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非情になれなかった指揮官。星野JAPANの顛末。

代打阿部のライナーを拝むようにしてキャッチした韓国の右翼手は、そのまま前のめりに倒れこんで嗚咽している。まるで優勝したかのようにベンチからは控えの選手が声を挙げながら飛び出してマウンド付近で歓喜の儀式が始まった。
会見でイスンヨプが「若い選手でまだ兵役免除になっていない選手もいたので、力になりかった」と語ったが、メダル獲得で「兵役免除」という金銭や名誉とも代えられぬ特権を与えられる韓国のメンバーにとって、メダル確定させることが大きな目標だった。
GG佐藤は泣いていた。トンネルにダメ押し点を韓国に与えた落球...。しでかしたミスの重さに精神が耐え切れない。『キャプテン宮本』も涙ぐんでいた。
だが、気丈にも、ただ一人、一塁スタンドから声を枯らした日本の応援団に対して感謝の意を込めて手を振った。
打てないことは、予選を見れば明白だった。
全日本の3番が「森野」でいいのか。故障者を承知で選んだメンバーは間違いでなかったのか。議論はある。田淵打撃コーチは「メンバー選考は本当にむずかしい」と、本音を口にした。前夜は、高卒2年目の左腕・金広鉉の先発を読んでビデオをチェックしたが、一通り映像が終わっても誰一人ビデオルームを出なかったという。
「納得するまでもう一回みたいというんだ。たらればはいいたくないが、見えない努力が最後まで続けていたんだ」
このメンバーで戦うと決めた以上、西岡のファイトと、荒木の正確無比な小技、そして青木の極上のテクニックで奪った2点を守って勝つしかなかったのである。
七回から投入された藤川は、三振を取りいった勝負球の真っ直ぐは、すべてファウルにされた。矢野は意識的にペナントレースに比べて変化球を増やした。
けれど、そのフォークがボールになる。同点にされたのは、フォークのすっぽ抜け。本来のストレート中心の組み立てでもよかったのかもしれない。
最大の敗因は岩瀬がイスンヨプに投じた1球のミステイクではない。
外の変化球にからっきし弱いことは、イスンヨプと何度も対戦している岩瀬―矢野は熟知している。あの滞空時間の長かった勝ち越し2ランは、見せ球のはずだった内角球が甘く入ったコントロールミスに違いない。リスクの少ない配球もあっただろう。だが、そのことを議論する前に、そもそも岩瀬の投入が間違っていたのではないだろうか。
大野投手コーチは「今日の岩瀬は悪くなかった」という。イスンヨプを討ち取っていれば、次打者でダルビッシュへのスイッチが予定されていた。ダルビッシュの登場は、試合の流れを変えたのかもしれない。ならば、なぜ、頭からダルビッシュではなかったのか。
今大会の岩瀬には、予選から彼特有の研ぎ澄まされた剃刀のような怖さがなかった。
星野監督は「調子のいい奴から使う」をモットーにしていたはず。なのに、なぜマウンドにまで足を運んで岩瀬と心中したのか。
星野監督の管理術の一つに信頼がある。最高の姿という記憶を頼りにチャンスを与える。男星野の人望を生み出す「優しさ」でもある。その起用法は、数々のドラマを生んできたし、指揮官にとって一番大切な我慢を実践してきたものだ。けれど、その手法が短期決戦で通用するものか、どうか。中日時代から昨年のアジア予選と星野監督と岩瀬をつなぐ信頼は相当なものである。けれど、ここは非情になるべきではなかったか。
星野監督は会見で「あそこは岩瀬しかないやろう」と語っていたのだが...。
雨模様の前日は、気温24度と10月下旬並みの涼しさだったが、この日は、青色の絵の具を少しだけ濁らせたような空が広がり太陽が焼けつくようだった。プレイボールは午前10時30分。その影響からか、スタンドは満員ではなかったけれど、日本の旗を振る応援団は、全体の7、8割を占めて、ホームの雰囲気を作りだしていた。応援団は、試合開始1時間前から、入場ゲート前で太鼓を叩き、笛を吹き、「日本の応援に参加してください」と声を枯らしていた。そこにいたみんなが金メダルを信じていた。そこにいたみんなが悲願へ思いを一つにしていた。
地下鉄「五裸松」駅に向けて帰路に着く人ごみの中から、こんな日本語が聞こえた。
「結局、人気だけ先行やったのかな」。
背番号「77」のレプリカユニホームを着た若者だった。
キューバはアメリカに圧勝したが、キューバ、アメリカ、日本、韓国、カナダあたりまで実力は紙一重だった。だが、その紙一重が金メダルに変わり、銅メダルに変わる。そのキーは何なのか。我々は、来春のWBCまでに、その理由をよく考えねばならない。

                                                                     (文責・本郷陽一) 20080822(004).jpg


2008年8月22日 23:01|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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