Home > 本日の論! > 釜本監督誕生は"誤報"だった!

釜本監督誕生は"誤報"だった!


「やらないよ、監督なんか」
 苦笑いを浮かべ、語気をやや強めながら、日本サッカー協会の釜本邦茂名誉副会長は自身についての報道を全面否定した。
 静岡県1部リーグに所属する「藤枝ネルソン」の監督に釜本氏が就任する、というニュースが報じられたのは1月下旬。ガンバ大阪の監督を退いた95年以来、14年ぶりの現場復帰という内容は新聞各紙におけるスペースこそ小さかったものの、釜本氏を知る周囲に与えたインパクトは強烈だったようで、大阪市北区にある「株式会社 釜本企画」には報道から数日も経たないうちに親交のある俳優・松平健さんから祝福の蘭の花が届けられた。
 その後に『論スポ』2月号の取材で釜本氏の事務所を訪ねた際、京都・山城高‐早稲田大‐ヤンマーディーゼル‐ガンバ大阪監督‐日本サッカー協会幹部と歩んできた同氏が縁もゆかりもない街のサッカークラブを率いることになった経緯を聞いたところ、即座に返ってきたのが冒頭の発言だ。
 いわゆる"誤報"となるが、だからといって釜本氏が激怒しているわけでもない。
 このちょっと不可思議な報道の背景には何があるのか。そもそもが「藤枝ネルソン」ではなく「藤枝ネルソンを母体として発足する新チーム」という点がミソだ。
 その新チームを運営するのは東京・渋谷区のウェブ制作会社「Jプレイヤーズ」で、同社の小山淳社長が早稲田大学サッカー部OB。つまり釜本氏の後輩であり、さらに釜本氏のブログを同社が管理している。そういう間柄もあって新チームへの協力を求められ、二つ返事で快諾したことがいつの間にか「監督就任」と独り歩きしたのが真相だという。
「後輩といっても年齢は確か32歳。親子みたいなもんや」
 この4月で65歳になる釜本氏は再び苦笑いしながらこう続けた。
「監督となったら試合に全部行かなあかん。そんなの、行かへんやん。だから、監督じゃないよ、と。月に一回ぐらいはサポートに行ってあげる、というものですよ」
――新チームを立ち上げる過程でのスーパーバイザーみたいな役割でしょうか。
「そうや、それ! インターネットって流行りだし、面白い試みだと思ったからね」
――それが"監督就任"となった経緯は。
「知らんよ。チームのほうから(出たの)かもしれんし、(ブログで)面白いと言ったことが『監督』として受け止められたのかもしれんし。ようわからんわ」
 くだんの報道は時事通信から配信された。スポーツ新聞に勤務していたからよくわかるが、新聞社は共同通信および時事通信からの配信される報道を全面的に信頼している。盲目的と言っても過言ではないだろう。だから、今回のようにネームバリューのある人物の去就に関するニュースはほとんどスルーで紙面化されることが決して少なくない。
 釜本氏はこう続ける。
「ちゃんとオレのところに裏付けの電話取材をしてきたのは朝日と読売だけや」
 それでも、二紙とも見出しは「監督就任」だった。スポーツ新聞を含めた他の媒体における当事者のコメントは、釜本氏によれば「みんなオレのブログからや」という。報道に携わってきた者として、身につまされる思いをせずにはいられなかった。


 話は戻るが、大学の後輩うんぬんを抜きにして、釜本氏は小山氏の挑戦に期待している。だからこそ、言葉が独り歩きした件はまったく意に介していない。むしろ、釜本氏のネームバリューで「藤枝ネルソン」が広く認知されたことを歓迎していると言ってもいいだろう。
 スタートは昨年10月。オンライン・コミュニティーをホームとするオーナー会員の集合知で現実のクラブチームを運営する「MYFC」を「Jプレイヤーズ」が立ち上げ、運営対象となるチームを募った約3000人の無料会員ユーザーによる投票で過半数を獲得したのが「藤枝ネルソン」だった。
 藤枝市出身の小山社長の理念の多くの会員が賛同し、さらには同チームの監督が「サッカーを始めた自分の子供を指導するために辞めた」(釜本氏)という事情も手伝ったが、今後は3月下旬までにクラブビジョン、新しいクラブ名やカラー、エンブレム、ユニフォームなどが会員の議論と投票によって決定。その後もチーム戦術や監督、補強方針などもすべてオーナー会員が決め、さらには夏をめどに一人年間1万円の有料会員制に移行。その資金をクラブ運営費などに宛て、将来のJクラブ入りを目指すという。
 世界中を席巻している金融危機の煽りを受け、バブル経済崩壊時に続いて日本の企業スポーツが再び冬の時代に突入している中、インターネットで募った会員がクラブオーナーになる方式は日本のスポーツ文化を変えうる斬新なアイデアであることは間違いない。日本のスポーツ界では初の試みだが、同じような形態のサッカーチームはすでにイギリスで一例があるという。
 しかし、現実に目を向ければ理想との「乖離」をいやがおうにも突きつけられる。
 現時点で「藤枝ネルソン」には約30人の選手が所属している。藤枝東や清水商などサッカーで有名な高校のOBも在籍しているが、もちろんプロ選手はいない。全員が生計を立てるために仕事を抱えているアマチュアだ。
 釜本氏はこう指摘する。
「だから、いまは練習なんてしてない。というより、できない。藤枝市だけでなく、静岡県下にみんな住んでいて仕事をしているわけやからね。みんな自主練ですよ。で、試合が始まる1時間半ぐらい前に初めて集合して、やっとみんなで練習できるわけですよ。(小山社長に)聞いたら、試合後の食事代や交通費は支給できるようにします、と言っていたけど。静岡県リーグ、その上の東海リーグまでは日帰りでも何でもできるかもしれんけど、さらにその上のJFLになったら年間1億円はかかるからね」
 北は秋田から南は沖縄までチームが存在するJFLにおいては、宿泊を含めた遠征費だけをとっても地域リーグと比べてケタが違ってくる。現在の無料会員が全員有料化に賛同したとしても3000万円しか集まらない。遠征費に加えて練習グラウンドの確保、クラブハウスなど練習環境の整備、選手に対する最低限の金銭保証、首脳陣に対する報酬など、お金が発生する件を数えたら枚挙にいとまがない。
 釜本氏はJFLの将来に対して危機感を覚えずにはいられないという。
「我々がプレーしていた日本リーグがJリーグになって、JFLは本来はアマチュアのリーグだったわけですよ。それが上位の数チームがJ2に上がれる登竜門になり、その一方で絶対にプロ化はしないとしている本田技研や佐川急便というチームや大学のチームも所属している。この状況をどう考えるか。極端な話、遠征費の負担を考えればJFLを東西に分けて、最大12チームずつにして2回戦総当りで戦い、上位2チームずつが決勝トーナメントに行くような形でもええやないか」
 口調はさらにヒートアップ。サッカーを愛するがゆえに、釜本氏はチーム増を急ぐJリーグ本体への警鐘を鳴らした。
「J2も今年から18チームにまで増えて、黒字のチームはいくつあると思うんや? 全部赤字ですよ。これでプロか、という話にもなる。みんな破綻寸前ですよ」
 あるJ2のチームのフロント幹部は自宅を抵当に入れているという。およそプロとは呼べない低年俸に劣悪な練習環境。将来への希望と周囲の熱意に支えられている脆弱なチームは決して少なくない。どのチームも「J史上初の」という形容詞をつけられたくないだけで、だからこそひとつが破綻すれば「負の連鎖」が起こらないとも限らない、というわけだ。
 こうした思いに後押しされての還暦を超えてのチャレンジでもあるのだろう。
「インターネットのことはよう知らんけど、サッカーのことに関してはどんどんアドバイスしていきますよ」
 いわば"カマモト流"のサッカー界への恩返し。この話をしている間も、釜本氏の携帯電話には何度か着信があった。豪快な性格の釜本氏らしく、目の前で大声で話をするので大方の内容は察しがついた。スポンサーの件など、Jクラブの財政に関する相談だったようだ。
 もちろん「監督就任」を祝福され、それを笑いながら否定するやり取りで大いに盛り上がっていたことは言うまでもない。


 ちなみに、本来の取材は野球のWBCに関して「勝手に監督」と題し、各界の野球好きに過去と現在の2通りのベストナインを選出してもらうものだった。
「生まれ変わったら阪神タイガースの監督になる」
 こう公言してはばからない、熱狂的な虎党である日本サッカー界屈指のストライカーがどんな人選をしたか。発売中の『論スポ』をぜひ購入してご覧ください!(文=藤江直人)

2009年2月25日 00:55|記事URLコメント(1)トラックバック(0)

トラックバック(0)

この記事のトラックバックURL: http://sv62.wadax.ne.jp/~sports-times-jp/mt/mt-tb.cgi/273

コメント(1)

誤報ではありませんよ。暫定監督として書かれていますし、逆にこの記事が誤報ですね。

コメントを書く