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岡田ジャパン/打倒カタールへのキーマン


 相手より先にゴールを奪って逃げ切る。
 サッカーにおける世界共通の必勝法、とりわけ逆転勝利が一度もない岡田ジャパンにとって絶対的な条件を達成するためのキーマンは誰なのか。日本時間20日午前1時半にキックオフを迎えるカタールとのW杯アジア最終予選。ともに勝ち点4で並ぶ相手との敵地での大一番でクローズアップされるのはDF内田篤人とMF遠藤保仁の2人だ。


 過去未勝利のカタール戦へ、日本は最終ラインを含めた守備陣の核を変えて臨む。GK楢崎正剛、DF中澤佑ニが相次いで故障。経験も実績も豊富な2人の離脱がチームに大きな衝撃を与えたのは事実であり、特に後者は精神的な支柱としてW杯予選の経験が乏しい現在の日本代表を支えてきた。楢崎の代役は所属するジュビロ磐田で調子を上げてきた川口能活が務めるが、中澤のバックアップは見当たらないのが現状だ。
 確かに痛手ではあるが、だからといって大袈裟な悲観論を唱える必要もない。敵地カタールに入ってから離脱したのならともかく、故障をしてからかなりの時間が経過し、その間にシリアとの親善試合も行っている。代役となる寺田周平もしくは阿部勇樹は心身の準備をしっかり整えているはずだし、それができなければ代表の青いユニホームに袖を通す資格もない。
 だからこそ、内田が気になる。正確に言えば内田のプレー内容だ。
 岡田ジャパンにおける右サイドバックのポジションをほぼ不動のものとした20歳だが、10月15日のウズベキスタンとのWアジア最終予選では致命的なミスを犯している。先制点を許した場面。ゴールを決めたシャツキフをケアしなければいけないポジションにいながら、シュートを打たれるまで相手の背番号9を見ているだけで終わってしまった。
 相手のカウンターへの対処を忘れていたのか、それほど大事には至らないとタカをくくっていたのかは別にして、真剣勝負の場では一瞬のスキを見せれば致命傷を負うことを思い知らされたはずだ。その後に同点としたからいい、という問題ではない。
 内田の武器は積極的な攻撃参加であることは言うまでもない。4バックで守る以上、「上がれ」ば「下がる」のは当然だが、最近の代表戦では内田が攻め上がった背後のスペースを突かれてピンチを招く場面が目立つ。つまり、「下がる」動きが疎かになりつつあると言える。日本が相手国の情報を得て研究するように、対戦国も日本のそうした傾向を把握している。だからと言って「攻め上がってからのクロス」がない内田は相手にとって脅威でも何でもない。
 ジーコジャパンの右サイドの常連だった加地亮は、「上がる」と「下がる」という2つの動きを愚直なまでに繰り返せる精神力と無尽蔵のスタミナで指揮官の信頼を勝ち取った。内田もA代表に初めて招集された頃の気持ちを思い出してほしい。右サイドバックのポジションにはW杯ドイツ大会代表の駒野友一が控えているし、シリア戦で代表初ゴールを上げた左サイドバックの長友佑都も所属するFC東京では右サイドバックだ。同じミスを2度も繰り返すことが許されるほどポジションは安泰ではないことを肝に銘じるべきだろう。


 内田が先制点を与えないためのキーマンになる一方で、奪うためのそれは遠藤となる。
 不動の司令塔・中村俊輔のけががクローズアップされている。痛めていた左ひざを代表合流前の最後のリーグ戦でさらに痛め、スコットランドリーグをテレビ観戦していた日本サッカー協会の犬飼基昭会長をして「早く交代してほしい」と言わしめたほどだ。
 岡田武史監督は戦術、特にボールを奪って以降は中村俊輔の技術と創造力に託す、言い方を変えれば「丸投げ」していることはこの「論」で何度も書いてきた。俊輔を機能不全にすれば日本の勝機も消える、とも書いた。その図式は今でも変わっていないし、岡田監督は祈るような気持ちで背番号10を先発でピッチに送り出すだろう。
 そこで、遠藤の出番となる。今まで通りなら長谷部誠とダブルボランチを組み、後方から巧みなパスとボールキープで俊輔を支援する役目を負う。しかし、その「いぶし銀」の存在を「黄金」に昇華させることができれば日本のゴールチャンスは確実に増えるはずだ。
 古い話で恐縮だが、W杯アメリカ大会出場をかけた1993年10月のアジア最終予選、その正念場となった韓国戦で、司令塔ラモス瑠偉は累積警告で出場停止となった森保一の代わりにボランチの位置に下がることを志願。腰痛をはじめとする満身創痍の状態だったが、「ラモス」という存在感を囮にして韓国の中盤のキーマンをマーカーとして引きずり出し、他の中盤の選手たちが自由に動けるスペースを作り出すことで勝利に貢献した。
 決して俊輔にボランチに下がれと言うわけではないが、当時のラモスに負けずとも劣らないネームバリューと存在感とを今の俊輔は兼ね備えている。試合の流れの中で俊輔が動けば必ず中盤にスペースが生じる。そのスペースを駆使し、ゴールに絡んだり、あるいは日本が得意とするセットプレー奪取に通じるパスを出すのが遠藤だ。
 通常はマークすることが難しいボランチの位置にいるだけに、カタールも対応が後手に回る。「俊輔故障」というチーム構想を揺るがしかねない大ピンチを、むしろ逆手に取ればいいわけだ。2人は俊輔が横浜F・マリノスに所属していた99年に、当時マリノスでプレーしていた遠藤の兄・彰弘を介して出会い、その瞬間に「シュン」「ヤット」と呼び合うほどに意気投合。シドニー五輪予選やA代表でコンビネーションを磨き上げてきた。
「ヤットがいれば安心してプレーできる」
 俊輔もこのように絶大なる信頼を置く遠藤との「阿吽の呼吸」があれば、例え岡田監督に指示されなくても俊輔を囮に使う作戦を思いつくはずだ。もちろん何回も繰り返す必要はない。「伝家の宝刀」はここだ、という場面で抜けばいい。
 しかも、今の遠藤は乗りに乗っている。
 所属するガンバ大阪でACLを制し、大会MVPも獲得。「俺は目立たなくてもいい。チームが勝てばそれでいい」と黒子であることを誇りとしていた男が、その卓越した技術をさらに磨き上げ、イビチャ・オシム前監督に「走ることの重要性」を叩き込まれたことも相まってスケールアップ。28歳にして今が旬。舞台を代表戦に移しても決定的な仕事をする雰囲気を感じずにはいられない。


 日本を経つ前に神戸でシリアとの親善試合に臨んだ日本だが、3対1の快勝はまったく参考にならないと言っていい。中澤の代役として追加招集された高木和道が残念ながらまだ代表レベルに達していないことが分かったことと、故障の多いDF田中マルクス闘莉王を後半途中で無事にベンチに下げられたことが収穫と言っていいだろう。
 そもそもシリアが弱すぎたし、中村憲剛・阿部・大久保嘉人・田中達也・岡崎慎司で構成された中盤は、長谷部・松井大輔・田中・俊輔とACL決勝に臨んだため日本にいなかった遠藤の5人にそっくり入れ替わる。所属するフランスリーグのサンテティエンヌで試合から遠ざかっている松井のコンディションが整わなければ、そこに大久保が入る。
 いずれにしても、5月のコートジボアールとのキリンカップから岡田監督が貫いてきたコンセプトは変わらない。ワントップの玉田圭司を含めた小兵アタッカー陣の運動量とスピードで相手にプレスをかけ、前線をかき回してチャンスをできるだけ多く創り出す。そのコントローラー役が状況によって故障を抱える俊輔から遠藤にスイッチし、気を引き締めた内田が自身の「甘さ」を断ち切れば、18人しかベンチ入りできないところへ25人と異例の大所帯で遠征した指揮官の不安や自信のなさを補って余りある展開を生むはずだが。(文・藤江直人)

2008年11月18日 22:50|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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