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V候補・川崎フロンターレに見た進化の跡


■J1第1節
川崎フロンターレ(勝ち点1)1‐1 柏レイソル(勝ち点1)
[3月7日PM4:00キックオフ@等々力陸上競技場/観衆1万7841人] 

 J1の監督や選手に今シーズンの展望を聞くと、必ずと言っていいほど同じ言葉が返ってくる。
「今シーズンも混戦になりますから」
 まさに群雄割拠の戦国時代。その覇者を決める12月までの長い戦いが7日に幕を開けた。J1の7試合の中で注目したのが川崎フロンターレと柏レイソルの一戦。昨シーズンは優勝した鹿島アントラーズに勝ち点差3、わずか「1勝」の差で2位に甘んじたフロンターレが、今シーズンこそ悲願のチーム初タイトルを手にする――優勝候補に推させていただいた軍団は、後半21分の選手交代を境にまったく異なるふたつの顔を見せた。


 フロンターレの最大の魅力はその圧倒的な攻撃力だ。昨シーズンのチーム総得点65はJ1でダントツの1位。その一方で42を数えた失点は、J1最少の大分トリニータの24、優勝したアントラーズの30に比べて多いと言わざるを得ない。
 実際、長丁場のリーグ戦ではまず守備からチームを組み立てるケースが多い。しかし、昨シーズンが佳境に差し掛かった頃、堅守速攻で上位戦線に踏み止まっていたトリニータのサッカーについて、フロンターレの主力選手はこんな見方をしていた。
「ただ守るだけのつまらないサッカー。ウチらのスタイルがJで一番面白い」
 取られたら取り返す。例えるなら「殴り合い」のスタイルは確かに観ている者にとって爽快だ。しかし、それだけでは超えられない壁が必ず訪れる。J1で2位が2回、ナビスコカップでも準優勝を2回記録しているフロンターレが頂点に立つために必要なものとは何か。ゲームキャプテンを務める日本代表MFの中村憲剛は、アントラーズにあってフロンターレにないモノをしっかりと見極めている。
「経験に裏打ちされたしたたかさ。調子が悪い時でも1対0で何とか勝てるようにすること」
 最大の長所である攻撃力をスポイルするつもりは毛頭ない。しかし、9か月に及ぶ戦いでは必ずチームにも個人にも好不調の波が訪れる。ましてや、今シーズンのフロンターレはACLも戦い、W杯アジア最終予選を戦う日本代表にも中村、GK川島永嗣、DF寺田周平が選出。タイトなスケジュールとも戦わなければならない。
 昨シーズンの成績は18勝6分け10敗。アントラーズが18勝9分け7敗だっただけに、黒星のいくつかを引き分けに、引き分けのいくつかを白星にもちこんでいれば......との思いは余計に強くなるわけだ。中村はこう続ける。
「はっきり言って負けすぎ。負けるのはダメ。リーグ戦は勝ち点の積み重ねだから」
 ヴィッセル神戸に移籍したFW我那覇和樹を除けば、昨シーズンの戦力はほぼ残留した。選手から厚い信頼を寄せられながら、昨年4月に不整脈を患って辞任した関塚隆監督も満を持して復帰。スタートダッシュに失敗し、途中で指揮官や大黒柱のFWフッキが退団する中で体制を立て直しての2位を、中村は「チームに地力がついた証」と見ている。ならば、頂点に手が届かなかった悔しさを糧にどのように進化したのか。それがいきなり開幕戦で試される展開となった。


 レイソル戦に先発したフロンターレの攻撃陣はジュニーニョ、北朝鮮代表の鄭大世の2トップにヴィトール・ジュニオール、レナチーニョの2列目。昨シーズンからカルテットを組んでいるだけに連携面などはまったく問題なし。昨シーズンの2戦で8ゴールを奪った「お得意様」のレイソルが相手とあって、スタジアムにはキックオフ前から「殴り合い」ではなく「殴りっ放し」への期待感が充満していた。
 しかし、開幕戦の独特の緊張感が漂う中、ほぼ満員のスタンドの大声援に後押しされて気負ってしまったのか、「個」としては強力でもそれが「チーム」として噛み合わない。というより、個人技頼みの強引な攻撃に終始し、厚みのある攻撃を仕掛けることができない。
 前半を無得点で折り返し、迎えた後半5分。サイド攻撃からレイソルのMF菅沼実にゴールを割られると、焦りからか個人技偏重の攻撃にますます拍車がかかる。そして21分に関塚隆監督が動いた。カルテットの一角であるヴィトール・ジュニオールに代わって2年目のDF横山知伸の投入。1点ビハインドの状況で守備の選手を投入する仰天采配。しかし、選手たちは指揮官の意図をしっかりと感じ取っていた。
 試合後の中村はこう語っている。
「試合中にああやって形が変わると相手も付きにくいと思う。それは関さん(関塚監督)も考えていたと思う。今日は2列目の飛び出しが少なかったので、それをオレとタニ(谷口博之)がやることでテセ(鄭大世)、ジュニ(ジュニーニョ)、レナト(レナチーニョ)が楽になったと思う」
 横山は最終ラインの前、中盤の底で守備を担った。その効果で、中村と谷口の両ボランチが前へ出やすい状況が生まれ、相乗効果で伊藤宏樹、山岸智(38分から森勇介に交代)の左右のサイドバックが攻撃により絡めるようになった。
 鄭の同点ゴールが生まれたのは32分。右サイドに流れたジュニーニョからのパスにペナルティーエリア内に進入してきた中村が反応。シュートは打てなかったものの、こぼれダマを鄭が豪快に柏ゴールに蹴り込んだ。20本というシュートの総数が示すように、その前後も怒涛の波状攻撃が繰り出されたのは言うまでもない。
「いつもだと慌ててミスが増えて、カウンターを食らうパターンが多かったんですが、今日は押し込んで取りきって攻めていたと思う。それがボディーブローのように利いていたのかな」
 勝ち越し点を奪えなかった悔しさはあるが、それでも昨シーズンまでなら負けていた展開で引き分けに持ち込んだ内容に、中村も少なからず手ごたえを感じているようだった。


 Jリーグ元年から優勝を争ってきた経験がチームの骨格の中に血肉として刻まれているアントラーズ。昨年のアジア制覇で、さらにはクラブワールドカップでマンチェスター・ユナイテッドと殴り合いを演じたことでさらに自信を深めたガンバ大阪。今シーズンを引っ張るのはこの2チームであることに異論はないし、実際、開幕戦も快勝で飾っている。
 ならば、この2強の間に割り込み、追い越すポテンシャルを秘めているチームはどこか。個々のタレント力では群を抜く浦和レッズ。2シーズン目を迎えたドラガン・ストイコビッチ監督の下、さらに攻撃的なサッカーを貫こうとする名古屋グランパス。この2チームに関してはもちろんYESとなるが、レイソル戦で見せた選手の試合中における修正能力、指揮官と選手の意思統一ぶりを見れば、フロンターレがその最大の候補であるとの思いはさらに膨らんだ。
「内容的な部分ではこれからで、まだ何とも言えません」
 試合後の公式会見。引き分けに持ち込んだ絶妙の采配に関して関塚監督は控えめな発言に終始したが、「我々が目指す全員攻撃・全員守備という部分はみんながやってくれたと思う」と勝負をかけるシーズンへの手応えも口にした。
 中村が描く優勝への青写真はいたってシンプルだ。
「まず20勝しないとダメ。そこから残り14試合の中でいかに負け数を減らすか」
 白星をひとつ損したのか。貴重な勝ち点1を拾ったのか。ホームゲームだけに勝てなかった悔しさも確かに残るが、この日のレイソル戦の価値が最終的にわかるのは12月の第1週。長丁場のゆえにハラハラドキドキするシーズンが、今年も始まった。(文=藤江直人)


2009年3月 8日 01:07|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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