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ジュビロ磐田が見せた2つの顔 by 藤江直人
■J1第5節
ジェフユナイテッド千葉(勝ち点3) 1‐1 ジュビロ磐田(勝ち点2)
[4月11日午後4時キックオフ@フクダ電子アリーナ/観衆1万4496人]
前半と後半。どちらが本当のジュビロ磐田なのか。
未勝利チーム同士が対峙した「注目」の一戦は、前半にジェフユナイテッド千葉、後半にはジュビロ磐田が1ゴールずつを挙げた末にドロー。第5節を終えた段階で、未勝利のチームは3分け2敗の前者、2分け3敗の後者にあとは開幕からなかなか勝ち切れない4分け1敗の柏レイソルだけとなり、年間王者に3度も輝いた名門ジュビロは依然として最下位に沈んでいる。
しかし、前半だけを見れば、ジュビロが低迷している理由は明白だった。
ジュビロの選手は確かに上手い。しかし、それはフリーでボールを持てば、の話だ。1対1ではタマ際でことごとく競り負ける。最終ラインの押し上げがないからセカンドボールをほとんど拾われる。運動量でも圧倒される。その象徴的なシーンは40分に飛び出した。
ジュビロ陣内のライン際に転がったルーズボールに対してジュビロのFWジウシーニョ、ジェフの右サイドバック坂本将貴がアクションを起こす。距離的には前者の方がやや近かったが、ボールを奪ってクロスを送れば絶好のチャンスになるだけに、後者も必死の形相で迫ってくる。
そして、ボールをはさんで激突と思われた瞬間、何とジウシーニョはボールへのコンタクトを避け、無抵抗で坂本にボールの支配権を渡してしまったのだ。痛みを恐れたのかどうかは分からない。すでにイエローカードを1枚もらっていたことも激しいプレーを自重させたのかもしれない。しかし、坂本のクロスをGK川口能活がキャッチしたからよかった、で済ませていい問題ではないことは誰の目に見ても明らかだった。
「あれは、よくなかったですね」
試合後の川口も思わず苦笑いした場面だったが、ベンチで戦況を見つめていたジュビロの柳下正明監督はそれ以上にショックだったのだろう。迎えたハーフタイム。川口によれば「決して怒る監督ではない」という指揮官が強い口調で、諭すように選手に切り出したという。
「今日のタマ際の弱さが続くようなら、絶対に勝てない!」
試合後の公式会見で、柳下監督は改めて前半の自軍を斬って落とした。
「何人かの選手は非常に怖がっているような、ブレーキをかけたようなプレーが見られた。前半は今シーズンで一番良くないゲームだったと思います」
ホームのヤマハスタジアムで行われた開幕戦で昇格組のモンテディオ山形に2‐6と歴史的大敗。アウエーの万博競技場に乗り込んだ第2節でもガンバ大阪に1‐4と粉砕されたジュビロは、一気に負のスパイラルに突入した。
黒星が自信を奪い、ミスをしてはいけないという思いがさらにプレーを消極的にする。しかし、若手が多いチームの自信喪失ぶりは何も今シーズンに入って顕著になったわけではなかった。
特に昨シーズンは序盤から波に乗れないまま低迷を余儀なくされ、最終的には16位でクラブ史上初の入れ替え戦へ。粘るベガルタ仙台を何とか振り切ってJ1残留を勝ち取ったが、名門再建への第一歩となる今春のキャンプを視察したあるサッカー評論家は、チームのあまりの覇気のなさに驚きを隠せなかったという。
「まったく声が出ていない。例えは悪いけど、まるでお通夜のようだった」
ジュビロの黄金期を支えた藤田俊哉、福西崇史、田中誠らのベテラン選手が次々と、まるで追われるようにチームを去り、昨シーズン限りで引退した名波浩も晩年の2シーズンは他チームに期限付き移籍した。現時点で最後のJ1年間総合優勝となっている02年シーズンを戦った主力は、この日のジェフ戦のスタメンに一人も名前を連ねていない。
7年もの歳月が過ぎればあり得ることかもしれないが、それでも一気に血の入れ替えが施され、若返ったチームが伝統と現実のはざまにもがき、重圧に苦しんだ挙げ句に伸び悩んだことは容易に想像できる。世代交代およびチーム作りの完全なる失敗。計10失点での開幕連敗スタートは必然的な流れでもあった。
ここで立ち上がったのが、ジュビロでの不振もあって日本代表から外れた川口だ。
「まずは守備陣との連携やポジショニングを徹底して話し合った。仮にミスを犯したとしても下を向かせず、ポジティブに切り替えさせる勇気を持たせること。冷静に戦えば勝てる、という雰囲気をチームの中に作るようにしました」
ノアシェラン(デンマーク)から加入して5シーズン目。五輪やW杯に代表される大舞台を何度も経験している百戦錬磨の守護神は、もちろん自分自身に高いノルマを課すことも忘れない。
「取られたとしても1ゴール。そうすれば勝つ確率は高くなる」
言葉に偽りはない。第3節以降の失点は、スコアレスドローのナビスコ杯2試合を含めて5試合で3。残り3試合は1失点にとどめている。ジェフ戦の前半19分に喫した失点も、FW巻誠一郎と競り合ったDF那須大亮のオウンゴール。後半8分にはペナルティーエリア付近でのルーズボールをMF工藤浩平に強引に拾われ、そのまま強烈なミドルシュートを打たれたが、懸命に伸ばした左手で弾くファインセーブでCKに逃れた。
これが決まっていれば2点のビハインドとなり、敗色はさらに濃くなってしまう。まさに断崖絶壁の大ピンチで「公約」を果たした33歳の守護神はその瞬間、タマ際で競り負けてボールを工藤に奪われたMFロドリコの心情を慮っていたという。
「ミスを失点に直結させてはいけない。下を向かせないことが次につながる。(1点目のオウンゴールは)精神的に尾を引きそうなパターンだった。何とか悪い流れを断ち切り、ウチに引き寄せるためには、これ以上得点を与えるわけにはいかなかった」
このビッグプレーを境に戦況は大きく変わっていった。
それは、両チームのボール支配率を見れば一目瞭然だ。前半には57パーセント対43パーセントでジェフが圧倒した時間帯があったが、次第にジュビロが押し戻す。そして、51パーセント対49パーセントとほぼ互角になってから間もない29分。ジュビロの猛攻の前に坂本がたまらず自陣でファウルを犯してしまう。DF駒野友一が蹴ったFKを、ここまで4戦ノーゴールだったエース前田遼一が頭で押し込んだ。
その後は一進一退の攻防が繰り返され、ロスタイムにはジェフのMFアレックスが強烈なシュートを放つも再び川口が防波堤となってゴールを死守した。初勝利こそ手にできなかったが、後半の戦いぶりはジュビロの柳下監督に低迷脱却への手応えを感じさせるに十分だった。
「ビハインドの状態で非常に勇気を持って前のスペースに飛び出す選手が増えたし、最終ラインの押し上げもきちっとできていた。点を取りにいくという姿勢はピッチ上で表現できた。粘りというものが出てきたかな、と思います」
そのハーフタイムには、同じく未勝利だった横浜F・マリノスが5‐0で快勝した一報も入っていた。このままだと、ダントツの最下位となってしまう。危機感が起爆剤となったのか。テクニックには長けるものの、淡白なプレーを繰り返していたジュビロの選手たちが前半は欠けていた「強さ」を身にまとい、イビチャ・オシム前監督時代に日本代表に招集されたこともあるMF太田吉彰を中心に豊富な運動量でジェフを心技両面で圧倒する。
最後尾に立つ川口には、チームの変貌がはっきりと見てとれた。
「タマ際の強さと戦う姿勢。どんなに上手い選手であっても、やはりそれがサッカーのベースですから。前半からあのサッカーができればいいんですけど(苦笑)。とにかく、負けなくてよかった。勝ち点0と1とでは全然違う。辛抱する時期も必要だと思っていますし、前田がゴールを決めればチームに勢いが出る。みんなもそれを感じています」
全34試合、12月第1週まで争われる長丁場のJ1。まだ5試合を終えた段階だが、一度狂ったリズムを立て直すのは決して容易ではないことは、昨シーズンに痛いほど味わっている。現時点で勝ち点はまだ2の最下位。今シーズンは入れ替え戦が実施されず、16位以下の3チームが自動的にJ2に降格するシステムも時間とともに重圧になってくるだろう。
それでも、後半のジュビロなら下位に低迷することはまずありえない。ならば、前半と後半、どちらが本当の姿なのか。後半の人もボールも動くサッカーは指揮官の檄と危機感が生み出したこの日限りの産物なのか、あるいはジュビロのポテンシャルが顕在化したものなのか。
川口は笑顔で即答した。
「もちろん(後半が)本来の姿です」 (文=藤江直人)
2009年4月12日 01:23|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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