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岡田ジャパン/世界を「辟易」とさせるスタイル


■W杯南アフリカ大会・アジア最終予選
日本代表(勝ち点11) 1‐0 バーレーン代表(勝ち点4)
[3月28日午後7時20分キックオフ@埼玉スタジアム/観衆5万7276人]


 欲を言えばあと1、2ゴールを挙げていれば、というのが正直な思いだが、それでも最後まで安心して試合を見ていられた。
 この1年間で5度目の対戦となり、過去4戦の成績が2勝2敗だったことから「宿命の」といった類の大袈裟な枕言葉がつけられたバーレーンとの一戦は、昨日のこの「論」でも指摘したように「いつもの」サッカーを貫き通した日本代表のスコア以上の圧勝に終わった。
「コングラチュレーション!」
 かつてオマーンやクウェートを率いて日本と戦った経験をもつバーレーンのミラン・マチャラ監督は、試合後の公式会見を祝福の言葉で切り出した。
「この勝利で日本の本大会出場はほぼ決まった。7、8割の確率で南アフリカに行けるだろう」
 日本を熟知したはずのチェコ人の知将は「チームの質が違った。お互いがプレーするリーグの質も違う」とも繰り返した。埋められない日本との実力差を認め、白旗を挙げた瞬間だった。
 

 この試合を落とせば南アフリカ切符を自動的に獲得できる2位以内に入ることがほぼ絶望的となるバーレーンだったが、前がかりになってゴールを奪いにくるかと思いきや、4バックの前に3人のMFを配置。前線は8番のジェイシー・ジョンの1トップで、まず失点をしないことを念頭に置いた布陣で臨んできた。
 そこからはリスクを冒す勇気はもちろん、日本代表を率いる岡田武史監督の言う「蛮勇」になってでも勝利をもぎ取ろうという決意すら感じられない。狙いはグループAの3位に入ってグループB3位とのプレーオフに回ることに切り替えられていたのだろう。攻撃はカウンターが主体。岡田監督の予想とは正反対の試合展開になった中で、日本もしたたかに攻め方を変えた。
 190センチ台の大型のセンターバックを擁するバーレーンが守備網を厚くすれば、左右からクロスを入れても弾き返されてしまう。ならば、敵陣での細かいパス交換、狭い局面でのワンツー、あるいは玉田圭司や田中達也、大久保嘉人のドリブルで突っ掛ける。これらの攻撃を愚直に繰り返した前半は、まさにボディーブローとなって相手にプレッシャーを与えた。
 迎えた後半2分。ドリブルで突破を試みた玉田をたまらずファウルで止めてしまう。中村俊輔、遠藤保仁とFKの名手2人を擁する日本を警戒し、直接FKを狙える場所では努めて反則を犯さなかったバーレーンの守備網がついに決壊。直後に中村の左足から決勝ゴールが放たれた。
 岡田監督は試合前のミーティングであえて何も言わずに選手を送り出したという。
「今回の一連のキャンプを見ていて、何も言う必要はない、余計なことは言わない方がいいだろうと思って。選手たち自身が今の状況、相手の戦い方、そして自分たちの強みは何かということを自覚して戦ってくれました。素晴らしい試合をしてくれた。このチームは時々しか集まれないにもかかわらず、集まるたびに少しずつチームになってきていると感じています」
 ゴールが奪えなかった前半も日本に焦りはなかった。むしろ、「いつもの」サッカーに拍車がかかっていた。
 バーレーンの選手がボールを持つと、とたんに日本の選手数人が襲い掛かる。その中には、ボールを取られたばかりの選手の姿も。その光景はまさに青い「波」と言ったところか。
「1試合で平均10キロを走るのが普通ですけど、11キロ走れば我々は12人で戦えることになる。そうしたら十分にチャンスはあると思う。選手にもそう言いました」
 キックオフ時の気温が8度、湿度42パーセントと絶好のコンディションの中で運動量でもバーレーンを凌駕し、幾度となく決定機を作った。だからこそ指揮官も「素晴らしい試合をしてくれた」と選手に惜しみない賛辞を贈ったのだろう。


 さらに、この日は「いつもの」日本代表のサッカーに「ある変化」も見て取れた。
 先制されてプランを狂わされたバーレーンはさすがに攻めに人数を割くようになり、必然的に日本が攻め込むスペースとチャンスが増えた。鮮やかなボール回しから後半13分に田中達、20分には右サイドバックの内田篤人が決定的なシュートを放っている。
 田中の一撃は相手GKの必死のセーブでCKとなり、内田の会心の軌道はバーに阻まれたが、ここで注目したいのはその瞬間の「ゴール前」だ。いずれも青いユニホームが3人、ゴール中央と左右にしっかりと走り込んでいたのだ。田中のシュートをGKがピッチ内に弾き返していたら1点もののシーンだった。
 クロスを上げても肝心の相手ゴール前の人数が足りない。2月のオーストラリア戦まではよく見られたタメ息を誘う光景が、この日のバーレーン戦ではほぼ解消されていた。
 本来ならば当たり前のことなのだが、国際試合、それもW杯出場がかかる舞台では攻守が切り替わった後のことを考えると、頭では「リスクを冒さずしてチャンスなし」と理解していてもなかなか実践できなかった。
 しかし、最終予選においてホームでまだ白星がない状況を選手たちが何とか打破したかったのだろう。岡田監督から「ボールを取られたら全力で戻れ」と基本中の基本を再徹底されたことで目が覚めた部分もある。日本はいったい何人で戦っているんだ。相手にしてみればそんな幻想を覚えてしまうほど、日本の運動量は3分間のロスタイムを含めた最後まで衰えなかった。


 試合後の公式会見では、ボール支配率が6割を超えながらセットプレーによる1ゴールのみに終わった攻撃の根本的な部分を懸念する声も上がった。いわく、ゴールを奪うには戦術以外の要素もあるのではないかと。
 ひな壇の岡田監督は意を決したように持論を展開した。
「JリーグではほとんどのチームがストッパーとセンターFWが外国人ということから見ても、日本人のボールを取る部分でのタレントが欠けているところがあるのかもしれない。技術委員会がいろいろなことを言っていると思いますが、じゃあどうする、というところから僕たちは始まっている。外で起点を作って中にボールを入れるだけでは勝てない。勇気を持って中に起点を作って、そこからディフェンスラインの裏を狙っていく。流れの中で点が入りそうにないかもしれないが、それでセットプレーを取って、セットプレーで点が取れるかもしれない。それを繰り返していくことが一番大事だと思っています。それに、このチームは点が取れないチームではありません。このグループで一番点を取っているのは我々です。その意味で僕は日本人に何が欠けているかを検証するつもりはないですし、どうやって目標を達成するかに集中しています」
 バーレーン戦ではFW陣でただ一人の180センチ台だった矢野貴章がベンチ入りメンバーから外れた。サブのFWは、後半41分から田中達に代わって投入された173センチの岡崎慎司だけ。この采配から見ても、平均身長170センチの攻撃陣の運動量と俊敏性を前面に押し出した「岡田スタイル」を熟成させていく、という指揮官の不退転の決意が伝わってくる。
 W杯本大会が行われる来年6月は、南半球の南アフリカでは初冬となる。40度近い酷暑のピッチで心身のスタミナを消耗させ、未勝利のまま1次リーグ惨敗という結果とともにドイツの地を去った前回大会とはまさに正反対。バーレーン戦同様に、日本の青いユニホームが作り出す「波」は90分を通じて途切れることはないだろう。
 そこまで計算しての「岡田スタイル」ならば、あとは何があってもブレることなく、中身を突き詰めていけばいい。FWは大小の選手の組み合わせとするのが定石だ、といった具合に周囲は依然としてかまびすしいし、筆者も先に失点を許した状況でゴールを奪いにいくためのオプションを構築するべきだとこの「論」でも指摘してきた。
 それでも、会見でも表情をほとんど変えない指揮官は頑なに動かなかったし、これからも動こうとはしないだろう。就任時に豪語した「W杯のベスト4」はともかく、世界を驚かせる、というよりも辟易とさせるチームになる予感は漂ってきたと言っていい。


 同じ日にタシュケントで行われたウズベキスタン対カタールは4‐0で前者が圧勝した。この結果、勝ち点を「11」に伸ばした日本は試合のなかったオーストラリアを抜いてグループAの首位に浮上。最短で6月6日の次戦、敵地で行われるウズベキスタン戦の結果次第で4大会連続のW杯切符を獲得できる見通しになった。
 もっとも、選手たちはすでに先を見据えている。
「真ん中でゴチャゴチャするような動きもないと崩れない。外ばかり行っていてもね。チャレンジしていくことでゴールにつながる。今日はチャンスは作れたと思うけど、決定的なチャンスは作れていない。そこまで持っていきたい」
 決勝点の誘い水になるファウルを獲得した玉田が攻撃陣の発展途上を強調すれば、大黒柱の中村俊は今のスタイルで世界の列強に対峙した時のシュミレーションを早くも思い描く。
「ジーコのときのように親善試合でアルゼンチンと試合をしたりとか、(今の代表では)全然やっていないから。早く(予選突破を)決めて(本大会に向けた)準備もしておきたい」
 試合後にチームは解散した。次回の招集はキリンカップと、それに続くウズベキスタン、カタール、オーストラリアとのアジア最終予選3連戦に備えた5月中旬。それぞれの所属チームに戻る選手たちに対し、岡田監督はひとつだけ注文を出したという。 
「チーム戦術に反することをする必要はないですけど、ボールを奪われてから追いかけるとか、パスしてから走るとか、そういうことに対して怒る監督はいないと思う。ぜひ、今までの何割かでもそういうことにチャレンジしてほしいと言いました。そうすれば代表に来た時に、今まで80分しか持たなかったものが85分なり、90分なりに上がっていくと信じています」
 走る。平均値よりさらに1キロ多く走る。つまり、世界で一番走る。全員攻撃、全員守備、ハードワークを厭わない――からなる「岡田イズム」に新たな一項目が加わり、南アフリカ行きの切符もほぼ手中に収めた中で、日本代表は新たな段階に突入しようとしている。
                                      (文=藤江直人/写真=田口有史)

2009年3月29日 05:10|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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