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UAE戦に見え隠れする岡田ジャパンの明と暗


[サッカー国際親善試合 日本代表 1対1 UAE代表@新潟ビッグスワン]


 口を突いた言葉とは対照的に、岡田武史監督の口元は緩んでいた。
「悔しいけど、仕方ないかな」
 親善試合とはいえ、ホームで行われた一戦で勝利を飾ることができなかった。後半27分にMF香川真司(セレッソ大阪)の代表初ゴールで先制しながらその5分後にカウンターから失点され、そのまま引き分ける少々お粗末な展開。前日の公式会見では「もちろん勝ちに行く」と宣言していた指揮官にとっては怒り心頭の試合展開のはずだったが、怒りを和らげるだけの手応えがあったのだろう。
 6日後の15日に埼玉スタジアムで行われるウズベキスタンとのW杯アジア最終予選へ向けた最初で最後の実戦。岡田監督は3つのテーマを掲げていた。


(1)松井大輔の代役
 累積警告でウズベキスタン戦が出場停止になる松井大輔(サンテティエンヌ)の代役として左MFに入ったのは大久保嘉人。所属するヴィッセル神戸でもMFを務める機会が多い点を注目していた指揮官が温めていたプランのひとつだ。
 生粋のストライカーながら運動量が豊富で、自らドリブルで仕掛けることもできるし、チャンスを演出することもできる。香川のゴールは右サイドに回った大久保のクロスにFW興梠慎三(鹿島アントラーズ)が強烈なヘディングシュートを見舞い、ポストを直撃したそのこぼれダマを再び大久保が拾って今度はグランダーでゴール前にクロスを送った末に生まれたものだった。
 このシーンこそが、岡田監督が目指していた攻撃のひとつだった。
「サイドからの攻撃は、日本の場合は1本のクロスがなかなか(攻撃陣に)合わないので、もう1本入れるということが、たくさんではないですが、何回かできたのはよかったと思います」
 相手GKに蹴りを見舞い、一発退場となったオマーンとのW杯アジア3次予選以来となる代表戦。みそぎのゴールこそ奪えなかったが、4‐2‐3‐1の「3」の中央だけでなく左もそつなくできることを証明してくれたことで指揮官が抱いていた不安のひとつを取り除いたことになる。


(2)田中達也の代役
 敵地マナマで9月6日に行われたバーレーンとのW杯アジア最終予選初戦。3対2で勝利を収めた陰のMVPはFW田中達也(浦和レッズ)だった。
 登録上はFWとなっているが、岡田監督が求めた役割はワントップの玉田圭司(名古屋グランパス)の周囲で衛星のように動き回る攻撃的MF。マイボールのときにドリブルなどで突っ掛けるだけでなく、相手ボールのときは執拗に前線からボール保持者を追い回す。計6個のファウルを誘発させるなど攻守に動き回ったが、フル出場した代償として右太ももの筋膜炎を再発させ、今回の代表招集も見送られた。
「これからはオレのやり方でやる」
 3月に敵地で行われたバーレーンとのW杯アジア3次予選でまさかの苦杯をなめたのを機に岡田監督は戦術を大きく転換させた。攻撃陣には玉田や大久保、そして田中達といった運動量豊富な小兵を配置。中盤から前線にかけてアグレッシブな守備で相手ボールを奪い、あるいはファウルを誘い、MF中村俊輔(セルティック)や松井、長谷部茂利(ヴォルフスブルク)ら「欧州組」のテクニックと経験にゴールを委ねる単純明快なサッカーに切り替えたと表現した方がいいだろう。
 勝利へのカギを握る「小兵軍団」から田中達が離脱し、大久保は松井の代役としてのメドが立った。ならば、岡田流4‐2‐3‐1の「3」の中央を誰に託すべきか。幸いにも日本サッカー界には絶対的なストライカーこそいないものの、相手が忌嫌う小兵タイプのFWは多士済々だった。
 UAE戦で初先発した岡崎慎司(清水エスパルス)、途中から出場した興梠の北京五輪世代コンビは「3」の中央を任せるに十分な働きをしたと言えるだろう。もっとも、先制ゴールを叩き込んだのが19歳の香川だったことが彼らを刺激したのか。リードしている状況にもかかわらず攻撃陣がどんどん前のめりになったことが、カウンターからの失点を招く遠因になったのだが。
 これには指揮官も再び口元を緩ませるしかなかった。
「若さが出てみんなが前にいってしまった。そのへんが修正点です」


(3)闘莉王のバックアップ
 前日8日にACL準決勝を戦った浦和レッズとガンバ大阪から代表に選ばれた3人はUAE戦のピッチに立たなかったが、そのうちの一人、DF田中マルクス闘莉王はウズベキスタン戦への出場も危ぶまれている。
 右ひざ、右太もも、左ひざとほとんど絶え間なく連鎖している故障禍。責任感が強いゆえに完治しないままに浦和レッズや代表の試合に出場し、再び悪化させる負の連鎖に陥っている。中澤佑二(横浜F・マリノス)と組むセンターバックは高さと強さを兼ね備え、日本の最終ラインをまさに要塞化しているが、コンビそのものはこの1年半で10回しか実現していない。中澤はほぼ全試合に出場してきたが、闘莉王の状態が常に不安定だったからだ。
 岡田監督はUAE戦で寺田周平(川崎フロンターレ)を先発させ、後半からは高木和道(清水エスパルス)に代えた。ともにUAE戦の前まで代表キャップ数は1。年齢的には寺田が33歳で高木が27歳とベテランの域に達しているが、国際試合における経験不足はどうしても否めない。
 もう一人、惨敗に終わった北京五輪で評価を上げた数少ない選手の一人である森重真人(大分トリニータ)もベンチ入りしていたが、最後まで出番はなかった。旧ソ連の流れをくみ、大柄な選手が多いウズベキスタンの特徴を考慮して1m89の寺田、1m88の高木に経験を積ませたことは明白だが、個人的には伸び盛りの森重に機会を与えてほしかった。
 確かに1m79の身長は不安材料になるかもしれないが、北京五輪やJ1で破竹の快進撃を続けてきた大分トリニータでは群を抜く身体能力で屈強なFW陣に対峙している。岡田監督は失点のシーンを「追加点を取れかったことが問題」とチーム全体の責任としたが、どうしても想像してしまう。もし失点の場面で森重が最終ラインにいたら...とにかく、代表デビューにはうってつけの親善試合で出番がなかっただけに、成長著しい21歳のDFの代表初陣はもう少し先になるだろう。
 ちなみに、中澤と闘莉王がセンターバックを組んだ10試合は8勝2分け。ウズベキスタン戦までの6日間は首脳陣も闘莉王の体調に気をもみ、「不敗神話」が継続してくれることを祈ることになる。


(4)プラスアルファ
 UAE戦では稲本潤一(フランクフルト)が岡田体制下では初めてピッチに立ち、長谷部とダブルボランチを組んだ。9月のバーレーン戦でも招集されていたが、チーム戦術を十分に理解していないという理由でベンチ入りの18人から外れていた。
 今回は宿泊先のホテルで個別に岡田イズムを説いたというから、29歳になったボランチの百戦錬磨の経験にかける期待の大きさがうかがえる。実際、稲本はハーフウエイラインより前の敵陣でアグレッシブに仕掛け、何度かボール奪取に成功。攻撃参加の回数は最小限にとどめる一方で、中盤の底からの効果的なロングパスで局面を変えようとするシーンが何度も見られた。
 本来ならば長谷部とダブルボランチを組むのは遠藤保仁(ガンバ大阪)だが、岡田監督は決して守備を得意としない遠藤についてこう語ったことがある。
「ある意味でリスクだが、あえてリスクを冒しました」
 もう負けが許されなかった6月のW杯アジア3次予選4連戦でのことだ。中盤でボールをキープし、巧みに運ぶことができる遠藤の存在はもちろん魅力的だが、翻ってバーレーンとの初戦に勝ってウズベキスタン戦を迎える今現在の状況下ではリスクを冒す必要はないと考えてもいるのだろう。
 その一方で、遠藤と攻撃の全権を託されているMF中村俊の相性はまさしくあうんの呼吸で、黒子に徹する遠藤の存在が中村の左足の輝きをより増幅させている。勝っているときはメンバーをいじらずに遠藤でいくのか、あるいは稲本の起用でアグレッシブな中盤の守備を完成させるのか。岡田監督は直前まで頭を悩ませることになりそうだ。


 ここまで好材料を並べると楽観的になってしまうが、もちろん見逃してはならない不安材料もある。
 殊勲の香川は中村俊に代わってピッチに立った。いわば不動の司令塔のバックアップとしての意味合いが強いが、才能の片鱗を見せつける一方で、やはり経験が不足していることは否定できない。レベルが落ちるJ2で戦っていることも影響しているのだろう。
 結局、試合中に中村俊が不慮の事態に襲われたときには日本の攻撃が機能不全になる恐れは解消されていない。ましてや、中村俊は右足首に違和感を抱えている。対戦相手は当然狙ってくるだろうし、2連敗でW杯出場へ後がなくなったウズベキスタンは敵地で勝つためなら何でも仕掛けてくるだろう。背番号10さえ壊せば勝てる、となればなおさらだ。
 さらに、UAE戦でも再三のように露呈した決定力不足。試合後の香川の表情がいまひとつ弾けていなかったのは、初ゴールに続いて2度訪れた決定的なチャンスを外したからに他ならない。中村俊もこのように課題を挙げている。
「攻撃のビルドアップの部分では意識統一されたパス回しができた。後は最後の所。センタリングに対して飛び込む人数とか、僕も含めて修正しないと」
 時間が限られている代表チームでの練習では決定力不足は解消できない。大久保、岡崎、興梠らのはつらつとしたプレーでウズベキスタン戦の戦力にメドが立ったことがUAE戦の最大の収穫だが、それでもFWにゴールだけを求めない「岡田流」の4‐2‐3‐1からセットプレーのチャンスを増やし、中村俊の左足にかける「勝利の方程式」は当分続けざるを得ない。    (文=藤江直人)


2008年10月10日 01:00|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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