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岡田武史監督「俺のやり方」の正体と最終予選への不安

[ワールドカップ・アジア3次予選第6戦/日本代表 1対0 バーレーン代表@埼玉スタジアム(観衆5万1180人]


 残り5分。0対0の均衡を破ろうと、DF闘莉王が自らの判断で最前線へとポジションを変える。決死のパワープレーが始まろうとしていたとき、スタンドのファンの一部は出口への移動を開始していた。3次予選の1位突破を決める勝利への期待よりも、交通の便が悪い埼玉スタジアムからの家路を優先させたのだ。20歳のDF内田篤人の代表初ゴールとなる幸運な決勝弾がネットを揺らしたのは、3分間のロスタイム突入が目前と迫り、席を立つ人の波がさらに目立つようになった瞬間だった。
 ファンが現実的な選択を下したのも無理はない。14日にアウエーで行われたタイとの第5戦で3対0と勝利を収め、帰国する機中でオマーンがバーレーンと引き分けたために、日本、バーレーンともにアジア最終予選進出が決まっていた。この日はいわば消化試合。しかも、天候は冷たい雨。そうした状況下で、主導権を握りながらゴールを奪えない、という相変わらずの試合展開を見せつけられてはファンもたまらない。
 その決勝点も、相手のクリアを内田がヘディングで返したところ、FW巻誠一郎の猛ダッシュにつられたGKとDFがお見合い。ワンバウンドしたボールはGKの頭を超えて、ゴールにゆっくりと吸い込まれた。「DFのミスだった」。試合後の会見でバーレーンを率いるチェコ人のミラン・マチャラ監督も思わず苦笑いするほどのお粗末なシーンだったが、その瞬間、岡田武史監督は何度も派手なガッツポーズを繰り返していた。
岡田監督 「選手が最後まであきらめずに点を取りにいってくれた。このチームの指導者ができて幸せだと思っている。決してカッコいい、きれいな得点ではないけど、スマートで上手い選手たちが泥臭く点を取ってくれたことが非常に嬉しい」


 タイ戦が終わった直後から、指揮官はバーレーンとの最終戦に異常なまでの執念を燃やしていた。思わぬ苦杯をなめた3月のアウエーでの一戦を「サッカー人生で最大の屈辱」と位置付け、例え消化試合になっても「自分のプライドと日本サッカーのプライドをかける戦い」とまで断言。最終予選初戦での出場停止を考慮し、イエローカードを一枚もらっているDF駒野友一、MF長谷部誠、松井大輔こそベンチから外したものの、タイ戦前から右足首痛を抱えるMF中村俊輔は迷うことなくスタメンに起用してフル出場させた。殊勲の内田は試合後、岡田監督から「パワープレーでも何でもいいから、何がなんでも点を取れ」と指示を飛ばされていたことを明らかにしている。
 対するバーレーンは、ベンチ入りできる18人を下回る17人での来日。試合前日にはマチャラ監督自ら秋葉原にパソコンを買いに行くなど、終始リラックスムードに包まれていた。累積警告や蓄積疲労を考慮して主力4人を日本に帯動させず、スタメンの11人には北京五輪に出場する23歳以下の選手6人を抜擢。「いい経験を積ませることができた」と64歳の老将は試合後に笑顔で振り返った。すべてにおいて、岡田監督とは「温度差」があった。
岡田監督 「屈辱を晴らすためだけにやっているわけではありませんが、どんな形でも勝つという意味では、結果には満足しています。(この1か月の戦いを通じて)ひとつのチームになってきた。選手に対しては、いいサッカーをするし、非常に上手いけど、何かひとつ、最後のピースが足りないと言ってきた。それは勝利への執着心。本来誰もが腹の底で持っているはずのものを取り戻してほしいと言ってきたんですけど、完全とは言わないまでも、それが少しずつ出てきたかな、とは思っています」


 3月のバーレーン戦で黒星を喫した直後に、岡田監督は「これからは俺のやり方でやる」と宣言した。前任者イビチャ・オシム氏の路線を踏襲していたから負けた、とも受け取られかねない発言が波紋を呼び、日本サッカー協会の川淵三郎キャプテンをして「なぜあんな言わずもがなの発言をしたのか」と首をひねらせた。「俺のやり方」とは何なのか。4‐2‐3‐1のシステムや中盤から前線にかけての激しいプレスが5月下旬のキリンカップから前面に打ち出されたが、記者会見では自身のコンセプトについて初めて言及した。
岡田監督 「私のコンセプトは『やれ』と言われるからではなく、『勝ちたい』という気持ちから戦ってほしいということ。監督に言われたからプレッシャーをかけにいく、監督に言われたから追いかける、守備のやり方がこうだから(こうボールを)取りにいく、では本当じゃないと思っています。勝ちたいから自分からプレッシャーをかけ、勝ちたいからゴール前に飛び込んでいくし、自然とそういう部分で仲間への要求が出てくる。何で戻って来ないんだ、何でこっちにパスを出さないんだ、という要求が少しずつチームの中で出てきている。それがチームがひとつになってきた、ということかなと思います」
 要は精神論であり、チームというよりは選手個々の根本的な問題だ。さらに厳しく言えば、代表に招集される選手であれば、周囲から言われなくても実践できなくてはワールドカップうんぬんを語るレベルにはないのではないか。そうした初歩的な段階から口を酸っぱくして叩き込まなければいけないほどに、日本代表のサッカーは情けないものに成り下がってしまったのか。昨年12月にオシム氏からバトンを引き継いだ岡田監督の目にはそう映っていたのか。
 何よりも日本の永遠の課題として挙げられる「決定力不足」の解消には、まだ手つかずの状態であることが図らずも明らかになった。俊輔が数年前から口にしているアタッキングサード、つまりピッチを縦に3分割したときの攻撃エリアにおける創造性と意外性はバーレーンとの最終戦でもほとんど発揮されていない。引いた相手を前に誘き出すようなミドルシュートもあまりにも少ない。「攻めのアイデアが足りない」と20歳のDF安田理大が声を大にして指摘すれば、MF遠藤保仁も「プレーがきれいすぎる」と自分自身を含めたチームに喝を入れた。

 
 バーレーン戦の終了を告げるホイッスルとともに約1か月に及んだ岡田ジャパンの臨時キャンプは打ち上げられ、選手たちはJリーグの戦場へと戻る。9月6日にスタートする予定のアジア最終予選までには、7月下旬の2泊3日のミニ合宿と、8月20日の親善試合前の練習しか残されていない。キリンカップから川口能活に代わってゴールマウスを守っているGK楢崎正剛は「すべてにおいて精度を上げていかないと難しいと思う」と強敵が集う最終予選に警鐘を鳴らした。
 アジア最終予選は3次予選を勝ち抜いた10か国を2組に分け、ホーム・アンド・アウエー方式の総当たりで争われる。各組上位2位までの4か国が自動的に南アフリカ行きの切符を獲得し、3位同士の勝者がアジア5位としてオセアニア代表との大陸間プレーオフに回る。日本がアジア3次予選の全日程を終えた時点で、最終予選進出国には日本とバーレーンに加えてオーストラリア、韓国、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)、サウジアラビア、イラン、ウズベキスタンがすでに名を連ねている。
 しかも、6月27日にマレーシアで行われる組み合わせ抽選会では3次予選の成績は反映されない。06年のワールドカップ・ドイツ大会における成績をメーンにシード国が決められ、すでに第1ポットにはシード1位のオーストラリアと同2位の韓国、第2ポットには同3位のイランが入ることが決定。同4位には日本とサウジアビアのどちらかが入ることになり、その抽選が25日に行われる。
 同じポット同士の国は組が分かれるため、この時点で日本はオーストラリアか韓国のどちらかと同組になることが決定。さらに抽選でシード4位の座をサウジアラビアに奪われれば、不得手とする中東の2強のどちらかとも同じ組になる。3次予選を戦った国と同組になることも考えられ、その意味で川淵キャプテンは「バーレーンをしっかりと叩け」と最終戦の定義付けをしていた。結果は負けたものの、若手中心の布陣で互角に渡り合ったバーレーンが日本に対して苦手意識を抱いたとは到底思えない。まさに難敵ばかりだ。
岡田監督 「最終予選というものは山あり谷ありです。それを乗り越えて、もっと強くならないといけない、と選手たちには言いました。厳しい戦いになると思いますが、このチームはまだ成長できると思っている」
 オセアニア代表との大陸間プレーオフに回ることになれば、来年11月21日まで続く過酷な長丁場。ようやく土台づくりが始まったばかりの日本の運命を決める6月27日を、岡田監督はファイナルを直前に控えたユーロ2008の特別解説者として現地で迎える予定になっている。     (文=藤江直人)


2008年6月23日 03:00|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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