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超大物ルーキー・大迫の未来を後押しする3つの証言 by 藤江直人
■J1第5節
鹿島アントラーズ(勝ち点12) 2‐1 FC東京(勝ち点6)
[4月12日午後1時キックオフ@味の素スタジアム/観衆3万2913人]
その瞬間、鹿島アントラーズのFW大迫勇也は3つの選択肢を思い浮かべたという。
1点をリードして迎えた前半15分。DFパク・チュホのタテへのパスに反応して、ペナルティーエリア内の左隅でボールを受けた。この時点ではまだゴールは自身の背中越しにあり、大迫を追ってきたFC東京のMF羽生直剛にもピッタリと背後につかれていた。
「ターンには絶対の自信を持っています」
今春の入団時からそう豪語していた通りに、体を時計回りに巧みに反転させる。ゴールを視界にとらえてもボールの支配権は渡さなかったが、羽生もしぶとく食らいついてくる。
どうするべきか。
パス&ゴーでフォローしてきたパクに戻す手もあった。
逆サイドではMF小笠原満男がフリーでいることも確認できた。
「パクか満男さんへのパスも考えたけど......」
18歳のルーキーが選択したのは羽生との1対1の勝負だった。その向こう側には相手GK権田修一しかいない。ニアポスト付近がガラ空きになっているのもはっきりと分かった。
「自分で決めたかった」
ACLでこそ2戦連続でゴールしているが、これが3試合目の先発となったJ1ではまだ何も結果を残していなかった。ゴールがほしい。FWの本能が体を突き動かす。一度は羽生に止められかけたが、執念で左のつま先にボールを引っ掛けて、そのまま前へ進む圧力で羽生を吹き飛ばす。慌ててフォローにきたCB佐原秀樹も、鹿児島城西高を卒業したばかりのFWを止められない。ゴールまでの最短距離を真っ向勝負で制した先に歓喜のシーンが待っていた。
「前が空いていたので思い切って蹴りました」
右足から放たれた強烈な弾道は左ポストとGKの間、距離にして1mほどの空間をあっという間に突き抜けてゴールネットを揺らした。個の力で奪い取ったJリーグ初ゴール。「ミスに起因しない失点はありませんから」。潔く完敗を認めたFC東京のキャプテンはこう続けた。
証言1 羽生直剛 「鹿島で試合に出られること自体が、素晴らしい選手であることを証明している。ただ、(こちらに)情報があまりない中で活躍できるのは数ゲーム。そういった(相手に研究された)時に考えてプレーできるかどうか。僕は考えられる選手が上に行くと思っている。それを高卒ですぐにできるとしたなら(大迫は)すごい選手になる」
大迫がJ1で初先発した3月22日のサンフレッチェ広島戦を取材した際、この「本日の論!」で「上手いが怖さがない」と物足りなさを指摘した。
本人が絶対の自信をもっているポストプレーからのターンや、あるいはボールの呼び込み方とさばき方。そのすべてに非凡さを感じずにはいられなかったが、ただひとつ、シュートへの強引なまでの意識に欠けていた点が気になったからだ。
上手いだけのFWがその後に伸び悩んだ例は枚挙にいとまがない。年明けの全国高校選手権で従来の記録を塗り替える10ゴールをマークした大迫に期待するものがあったからこそ、FWはゴールという絶対的な評価のバロメーターがあることを分かってほしかったのだ。
それからわずか3週間。月並みな言い方になるが、高いレベルに身を投じた若手の成長は周囲が案じるよりも早い。本来なら高校選抜による恒例の欧州遠征の時期だが、アントラーズを率いるオズワルド・オリヴェイラ監督の強い要望で辞退させたこともうなづける。
18歳にしてすでに主力。時にスマートな万能型FWとして、時に獰猛なストライカーとして。大迫は危険な雰囲気を漂わせる存在に変貌しつつあった。
■証言2 フリーランスのベテランカメラマン 「大迫狙いで取材に来たけど、本来ならオフ・ザ・ボールの時に他の選手を撮ったりするのに、それができない。パスが来そうなところに常に動いて、実際に絵になる仕事をする。以前に見た時とまったく違う。正直、驚いた」
試合後はテレビ各局による合同取材に続き、テレビ朝日、TBSなど個別でも3社の取材を受けた。ピッチでは威風堂々の姿を見せても、素顔はまだ18歳。緊張からか、取材を受ける背中もやや丸まっている。どことなく声も小さい。
オリヴェイラ監督は常々、「あまり騒ぎ過ぎないでほしい」と大迫の取材に関してメディアに要望してきた。その将来性を高く評価するからこそ、今はサッカーだけに集中させたい。Jリーグ初ゴールでさらに過熱しそうな空気を察してか、指揮官は試合後の公式会見で改めてメッセージを発することを忘れなかった。
「高い能力を持っているし、今日も素晴らしい得点を決めてくれた。成長している選手ですし、大切に育てなければいけないと思っている。前回にも言ったが、サッカー関係者全員が大迫を大切に育てていかなければならない。今後も期待していきたいし、彼も謙虚な気持ちを忘れずに取り組んでいってほしいと思っている」
結果的に大迫がマークした2点目が決勝点となり、Jリーグ史上初の3連覇を目指すアントラーズは勝ち点を「12」に伸ばして早くも首位に浮上した。
もちろん、大迫に浮かれる様子はない。FWとしてようやくスタートラインに立てたが、結果を出し続けなければ、日本代表を経験している興梠慎三をはじめとするサブの選手に取って代わられてしまう。弱肉強食の世界に足を踏み入れたからこそ、初ゴールの余韻に浸ってばかりはいられない。
「素直に嬉しいけど、まだ1点を取ったばかり。今日は他のプレーが全然ダメだったから。まだそんな(主力の)レベルにない。修正すべき点があるので、もっとコミュニケーションを取っていかないと。これで終わりじゃないですから」
――結果を出したいとずっと言ってきましたけど。
「ペナの中でボールを受ける回数が多かったので、その点ではよかった。徐々に落ち着いてきて、周りが見えるようになりました。中盤の選手が僕がプレーしやすいボールを出してくれるおかげです」
――自身のどんな点にダメ出しをするのでしょうか。
「DFが前に蹴ったボールをもっと収められたら中盤の選手がもっと楽になるので。もっと体を張ってタメを作りたい。ペナの中でボールを持った時に、もっと相手が怖がるプレーをしたい」
――ACLを戦ったシンガポールから帰国して中3日の試合。それも20度を超える気温の中で午後1時キックオフのデーゲームでしたが。
「正直、何かちょっと(体が)重かった。日程的にきついと思うけど、この中でやっていかないとアントラーズでは通用しない。ここで頑張れる選手にならないとダメだと思うし、もっともっと自分のプレーを伸ばしていきたい。次の試合も点を取りたい」
何度も口を突いた「もっと」という言葉があくなき向上心を物語る。そして、味の素スタジアムのブースでは、「自分を一番成長させてくれる」と選んだアントラーズで急速にその輝きを増すホープを、ユース世代の総監督を兼ねる日本代表の岡田武史監督も視察していた。
20日から静岡県内で行うU‐20代表候補合宿にはアントラーズが22日にACLを戦う関係で招集しないことを明言し、オリヴェイラ監督の意向に配慮して「即フル代表ということはないよ」とフィーバーを助長しないための但し書きも付けた上で、指揮官は大迫の存在をしっかりとインプットしていた。
■証言3 日本代表・岡田武史監督 「タレントがあるのは間違いない。将来的にはそう(若手の世代の中心に)なるだろう」
五輪の出場資格を21歳以下とする国際サッカー連盟(FIFA)の改正案が5月の総会と国際オリンピック委員会(IOC)とで認められれば、大迫は22歳で迎える2012年ロンドン五輪に出場できない。ならば、残される目標は最高峰の舞台であるW杯だけとなる。気迫と執念でもぎ取った衝撃的なJリーグ初ゴールが、その第一歩となる。 (文=藤江直人)
2009年4月13日 05:01|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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