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「キング・カズ」に魅せられる理由
■J2第1節
湘南ベルマーレ(勝ち点3) 2‐1 横浜FC(勝ち点0)
[3月8日午後4時キックオフ@平塚競技場/観衆8221人]
キックオフ時に約9度だった気温が、時間の経過とともにグングンと下がる。風は強さと冷たさを増し、ペンを持つ手もかじかんできた後半5分。Jリーグの歴史に新たな1ページが刻まれた。
FW池元友樹アウト、FW三浦知良イン。
先月26日に42歳になったばかりの「キング・カズ」が、ラモス瑠偉氏がヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)時代に樹立したJ1を含めたリーグ戦の最年長出場記録、41歳9か月と5日を実に11シーズンぶりに更新した瞬間だった。
勢いよくピッチに飛び出していくユニホームはもちろん半袖だ。クロアチア・ザグレブに所属していた1999年。4歳年上のキャプテン、DFゴラン・ユーリッチが雪舞う極寒の中でも常に半袖でエネルギッシュにプレーする姿に感銘を受け、以来、半袖を自身のトレードマークにすることに決めてからちょうど10年。その間、所属チームが京都パープルサンガからヴィッセル神戸を経て横浜FCへ、プレーするステージがJ1からJ2に変わってもひたすら現役にこだわり、努力と節制を積み重ねてきた男が勝ち取った勲章だった。
もちろん、試合中はそんな感傷に浸っている時間はない。0対1の劣勢が続く中で、樋口靖洋監督から指示されたポジションはトップ下。得意のキープ力を生かして敵陣でタメを作り、味方がゴール前に攻め込む時間を作り、1トップとなった難波宏明をサポートし、自らもゴールに絡む任務を託されたが、最初のボールタッチは自陣のペナルティーエリア付近。全力で戻り、相手のクロスボールを左足でクリアしたプレーだった。
何がなんでも勝つ。カズの気迫が伝わってくる場面だったが、悲しいかな、チームはカズ投入の3分後に再び失点。攻めてもロスタイムに1ゴールを返すのが精いっぱいの内容に、指揮官も「正直、現時点では湘南さんの完成度が高い」と完敗を認めるしかなかった。
敗れながらも試合後の「主役」となったカズにも、もちろん笑顔はなかった。
――リーグ戦における最年長記録を更新しましたが。
「正直言って、あまり意味のないことだと思う。今日、勝てなかったので。個人の記録というものの意味はないと思う」
平塚競技場のスタンドでは、長く日本のサッカー界の発展に携わってきた日本サッカー協会のOBが観戦していた。
「カズは頑張っているね。もう走れないけど、あの姿を見ていると頭が下がるよ」
そのOBは記録を更新した大ベテランに目を細める一方で、J1を含めた現在の日本サッカー界に警鐘を鳴らさずにはいられなかった。
「いまの選手からは本当に魅力が感じられない。Jリーグの最初の頃は今よりもかなり下手くそだったのに、なぜあれだけ大勢の人をひきつけることができたのか。もう一回、そのあたりをよく考えないといかんよね。当時はヘタだったけど必死だった。真摯さが感じられたんだよね」
このOBも決していまの選手が必死にプレーしていない、サッカーに対して真摯ではないと言っているのではない。ただ、Jリーグの創成期も取材している私自身、OBの言葉には少なからず共感するものがあった。
あの時には感じた「ときめき」を感じる回数は確かに激減している。
Jリーグも17年目を迎え、チーム数はスタートした1993年の「10」からJ2を含めて「36」に増え、将来の参入を目指す予備軍も全国に産声を上げている。J3構想すら唱えられる中で、忘れられているものもあるのではないか。OBはこの点を指摘したかったのだろう。
創成期の選手たちは「プロ」という言葉に憧憬の念を抱いていた。長年の夢が実現すれば、当然のようにプレーに反映される。それだけではない。産声を上げたばかりのJリーグを発展させていかなければならない。消滅した北米リーグの二の舞も後退も許されない。
1993年5月15日。国立競技場で行われたヴェルディ川崎と横浜マリノスの開幕戦。華やかな開幕セレモニーの様子が伝わってくる通路で入場を待っていた加藤久(現京都サンガ監督)、木村和司(現サッカー解説者)らのベテラン勢が敵味方なく抱き合い、涙を流しながら決意を新たにしていた光景は今も目に焼きついている。
時は流れ、いまは「プロ」があるのが当たり前となった。現役選手たちの多くも、もの心がついた時には将来の夢のひとつに「Jリーグ」と刻んでいたはずだ。
それはそれで素晴らしいことだ。しかし、「飽食」と例えると語弊があるかもしれないが、それでも恵まれた環境の中でハングリーさというものが失われつつあるのではないか。
今シーズンは実施されないが、ここ数年は12月の風物詩でもあったJ1とJ2の入れ替え戦に最も興奮させられていたこととも決して無関係ではないだろう。J1のステータスを失ってなるものかという執念と何がなんでもJ2からはい上がるという闘志の激突は、実際、数々の名勝負を生んできた。
ただ、そのOBもカズからはいまも色褪せない1993年当時の魅力を感じるという。
閑散としたスタンドの中でアマチュアの日本リーグが行われていた時代に「絶対にプロになる」と誓い、静岡学園高を1年で中退して単身ブラジルに渡った話はいまさら繰り返す必要もないだろう。帰国後のJリーグ創成期における大活躍も然り。W杯フランス大会に臨む日本代表から直前で外され、限界説が指摘されてからすでに10年以上の歳月が過ぎている。
ついに1993年のJ元年から17年連続でプレーする唯一の選手になった。
もちろん、誰もが現役に別れを告げる日が訪れる。以前にこの件についてカズに尋ねたとき、返ってきたのはこんな言葉だった。
「その日をできるだけ近づけないようにしたい」
ある時には、こうも語っている。
「例えJFLでも自分を必要としてくれるチームがあれば現役を続けたい」
ジュビロ磐田の中山雅史と並んで、その去就に関しては「アンタッチャブル」な存在であることは想像に難くない。ただ、いくら本人が望んでも契約を望むチームがなければ現役を続けることはできない。スピードは確かに落ちたかもしれないし、カズよりテクニックのある若手も少なくないだろう。しかし、それを補って余りある経験が、何よりも1年でも長く現役を続けることへの貪欲なまでのモチベーションの高さがある。その姿を間近で見る若手選手に与える影響は計り知れないほど大きい。
今シーズンも例年通り酷暑のグアムキャンプでの体作りから1年をスタートさせた。試合の数日前からはエネルギー代謝を重視してパスタ三昧の食生活に切り替え、シーズン中も体脂肪率を維持することに専心する。誰よりも早く練習グラウンドに到着し、入念に体をケアする。
ファンもカズの必死さ、サッカーに対する真摯な姿勢、Jリーグ創成期の興奮と感動、何よりも今シーズンもプレーできる「歓び」をピッチの上の一挙一動から感じるからこそ、42歳のチャレンジャーに魅せられるのだろう。さすがに湘南サポーターはブーイングで背番号「11」を出迎えたが、カズがアップを開始した瞬間からスタジアムには期待感が充満し、登場後はそのドリブルに、十八番のまたぎフェイントに幾度となく沸いた。
試合後の公式会見で、湘南の反町康治新監督も思わずこう切り出したほどだ。
「ここに集まったメディアの半分は、カズが1ゴールすることを楽しみにしていたと思うんですけど」
もちろん、カズも「伝道師」になることが自身の役目とは思っていない。
現役である以上はチームの勝利に貢献することはすべて。1年でのJ1返り咲きを目指しながら10位に低迷した昨シーズンに募らせた不甲斐なさはいまも忘れていない。試合後のカズとの一問一答から伝わってきたのは、開幕戦黒星に対する悔しさだけだった。
――昨シーズンは出場できなかった開幕戦に出場しましたが。
「チームのリズムがよくなかったので何とかボールを落ち着かせることを意識したんですけど。効果的なチャンスをなかなかつくることができずに残念です。自分自身、グラウンドの中で(リズムを変えたことを)体感できなかった。もっといいプレーができると思うし、みんなと連携した中で生きるプレーをしていきたい。今日はそれが少なかった。満足できません」
――改めてうかがいますが、最年長記録の更新のことは。
「意識はしませんでした。個人の記録よりもチームが勝たないと。J2からJ1に上がるという目標があるので、それに何とか貢献したい」
――ラモスさんの記録を抜いたことになりますが。
「これじゃあラモスさんに怒られる。最初から出ろってね。先発して90分間戦ったらラモスさんといろいろ話をしたいですね」
――やはり先発で出たかった、と。
「どんな役割でも準備することは変わらない。あと50試合残っている。といっても、シーズン(が過ぎるの)は早いので、気持ちを切り替えて、一戦一戦大事に戦っていきたい」
18チームが3回戦総当りで、1チームあたり年間51試合を戦う世界でも例を見ない長丁場のJ2戦線。週に2試合を戦うことも多く、日本代表戦があっても中断されることはない。
コンディションが最も重視される中で、42歳の現役プレーヤーという日本サッカー界にとって「未知の領域」に挑む男から今シーズンも目が離せそうにない。(文=藤江直人)
2009年3月 9日 02:52|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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