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挑戦者を舐めた内藤大助のツケ。
絶対はない。ボクシングは、これだから面白いのだ。
磐石防衛をするはずだった内藤の中に芽生えた、ちょっとした心の隙が劇的なドラマを生む。内藤は1ラウンドから明らかにいつものスタイルとは違っていた。
構えも、独特のクラウチングではなくアップライト気味。
「打って動く」。「動いて打つ」を繰り返し、常にパンチを受けない安全なポジションに自分を置くボクシングをやらない。半ば強引に正面に立って倒しにいく勝負に出たのだ。
そこに清水が右へ右へとステップを踏みながら、出鼻にショートの左を合わせてきた。
ジャッジは、そのショートパンチを支持。WBCの採点公開制度では、4回を終わって2人がドロー。一人が1ポイント清水リードの採点である。
「確かに清水のプレッシャーが少なかった。一回を終わってパンチがないと言うんです。それに清水のステップもよかったのもあって、危険な位置にいるケースが増えました。警戒心にかけていたのかもしれない」
内藤陣営、野木トレーーナーの述懐。
内藤は、清水を舐めたのである。
採点を聞いて、野木トレーナーは、さらなるプレッシャーを指令したが、内藤は逆にドロ沼に入っていく。フェイントが中途半端なおおぶり パンチは、清水のステップバックではずされ、また左右の小さいパンチをコツ、コツと合わされていく。そのパンチに必殺の威力は込められていないのだが、ポイントは、確実に清水に加算されていくのだ。8回を終えての2度目の公開採点では2人が1ポイント差、2ポイント差で挑戦者を支持。一人がドローという結果である。場内には異様な空気が流れた。
イケメン、清水の応援団は、おおいに盛り上がり、内藤ファンは、えええーーとか、おおおーーーとかいうどよめきである。
野木トレーナーは「行け!ぶんなぐりにいけ!」とGOサインを出した。
内藤は、強引に前に出て左右をブンブンと振り回した。元々、空振りのダメージをいとわないタイプである。振り回しながら、清水をロープに詰めると、左のフックがカウンターとなってテンプルを捕らえた。打たれ強くはない清水は膝にきてぐらっとすると、なぎ倒すような右をかぶせてダウンを奪った。立ち上がってはきたが、内藤は、その機を逃さない。ラッシュに次ぐラッシュ。最後も、決して美しいとはいえない鉈を振るうような右。金子会長が、タオルをもってエプロンサイドに上がったときに、レフェリーは10カウントを数え終えていた。ドラマチックな逆転KO勝利である。
控え室。内藤の顔は痣だらけであった。
「KOはねえ、狙ったわけじゃないのよ。まだラウンドはある。コツコツといこうと思っていた。おれってセンスないからさあ。キャリアの差が出たのかもしれない」
一方の清水の顔は綺麗だ。
「悔しい...でも最後は何を打たれたのか覚えていない。油断。ガードの甘さが出た」
2度目の世界戦に失敗した悔しさに言葉が震えた。
会見後に内藤を捕まえて聞いてみた。
――いつもに比べて危険な位置にずっといたね。
「確かにねえ、全然、ダメだったなあ」
ーー最初から強引にKOを狙っていたのでは?
「ええええ?それはないのよ...ほんとに」
――コンディションは?
「それは問題がなかったんだけどねえ。ほんとダメだったなあ」
採点が不利とわかった時点で、ポンサクレック戦、亀田大毅戦のようにサイドに動き、ボディから丹念に攻め重ねる戦術もあったはずだが、内藤陣営は、もっと強引にプレスをかける手段を選んだ。野木トレーナーは「結果的には、それは正解だったけれど、相手に合わせてボクシングをしてしまうというか...いい反省の出た試合だった」と振り返った。
「ファンのために」という内藤の信念もあるだろうが、ファーストコンタクトと同時につかんだボクサーの本能が、油断となって危険察知能力を失わせたと思う。今後、防衛を積み重ねるためには、二度とあってはならない心の隙である。
さて、試合後に、WBA世界同級一位にランクされている亀田興毅がリングに上がって、内藤に対戦を要求するというハプニングがあった。
「次俺な、次俺な」と、ファンの前で内藤の試合OKの言質を取ろうとした狡賢い行動である。タイミングとして劇的逆転の勝利インタビューの途中だっただけに、なおさら、残念なパフォーマンスである。
袂を別れた元所属の協栄・金平会長は、プレスルームで激怒のコメントを続けていた。
「ああいうイレギュラーな行動はあってはならない。プロレスチックなパフォーマンスはボクシングでは、とうてい認められるものではない。しかも、坂田の挑戦から逃げているのに、あの態度はなんだろう。彼は、WBAの一位なんだから、まず坂田とやるべき。こうなれば、フライ級で一体誰が強くのかを決めればいいのではないか」
ひょっとしてTBSの仕掛けなのだろうかとも考えたが、JBCの安河内事務局長が、すぐさまTBSの現場責任者に同じ質問をぶつけたところ「私たちも知らない行動だったんです」と答えたという。
「TBSの演出ではなかったそうですが、単なる祝福の域を超えた問題行動だと思っています」
控え室で、内藤は「面白いよね。おれは嫌いじゃない。けれど、次俺とやらせろというから、やらせてくださいだろうと言うと、言い直していたよ。ファンが喜ぶカードには違いないからね。仇討ちの気持ちでくればいい。こっちは、兄弟揃ってたたっ斬る」と、大人の対応を示していた。
一連の動きを見守った某ボクシング関係者は、ぽろっと「結局、次は、坂田対亀田の線で動いていると聞いている。内藤とは、その次じゃないの」と漏らしていたのだが...。ボクシングには絶対はない。だから、ボクシングは面白いのだ。(文責=本郷陽一 写真=小境勝巳)
2008年7月31日 01:17|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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