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日本スタイルの完成とW杯本戦へ向けた課題


 サッカーにおいて、2対0という試合展開はリードしているチームにとって決してセーフティーではないと言われている。もし1点を返されれば相手チームが息を吹き返してしまうためで、実際、勢いに乗って試合をひっくり返してしまうケースは決して少なくない。
 しかし、カタールの首都ドーハで行われたW杯アジア最終予選は、2点をリードしている日本を安心して見ていられた。ホームの大声援を背に必死になって攻めてくるカタールに、まったくといっていいほどチャンスを与えない。逆に後半23分、ショートコーナーからMF中村俊輔が上げたクロスにDF田中マルクス闘莉王が得意のヘディングを一閃。相手の戦意を根こそぎ奪う3点目が決まった瞬間、スタンドを埋めた白装束のカタール人サポーターのほとんどが家路に着き始めた。
 3対0。勝ち点を7に伸ばした日本がW杯南アフリカ大会切符獲得へ大きな一歩を刻んだ。


 先手必勝。カタール戦のキーポイントについてこの「論」でこう指摘した。しかし、先に点を奪われそうになったのは、第2次岡田体制になって以降、まだ逆転による勝利がない日本だった。
 前半13分。自陣でDF寺田周平が何の変哲もないパスを相手MFファビオ・セザールに渡してしまう。ゴール前にはウルグアイから帰化したエースFWセバスティアンが、左サイドにはキャプテンの左サイドバック・メシャルがここぞとばかりに走り込んでくる。対峙する日本は守備で数的優位を作れない。絶体絶命の状況で輝きを放ったのがDF内田篤人だ。
 メシャルをケアしながらファビオ・セザールのドリブルを巧みに遅らせる。20歳の右サイドバックが時間を稼ぐ間に全力疾走で戻ってきたのは俊輔。ブラジルから帰化したカタールの司令塔の背後からボールを奪い、危機を未然に防いだ。試合後の俊輔は「はさみ込んでボールを奪えた」とこのシーンに代表される日本の守備を勝因のひとつに挙げたほどだ。
 カタール戦を展望する「論」で、10月のウズベキスタン戦における失点シーンを例に取りながら内田に対する不安を指摘した。慢心、あるいは油断という真剣勝負における禁断の「二文字」がちらついていたからだが、カタール戦ではそれも杞憂に終わった。体を張った泥臭い守備に加えて、前半19分には前線への絶妙のロングフィードでMF田中達也の先制ゴールをアシスト。この1点で日本は一気に流れをつかんだ。
 この場面でDFラジャブの注意は長い距離を走ってくるボランチの長谷部誠に集中し、その結果、背後を田中達に突かれてフリーにしている。長谷部は後半2分にもペナルティーエリア付近に顔を出し、FW玉田圭司の豪快な2点目をアシスト。献身的な動きで日本の縁の下を支えた。
 その長谷部を生かしたのがダブルボランチを組む遠藤保仁だ。
 5月のコートジボアールとのキリンカップからコンビを組む2人だが、これまでは長谷部が攻守のバランスを取る一方で遠藤がやや前目でプレーすることが多かった。しかし、カタール戦では役割をチェンジ。遠藤は左ひざに故障を抱える俊輔をフォローしながら、長谷部を前に出すタイミングとスペースを巧みに演出してカタールの意表を突いた。はやる気持ちを抑えて守備に奮闘した大久保嘉人。ドリブルで何度も突っ掛け、3点目につながるコーナーキックも奪った田中達。そして、リーダーの自覚とともに攻守に泥臭く奮闘し、90分間フル出場した俊輔。5人の中盤を軸にしたチームが奏でるハーモニーはほぼ完璧に近かったと言っていいだろう。


 玉田を含めた攻撃陣で身長が1m80を超える選手はいない。内田、長友佑都の左右のサイドバックも然りだ。まさに「小兵軍団」と言っていい日本にカタールがいかに手を焼いたかは、28本に達した日本のフリーキック数が物語っている。
 それだけスピードと敏捷性についていくことができずに日本にチャンスを与え、体を張った日本の執拗なまでのプレスに自分たちのチャンスを潰されてしまったのだ。前後半を通じたシュート数は、日本の13本に対してカタールがわずか4本。なす術がない展開に、名将の誉高いブルーノ・メツ監督が苦虫を噛む光景が何度もテレビ画面に映し出された。
「(内田)篤人からいいボールがきたので、後は流し込むだけでした」
 自らの先制ゴールにはこのように謙遜した田中達だが、敵地のピッチで90分間を通して実践できたサッカーには堂々と胸を張った。
「日本のサッカーをすることが僕たちの目標だった。それを達成できたと思う」
 俊輔がさらに補足する。
「ボールを走らせるだけじゃ相手が崩れないことがウズベキスタン戦でわかった。パスを出したら動く、ということを再確認して臨めた」
 岡田武史監督が攻守における運動量で相手を凌駕するサッカーに方向を転換して10戦目。前任者のイビチャ・オシムが標榜した「日本サッカーの日本化」が、図らずも後任者の岡田監督によって具現化しつつある。ここまでの過程では「中村俊輔依存症」をはじめとして悲観的な意見を述べさせてもらったが、身体的に決して恵まれていない日本人の特性を生かした「4‐5‐1」スタイルが一戦ごとに相手に脅威を与えるようになっているのも事実だ。
 指揮官自身は勝ち点4で2位に並んでいたカタールを撃破しても「まだ何も保証されていない」と慎重だが、ホームにおける残り試合が「3」ある日本に対して1試合消化が多いカタールは「1」。最終予選の折り返しを前に日本の優位は際立ち、来年6月17日の敵地でのオーストラリアとの最終戦を前にA組2位以内を確保、W杯切符を獲得する可能性すら出てきた。
 カタールのメツ監督は試合後の会見で「2位に入るのも難しくなってきた」と事実上の白旗を挙げてしまった。ならば、気の早い話かもしれないが、2010年その本大会を見据えることも必要だろう。実際、アジアではなく世界と戦うとなると、どうしても不安は尽きない。
 カタール戦におけるサブメンバー7人のうち、攻撃陣は途中から出場した松井大輔、岡崎慎司、佐藤寿人に出番なしに終わった中村憲剛。ウズベキスタン戦に続いて1m84、81kgのFW巻誠一郎はベンチ入りしなかった。そのウズベキスタン戦は1対1の引き分けに終わったが、勝ち越しゴールがほしい状況で「なぜ巻がいないのか」という声が報道陣から上がったのも事実だった。
 カタール戦で最後まで貫かれた、スピードと敏捷性を武器にするスタイルはそれでいいと思う。しかし、それだけでは通用しない相手はこの先の戦いにおいて必ず出てくる。実際、旧ソ連の流れをくむウズベキスタンにはホームの埼玉スタジアムで苦戦を強いられている。そのときにどのようにしてゴールを奪うのか。例えば長身FWをターゲットマンにすえた形はどうなのか。攻撃のオプションを確立できていないことが、巻のベンチ漏れで図らずも明らかになった。最後は1m85の闘莉王を最前線に上げればいい――というプランが指揮官の中にあるとしたならば、日本人のFW全員を否定することにもつながってしまう。
 不動のセンターバック、中澤佑ニが故障離脱した穴は33歳にしてW杯予選デビューを果たした寺田が何とか埋めた。カタールで最も危険なセバスティアンに必死に食らいつき、まともな仕事をさせなかった執念は感動的ですらあったが、一方で緊張からか前半13分以外にもパスミスが目立った。攻撃参加を得意とする闘莉王が、セットプレー以外はほとんど守備に専念したことと寺田の存在は決して無関係ではないだろう。
 1m89の長身は確かに魅力だが、来年で34歳になる寺田の年齢的な面も考慮すれば、さらなるバックアップを育てておく必要がある。カタール戦でベンチから外れた1m88の高木和道に経験を積ませるのもいいし、水本裕貴、森重真人、青山直晃ら「伸び城」のある北京オリンピック世代を積極的に起用するのもいい。
 幸いにも年明けの1月にはイエメン、バーレーンと対戦するアジアカップ予選が行われる。指揮官はすでに若手を中心に起用する方針を固めているが、親善試合ではなく2011年の本大会出場をかけた公式戦の真剣勝負の中ならばバックアップメンバー育成にも効果はてき面だ。同じくカタール戦のベンチから外れた19歳のMF香川真司も経験を積めば、俊輔への過度の依存症も少しは軽減できるかもしれない。
「少しずつだけど良くなってきている」
 控えめな言葉の中に手応えをのぞかせた岡田監督は、12月に一泊だけのミニキャンプを招集。代表候補を含めたなるべく多くのメンバーを集めてコンセプトの徹底を図るとともに、来年2月11日に首位オーストラリアをホームの日産スタジアムに迎える決戦に向けて始動する。(文=藤江直人)

2008年11月20日 06:20|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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