ。ディテールについては、ここでは控えさせていただきます。
 それが一般的な意味での日本サッカーに対する私の印象です。ここからシンプルに始めればいいのですが、新聞記者の皆さんは難しく考え過ぎてはいませんか。サッカー強国がなぜ強いかという分析をし過ぎていませんか、ということです。そこでイミテーションを繰り返しても彼らを超えることはできないでしょう。真似をするということはいいことではありません。ですから、日本のサッカーはコンプレックスから開放されて、自分たちのストロングポイントを自覚することです。
 トゥーロンの国際大会でオリンピック代表がフランスとオランダに勝ちましたよね。あの方向でいいと思います。あれがひとつのサインです。あれを見習うべきです。つまり、強いチームに対していい戦いができるんだ、という自信を身に付けてほしいのです。もちろん、相手をリスペクトする必要はあります。しかし、サッカーというのは演劇と違い、あらかじめ勝者が決まっているわけではありません。スポーツなんです。また話し過ぎてしまいましたね」
――現在の岡田監督とチームに対しての印象を聞かせてください。
オシム氏 「私は自分の後任について印象を述べるときには、もっと深く知り合いになってからお話しします。あなたとまだ十分に知り合いにはなっていません。そういう質問をして、私が何かを言うと思っていましたか。私は審判者ではありません」
――現在の生活で以前と比べて変わったところはありますか。例えばお酒を飲まなくなったとか。
オシム氏 「(質問を遮るように)代わりに今、水を飲んでいますよ」
――あとは、岡田監督とはこれまでに話す機会はありましたか。
オシム氏 「先ほどの質問の方に対したのと同じ答えを返さなければいけません。こういう場でお話することではありません。軍事機密というわけではありませんが、具体的に何か言いたいことがあれば本人に直接言いましたし、言うでしょう。一般的に、こうすればもっとよくなるでしょう、という話をすることはできるかもしれませんが。批判をすることはこの場ではありません。よかったことについてはお話できるかもしれませんが」


 この時点で会見は30分を超えたが、オシム節はますます冴え渡ってくる。
――アドバイザーとして、具体的にまず何をしたいのでしょうか。
オシム氏 「アドバイザーとしての最初の仕事は、皆さんからのデリケートな質問にどう答えるかということです。口を滑らせてしまって仕事を台無しにしたくありませんから。何か失言したら、これから10日間に渡って毎日新聞をにぎわすかもしれません。ですから、集中力が大事です。そういうネガティブなことは避けなければならない。それは何かを怖がっているわけではなりません。私の後任者に限らず、私以外の誰かを結果として困らすことは起こらないようにしなければいけませんね。
 あるいは誰かが何かを言ったのを皆さんが歪曲して、誰かがオシムの批判をしているという記事を書くことも可能でしょう。そうすると、裁判所にもし呼ばれたときに『気をつけなさい』という判決を受けることもありうるわけです。あるいは私が何かを言ったことを『自己批判をしている』と書かれても困ります」
――アドバイザー契約は今年12月までですが、その先はどうなりますか。痕跡を残すにしても、半年では短すぎるような気がします。
オシム氏 「まずドクターの許可をもらわないと何もできません。何か必要な手順を飛ばすということはできません。『うさぎを捕まえる前にあれこれ心配するな』という諺の通り、まず日本代表が南アフリカ大会に行けるということが確定してから考えます。日本代表が予選を突破すれば、もうアドバイザーは必要なくなるかもしれない。アドバイスがなくても立派な戦いができるようになるかもしれない。そのときに田嶋さんが私に新しいポストを用意してくれなら考えますが。私にしてみれば、実際に現場でサッカーを見たい気持ちはあります。南アフリカには行きたいです。ただ、ドクターと女房の許可を得る必要がありますが」
――欧州選手権を観戦する予定と聞いていますが、注目している国や選手はありますか。
オシム氏 「これまで優勝したことがない新しいチームにチャンピオンになってもらいたいです。注目選手はクリスティアーノ・ロナウド、と言ってほしいんですよね。そうはいきません。サプライズがあればいい、と思っています。例えばロシアとかルーマニアとか。私に関係しているから言うわけではありませんが、クロアチアもサプライズを起こすポテンシャルは持っています。まあ、半分希望もありますが。どうせなら、貧しい国が金持ちの国を倒してほしいです。金で選手が買える国や勝って当然というのはつまらないじゃないですか。日本にとって反面教師や参考になるような結果になればいい。またフランスやイタリアが優勝するようなことがあれば、日本にとって学ぶべき点が多いとは言えないと思います。いずれにしろ、高いレベルのサッカーがプレーされることを希望します。つまりそのレベルを目指して日本が追いつこうという目標が設定されるわけですよね。
 革命的な変化ないでしょう。こうなるだろうという、約束されたものが実現する可能性がいつも高いとは限りません。なぜなら、監督という者はリスクを恐れているからです。恐れるものなのです。そこで怖がっていたら、進歩することは難しい。リスクを冒さなければ得られない。虎穴にいらずんば虎子を得ず、です」


 司会役から「長時間になてきたので」とオシム氏の体調を気遣い、最後の質問にすることが告げられる。
――最近のJリーグ自体の印象を聞かせてください。
オシム氏 「(Jリーグを)見てはいけませんか(笑)。先ほども言ったように、病気から復活することができたのはサッカーのおかげです。私が何者であるかということを忘れないために試合を見に行きました。サッカーが原因で病院に行かなくてはいけなくなりましたが、そこから戻るのもサッカーの力でした。ですから、試合を見に行ってもいいじゃないですか。サッカーを見ることが私にとっての生活復帰の一番の手始めです。
 印象についてですか? 少し前に言いましたよね。私の話を聞いていましたか? 耳に入っていても頭で理解していなくては同じですよ。つまり、走りが足りない。走らなければいいサッカーはできません。それにいい技術がなければ速いサッカーはできません。そこを改善することが、進歩というより、日本サッカーが生き残る道です。まず走ることです。
 そこで残念なことは、日本サッカーの中にこういう傾向があります。つまり、上手な選手は少ししか走らなくていいと考える傾向です。それを直さなければいけません。逆ですよ。テクニックのある選手がたくさん走れば、もっといいサッカーができる。そのように考えてはどうですか? まずそこから直しましょう。だからといって、そういうサッカーを許している監督さんたちを批判していると書かないで下さいね。監督を批判しているのではありません。走らない選手たちを批判しているんです」
 ここで会見の終了が告げられる。時間にして40分以上。「もっと走れ」と訴えた際には、手を振るゼスチャーも忘れなかった。志半ばで日本代表監督を退任せざるを得なかったオシム氏だが、日本代表チームへの深い愛情は変わらない。岡田ジャパンのさらなる成長を願うからこそ、一般論と前置きする配慮をほどこしながら檄を飛ばしたのだ。
 杖の必要もなく、元気に席を立ったオシム氏だが、あふれんばかりのカメラのフラッシュの洪水を前にすると去り際にも口を開かずにはいられなかった。
オシム氏 「生まれてこのかた撮られた写真の枚数よりも、今日一日で撮られた枚数の方が多いと思います。こんなにたくさんのカメラマンが来るなら、違うネクタイをしてくればよかったですね(笑)。イタリアの言葉で『マスコミの沈黙』という表現があります。それにはふたつの意味があり、ひとつは選手や関係者にマスコミにはしゃべるなというかん口令を敷くこと。もうひとつが誰にも文句を付けられないぐらい立派な内容といい結果を残して、マスコミからの批判を寄せ付けないということ。沈黙させることです。
 ですから、私がここで自由にしゃべったことは、日本サッカー協会にとって大きな賭けであったことでしょう(笑)。つまり、私は何をしゃべっても大丈夫だということですね。もし、次の記者会見が開かれれば、の話ですが。
 もう帰ってもいいですか。どうも皆さん、来てくださってありがとうと言うのを忘れていました。こんなにたくさんの方々が来てくれたということは、リハビリをもっと頑張れということだと勝手に解釈します。皆さんと南アフリカでお会いできるように、日本代表が予選を突破することを祈りましょう。日本代表のいい活躍を記事にしてください」 (了)

2008年6月 5日 03:59|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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