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ホームでのドローで消えた日本の脅威


[W杯アジア最終予選第2戦 日本代表 1対1 ウズベキスタン代表@埼玉スタジアム]


 恐れていたことが現実のものとなってしまった。
 ホームでのW杯アジア最終予選初戦。埼玉スタジアムを埋めた、岡田ジャパン史上で最多となる約5万5000人の青い波。相手は2連敗でもう後がないウズベキスタン。勝利への条件は整っていたかに見えたが、結果は1対1のドロー。相手にまさかの先制点を許し、波状攻撃を仕掛けながら同点止まりだった90分間に、家路に着くサポーターたちから容赦ない罵声が浴びせられた。
「だらしねえぞっ!」
「負けと一緒だ、負けと」
 日本がホームでのW杯予選で勝利を挙げられなかったのは1997年10月のUAE戦以来、実に11年ぶり。その間、3大会連続でW杯に出場し、韓国と共催した2002年大会ではベスト16に進出。アジアカップも2度制覇し、日本は強くなった、と信じて疑わなかったサポーターたちが現実に引き戻された瞬間でもあった。
 日本がアジア勢に与えてきた脅威は、いまや消え去ろうとしていた。


 以前からこの「論」のコーナーで岡田武史監督が掲げるサッカーへの危機感を指摘してきた。MF中村俊輔に攻撃の全権を託すがゆえに、不動の司令塔を封じられれば日本も機能停止になる、と。カシモフ監督自らが「日本を徹底的に研究した」と豪語するだけあって、ウズベキスタンは2段階の作戦で中村俊の「脅威」を消しにかかってきた。
 ボールを持っていないときは4‐2‐3‐1の「3」の右、それもサイドライン際に張ることが多い背番号「10」に対する特定のマークはつけない。しかし、ひとたびパスを受けたり、右サイドから中央にプレーエリアを移動させてきたときには周囲にいる2人で徹底的にマークさせる。
 当初はシャツキフとゲインリフのツートップが予想されたが、ふたを開けて見ればシャツキフのワントップ。その分、中盤を厚くして中村俊への「包囲網」を敷きやすくした。中村俊や他の選手をファウルで止めるにしても、直接FKを狙えるエリアでは絶対に倒さない。そこには、日本が中村俊の先制FKなどで敵地で勝利した9月のバーレーン戦から得た教訓が生かされている。サイドからゴール前に放り込む日本のFKが増えたのは偶然ではなく必然だった。
 それでも、今までのアジア勢が相手なら、1m87の中澤、1m85の闘莉王の両DFの存在で相手ゴール前の制空権を握ることができた。しかし、旧ソ連の流れをくみ、1m90のDFイスマイロフを筆頭に大柄な選手を擁するウズベキスタンの城壁はそう簡単には崩れない。
「自分が入っていくスペースがなく、ボールに触れることができなかった」
 中澤の言葉がすべてを物語っている。玉田や大久保らの小兵FWの機動力を生かし、敵陣で相手のファウルを誘い、中村俊や遠藤が繰り出すFKやCKのセットプレーに活路を見出す。こうした日本の必勝パターンは、最終予選のわずか2試合目で見透かされていたのだ。
 ならば、さらなるゴールへのオプションがあって然るべきだったが、悲しいかな、岡田監督の「引き出し」にはほとんど何も残されていなかった。
 途中から投入された岡崎、興梠の北京五輪世代FWコンビは、もちろん才能も可能性も感じさせるものの、いかんせん経験が足りなかった。ともに9日のUAE戦で代表デビューを果たし、胸のすくようなプレーも見せたが、テストを兼ねた親善試合と「負ければ夢が絶たれる」と必死になったウズベキスタンが襲い掛かってくる最終予選は別次元の戦いだった。相手にとってはデータが少ない選手だったかもしれないが、それ以上に若い2人がプレッシャーを受けたいたのは想像に難くない。
 もう一人、岡田ジャパンでは初出場となった稲本は、遠藤をボランチからひとつ前のポジションに上げ、さらには残り数分になってからの闘莉王を前線に上げたパワープレーを後方支援する役割を担っただけだった。
 これらのすべてが、ウズベキスタンにとっては想定内。引いて守るだけではなく、後半途中までは日本のお株を奪うようなプレスも執拗に仕掛け、勝ち越し点が奪えないと見るや先制点を挙げているエースのシャツキフをベンチに下げて引き分け狙いを徹底させた。同じ勝ち点1の獲得でも、日本とは対照的に派手なガッツポーズを繰り返したウズベキスタンの咆哮を聞けば、ほぼプラン通りの90分間だったことが分かる。
 試合後の会見。この試合から指揮を執っているカシモフ監督は穏やかな表情で、前半40分の玉田の同点ゴールを演出した中村俊の左サイドからのクロスを絶賛した。
「ナカムラについては心配していた通り、左足で素晴らしいパスを出した。彼の素晴らしいプレーとわれわれのミスがあって失点してしまったが、私は選手たちが目標を達成できると信じていた。神様が少し味方してくれたのかもしれないが、いずれにしても勝ち点を得られたことで選手たちも元気づけられた。今後もW杯に向かって頑張っていきたい」
 そこには失点した悔しさよりも、90分間を通じて中村俊に決定的な仕事を一度しかさせなかった自国の選手たちへの賛辞と、W杯切符争いに首の皮一枚で踏みとどまることができた安堵感がにじんでいた。


 日本が所属するA組はオーストラリアが開幕2連勝で一歩抜け出し、勝ち点4で日本とカタール、同1でウズベキスタンとバーレーンが続いている。2位以内に入れば自動的にW杯南アフリカ大会への切符を得られる戦いの中で、日本は自らの拙攻でウズベキスタンの息の根を止めるチャンスを逃してしまった。
 さらに加えれば、このままの陣容と戦い方では大柄な相手を崩せないことも図らずも明らかになった。言うまでもなく、オーストラリアはウズベキスタンよりもサイズ、パワーでワンランク上だ。同じ日にホームにカタールを迎えたが、9月にウズベキスタンを3対0で一蹴した中東の躍進国を何と4対0で完全に粉砕。その実力をまざまざと見せつけている。
 そのオーストラリアがこのまま独走すると仮定すれば、残りは1枠。日本にとっては11月にアウエーで行われるカタール戦が極めて重要になってくる。敵地だからドローで御の字、というW杯予選のセオリーは許されない状況になってきたからこそ、岡田監督には「引き出し」の中身をひとつでも増やすことが求められる。
 中村俊を封じられたときにどうするか。セットプレーで制空権を握れないときはどうするか。ボランチの遠藤や最終ラインにまでプレスを掛けられたときにどう対応するか。相手GKと1対1になった状況でパスを選択した前半38分のDF内田のプレーに象徴されるように、あまりにもシュートへの意識が希薄な選手をどのように「洗脳」するのか。
 もちろん、すべてが代表の招集期間内の練習だけで解決できる問題ではない。しかし、打開への道筋ぐらいはつけてくれないと、今後の結果次第では指揮官の資質ぬうぬんを問われる事態を招くだろう。「救世主」と崇められた11年前とは明らかに異なる風を感じている岡田監督は試合後、開口一番にこう語っている。
「もう1点を取ることができなかったが、長い予選ではこういうこともある。勝ちたかったので残念な結果だが、よくこじ開けて1点を取ってくれた」
 そして、ホームで痛恨の引き分けに終わった結果を短く総括した。
「まだ問題はないと思っています」
 強がりなのか、それとも余裕があるのか。ほとんど変わらない表情からは読み取れない。しかし、選手たちはホームで勝ち点2を失った現実をしっかりと受け止めている。
 マン・オブ・ザ・マッチを獲得した中村俊が全員の思いを代弁する。
「結果がすべて。勝たないといけなかった。これからまだまだ予選はいので、次に集まるときはみんなレベルアップできているようにしたい」
 カタール戦の前の11月13日には神戸でシリアとの親善試合が組まれているが、国際Aマッチデーでないこともあり、現時点で中村俊ら欧州組の参加は微妙だ。となれば、チーム合流はカタール入り後となる。代表チームの宿命とはいえ、レベルアップへ、与えられた時間は決して多くない。                          (文=藤江直人)


2008年10月16日 05:41|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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