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キング・カズがアシストしたゴールと初勝利 by 藤江直人
■J2第9節
横浜FC(勝ち点6) 1‐0 水戸ホーリーホック(勝ち点17)
[4月19日午後1時キックオフ@笠松運動公園陸上競技場/観衆3241人]
どことなくバツが悪そうな表情を浮かべながらMF三浦知良が打ち明けた。
「あれ、パスじゃないですから。僕のトラップミスですから」
9戦目でようやく手にした待望の今シーズン初勝利。ヒーローは後半ロスタイムに千金の決勝ゴールをゲットしたFW難波宏明だが、公式記録には確かにカズにアシストが付いている。
ゴールシーンを振り返るとこうなる。
中央でボールを持ったMF鄭容臺がゴール前にスルーパスを送る。反応したのは左サイドからペナルティーエリア内に走り込んできたカズ。トップスピードで、しかも難しい体勢でのトラップこそままならなかったが、相手守備陣のマークは42歳の大ベテランに注がれる。次の瞬間、こぼれダマに反応した難波がほぼノーマークの状況で左足を振り抜いた。
再びカズの言葉を聞こう。
「それをナンちゃん(難波)がうまくサポートしてくれた。アシストでも何でもいい。大事な試合のあの時間帯に1点が入って勝てたことは大きい。相手ゴールに向かって前にトラップした積極性がゴールにつながったと思う。あれが後ろ向きにトラップしていたら、ゴールは生まれていない。前を向く積極性は大切にしていきたい。特にペナルティーエリアの中ではゴールに向かっていくことが大事だと思う」
カズ流の究極のポジティブ思考は、前節までの8試合で6得点と決定力不足に悩まされてきた味方攻撃陣への檄でもあった。だからこそ、難波もカズへの感謝の言葉を忘れない。
「もしカズさんが触らなかったら、そのまま相手のキーパーに捕られていましたから」
ホームのニッパツ三ツ沢球戯場でヴァンフォーレ甲府に逆転負けを喫してから中3日。敵地で前節まで3位と好調の水戸ホーリーホックに臨んだ一戦のスタメンにカズの名前はなかった。
ヴァンフォーレ戦で約10か月ぶりの先発フル出場を果たしたこともあって、コンディションを考慮されたのか。しかし、前半から試合をほぼ支配しながらシュートに持ち込めない自軍の力に一刻も早くなりたかったのだろう。
「迷わず打てえっ!」
女性ファンからもほとんど野次に近い声援を浴びせられる中、ベンチ裏で一緒にアップを行っていた難波の耳には何度となく出番を待つカズのこんな独り言が届いていたという。
「まだかよ!」「遅えよっ!」
冒頭の一文を見ても分かる通り、現在の登録はFWではなくMFだ。後半31分、難波とともに満を持してピッチに投入されたが、向かったポジションは左サイドハーフ。衰えないキープ力を駆使してタメを作り、もちろん守備にも奔走する。FWは不調からスタメンを外れた26歳の難波を軸に、25歳の御給匠、23歳の池元友樹、22歳のルーキー西田剛らが起用されてきたが、いずれも結果を出せない。相手チームの守備陣だけでなく、未勝利というプレッシャーとも戦っていた。
もっとも、カズ自身もストライカーの本能を封印しているわけではない。
「サイドハーフで入ったけど、ああいう場面ではゴール前に入っていかないと」
与えられた仕事をしっかりとこなす一方で、ゴールの臭いを嗅ぎつけるや、全速力で敵陣へ迫る。長い距離を走ることを決して厭わないし、相手ボールになれば再び全速力で自陣に戻る。
日本代表で歴代2位となる56ゴールを叩き出したFWとしての矜持はもちろんあるだろう。それでも、チームの勝利とJ1再昇格のため、笑顔で「ウチのエースFWはナンちゃん」と鼓舞し続けてきた。
だからこそ、決勝弾となった難波の今シーズン初ゴールが嬉しかった。
「FWが点を取って勝った。これで自信を持ってやれたら、チームにとってこれほど大きいことはないよね」
エースという言葉が持つ不変的な重み。難波は神妙な表情で聞き入れ、決意を新たにした。
「カズさんの言葉は僕にはもったいないですけど......自覚を持ってやっていくだけです」
今シーズンから就任した樋口靖洋監督のもと、横浜FCは中盤でパスをつなぎ、ボールポゼッションを高めて主導権を常に握り、相手を崩すサッカーを標榜している。
守備をがっちり固め、ロングボールからカウンターを狙うスタイルが大半を占めるJ2では少数派の戦法となるが、それゆえに開幕8試合で3分け5敗の最下位に沈んだ「現実」は「理想」を掲げる指揮官を苦悩させる時もあったという。
だからなのか。試合後の公式会見。樋口監督は「選手に感謝したい」を言葉を弾ませた。
「選手たちがここまで、本当にブレないでひとつになってやってくれた。勝てないと選手たちもとかく疑心暗鬼になりがちですが、そういったこともなく、今のやり方を貫くことができたのは大きい。何とか最後までブレないように。まだまだ積み重ねが必要なチームなので」
開幕から続いた長く暗いトンネルの中では、MFでのプレーが多くなり、スタメンから外れる回数も増え、最後までベンチに座っていて出番がなくても黙々とコンディションを整えて、目の前の一試合に集中するカズの背中が、結果として若いチームを無言で引っ張っていたことは容易に想像できる。
42歳2か月の現役最年長Jリーガーは難波のゴールだけでなく、横浜FCの初勝利をも「アシスト」していたのだ。
「1勝しないと何も始まらないからね。やっとスタートラインに立てた。去年の終盤からなかなか結果を出せず、消化不良が多かった中でもサポーターは毎回応援に来てくれる。彼らの笑顔が見れたのは嬉しいけど、今日だけで満足しないで、もっと緊張感を持っていかないと。行き当たりばったりじゃなくて、チームとしてしっかりと形を作っていきたい」
全51試合の長丁場で9試合を終えて、遅まきながら最下位から脱出した。J2戦線そのものは12月第一週まで続くが、次なる目標はすでに定まっている。
昨年6月25日を最後に14試合も遠ざかっているホームでの白星。敵地笠松で今シーズン初の雄叫びをあげたいま、J2ワースト記録の「16試合連続」に並ぶことだけは許されない。ホームのニッパツ三ツ沢球技場で行われる26日のコンサドーレ札幌戦へ。つかの間の休息を経て、120パーセントの状態でピッチに立つためのカズのルーティーンが再び始まる。(文=藤江直人)
2009年4月20日 03:50|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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