2年7か月ぶりの中田英寿
サッカーの元日本代表MF中田英寿氏(31)が、約2年7か月ぶりに日本のファンの前でプレーする勇姿を披露した。中田氏が呼びかけ、地球環境のためにできることを考えようと企画された「+1 フットボールマッチ」が7日に日産スタジアムで行われ、中田氏がキャプテンを務めるジャパン・スターズとジョゼ・モウリーニョ監督率いるワールド・スターズが対戦。中田氏は90分間フル出場で、日本代表として出場した05年11月のアンゴラ代表戦以来となる日本のピッチで躍動した。試合はジャパン・スターズが前半にFW大黒将志とMF沢登正朗氏のゴールでリードしたが、後半にワールド・スターズの元トルコ代表FWイルハンが2ゴールを挙げ、2対2で引き分けた。
スタンドを埋めた観客数は6万3143人。5日前に同じ日産スタジアムで行われたオマーン代表とのワールドカップ・アジア3次予選の4万6764人を大きく上回った。少しでも多くのファンに足を運んでもらうために、「+1 フットボールマッチ」のチケットが最も高額なもので3000円と安めに設定されていた事情もあるが、電撃的な引退から2年近い歳月が流れた今現在でも中田氏の集客力とカリスマ性が衰えていないことを証明するには十分過ぎる数字と言えるだろう。横断幕の中には「戻ってこいヒデ」と現役復帰を熱望するものもあった。
ファンの視線を一身に集める中で、中田氏は前半23分に相手GKの正面を突いたものの約30mの強烈なロングシュートを放ち、27、29分には前線へ鋭いスルーパスを通してスタジアムの大歓声を誘った。両チームを通じて90分間フル出場したのは中田氏を含めて3人だけで、「発起人」としての役割も十分に果たした。それでも、この一戦に向けて古巣の湘南ベルマーレの練習に参加して入念に体をつくり、東京ヴェルディとの練習試合で感覚を磨いてきた中田氏はスタンドを埋めたファンに感謝しながらも「思うように体が動かなかった」と自身のプレーには不満げな表情を浮かべた。
中田氏 「本当にたくさんの観客に入っていただき、たくさんのメディアの方にも来ていただいて、いい環境が整った試合だったと思います。ただ、正直、もうちょっとプレーできるかな、観客を沸かせるくらいはできるかな、と思っていたので、その点では物足りなかったです。全体として、もう少し盛り上がれるプレーができればよかった、と思います。試合としてプレーする限りは勝ちたかったです。ただ、今回の試合に関しては勝つか負けるかという以前に、いかに試合を盛り上げるかが大事だったので(いいプレーが)足りなかったのではないか、と思います」
後半終了間際にはMF北沢豪氏からの折り返しをボレーで狙ったが、足腰の踏ん張りがきかなかったのか、ボールをミートすることができなかった。そうしたプレーを悔しがる表情は現役時代さながらの勝負師のそれだったが、その一方では「エンターテイナー」の才能も発揮していた。
ジャパン・スターズのFWは大黒とアトランタ五輪代表の松原良香氏の2人だけ。実は究極の「サプライズ」として、日本歴代1位の国際Aマッチ通算75ゴールを誇る往年の名ストライカーで、ジャパン・スターズの監督を務める64歳の釜本邦茂氏に出場を打診していた。試合前日の6日、2人はこんな会話を交わしている。
釜本氏 「満員の観客の前でプレーをすれば醜態をさらすかもしれないよ」
中田氏 「最後の5分だけ出て、集大成にしてください」
シュウタイを引っ掛ける巧妙? なジョーク。実際、2対2で迎えた残り8分で釜本監督が「FW釜本」としてMF永井秀樹に代わってピッチに入って以降は、スタジアムは異様な盛り上がりを見せた。MVPを獲得したアヤックスのMFエドガー・ダービッツのプレーに代表される本場欧州のテクニックと力強さで酔わせるだけでなく、フレンドリーマッチとしてもファンを楽しませた。試合後の監督会見では「蜂の一刺しでMVPを取ろうかな、と思っていたので残念です」と報道陣を笑わせた釜本氏は、中田氏のプレーについてはこう語っている。
釜本氏 「何かを求めてこの2年間、いろいろなところでいろいろなことを学んできたと思います。ですが、やはりファンの人たちは、私もそうなんですけど、彼の力は十分に(現役で)通用すると感じたと思います。年齢的にも老け込む時期ではないし、ある意味では一番いい時期ではないかと思います。もう少しフィジカルやスタミナをトレーニングすれば、世界のどこでもプレーできる選手なのではないでしょうか」
ワールドカップ・ドイツ大会で日本代表が敗退した直後の06年7月に突然現役を引退した中田氏はその後、世界中を周って環境や貧困の問題を自身の肌で感じてきた。その中で抱いてきた思いをファンと共有したい、という思いから発案されたのがこの一戦を含む「テイク・アクション2008」プロジェクト。地球環境に対して「なにかできること、ひとつ。」と訴えて観客全員に短冊を配布し、誓いを立ててもらうことで問題意識を啓蒙する工夫も施した。
サイクロンに襲われたミャンマーと大地震が発生した中国・四川省を対象にした一口500円のチャリティーも募り、この日だけで892万9500円、人数にして1万7859人分の賛同を得た。そうした中田氏の姿勢とファンを引きつけるカリスマ性は、サッカーを通じて地球環境問題に取り組んでいる元オランダ代表MFでACミランに所属するクラレンス・セードルフをも魅了した。
中田氏の影響力を目の当たりにしたセードルフは試合後のミックスゾーンで「ナカタとジョインすることで、もっと大きなムーブメントにしてしていけるはずだ」と笑顔でさらに大きなビジョンを披露し、メディアを通じて協力を呼び掛けた。
試合後の記者会見。黒い帽子をかぶり、白いTシャツに黒のベスト姿とすぐにでも次の目的地へと旅立ちそうな姿で現れた中田氏は、終わったばかりの90分間とこれからについてこう語っている。
中田氏 「この先(このような)試合をやるかどうかは、今言えることはありません。何をやるかは具体的には言えませんが、今回の一回だけで終わらせることはありません。サッカーにどれだけの力があり、どれだけの人々を魅了しているのか、という自分が旅を通して感じてきたものが実感できた試合だったと思う」
現役復帰待望論がさらなる高まりを見せる中で、31歳の中田氏はつかの間の「サッカープレーヤー」から「旅人」に戻り、再び公の場から姿を消した。次にその雄姿をピッチで見られるのはいつか。判明しているところでは、12月に日本で開催される世界クラブ選手権にオセアニア代表で出場するニュージーランドのワイタケレが補強選手として中田氏に白羽の矢を立て、出場を要請してきている。 (文・藤江直人)
■得点者 [ジャパン・スターズ]大黒将志(前半32分)、沢登正朗(前半39分)
[ワールド・スターズ]イルハン(後半26分、28分)
■出場メンバー [ジャパン・スターズ]GK下川健一(曽ヶ端準、林彰洋) DF名良橋晃(柳本啓成)、秋田豊(下平隆宏)、中西永輔、中村忠(奥大介) MF山口素弘(遠藤彰弘、秋田豊)、沢登正朗(北澤豪)、前園真聖(岩本輝雄、山口素弘)、中田英寿 FW松原良香(永井秀樹、釜本邦茂)、大黒将志
[ワールド・スターズ]GKラマ(オルランドーニ) DFゼ・マリア(マルキオンニ)、モンテーロ(ホン・ミョンボ、ダービッツ、アウダイール)、ロッキ・ジュニオール(ダクール)、アルメイダ(フェラーリ) MFダービッツ(スン・ジ)、セードルフ(アレニチェフ)、セルジーニョ(エムボマ)、イ・ホ(ジュリオ・セザール) FWサモラーノ(モントリーボ)、スキラッチ(イルハン)
※秋田、山口、ダービッツは一度ベンチに退いてから再出場
2008年6月 8日 01:24|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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