Home > 本日の論! > 天才・宇佐美貴史とJリーグの密接な関係   by 藤江直人

天才・宇佐美貴史とJリーグの密接な関係   by 藤江直人

 1993年にJリーグが産声を上げて今年で17年目。そして、今シーズンにガンバ大阪のトップチームに昇格した話題の天才ルーキー、MF宇佐美貴史も5月6日に17歳の誕生日を迎える。
 「17」という数字が重なったが、決して偶然ではない。
 4月20日から静岡・御殿場市内で行われたU‐20日本代表候補合宿。年上の選手たちに混じって、いわゆる「飛び級」で招集された宇佐美と初めてじっくり話す機会があったが、非常に興味深かったのは彼のサッカーに対する原風景だ。
「万博(競技場)のスタンドで、親に抱かれてガンバの試合を見ている記憶があるんですよ。ホント、2歳とかそのぐらいの時に」
 1992年生まれの宇佐美は京都府長岡京市で育った。当時はちょうどJリーグ創成期。日本中が新しいスポーツの誕生に興奮し、社会現象にまでなった中で、宇佐美の両親も例外なく発足時唯一の関西Jクラブだったガンバ大阪の熱狂的なサポーターとなり、まだ幼い我が子を連れてホームの万博競技場に足繁く通った。
「ホント、両親は松波さんの大ファンでね。松波さんが試合に出ると、もう大変で。今でもよく覚えてますよ。その松波さんが僕が所属していたガンバユースの監督になって両親が喜んで、僕がトップチームに昇格すると関係者のパスで万博に来られるようになってまた喜んで(笑)。僕にとってガンバはすべてなんです」
 野球が非常に盛んな関西だが、もの心がつく前からガンバ一色に染まっていた宇佐美は迷うことなくサッカー一筋にまい進した。野球の場合はまずエースで4番に憧れるように、彼もすべてのゴールに絡む攻撃の「王様」に君臨し続け、長岡京サッカースポーツ少年団からガンバ大阪ジュニアユースに入団。以来、わずか4年でユースを経由してトップに駆け上がってきたのだ。
 Jリーグ創成期にサッカーに魅せられた世代の2世がJリーガーになる。もうすぐ17歳になる宇佐美と話をしながら、1993年5月15日のJリーグ開幕戦を取材した一人として、時代がひと回りしたことを実感せずにはいられなかった。
 これが適切な例えになるかどうかはわからないが、70年代後半から80年代にかけてサザンオールスターズに夢中になった世代の子供たちが、親の影響を受けて90年代以降にまたサザンオールスターズのファンになる。こんな「輪廻」をも思い浮かべてしまったが、宇佐美とサッカーとの出会いを振り返れば、まさにJリーグ効果が生んだ新世代の第1号と言ってもいいだろう。

 
 ならば、肝心の宇佐美の実力の程はどうなのか。
 過去に宮本恒靖や稲本潤一、大黒将志ら次々と日本代表選手を輩出したガンバ大阪の下部組織にあって、宇佐美は「ユースが生んだ最高傑作」なる評価を頂戴し、「攻撃に関するすべての能力を規格外で搭載している」と抽象的な表現ながらその将来を嘱望されている。
 しかし、ガンバ大阪では試合出場どころか、現時点ではまだベンチにも入ったことがない。U‐20日本代表候補合宿では、本人いわく「遠慮もあった」そうで不完全燃焼に終わったが、流通経済大学との練習試合で一緒にプレーした浦和レッズのレギュラー、17歳のMF原口元気は気になる存在として真っ先に宇佐美の名前を挙げている。
「ボールタッチが柔らかいし、何かを持っている感じがします」
 ガンバでは中学年代のジュニアユース、高校年代のユースをともに2年で通過してきた。いわゆる「飛び級」の連続であり、飛び抜けた実力を持っているからこそ、同世代の中でマンネリ化しないように、新しい刺激を与えながら育てるプランが描かれてきた。
 ガンバ大阪の下部組織を長く統括し、現在はJリーグに出向して技術委員会の委員長を務めている上野山信行氏はこう語っていた。
「いい選手にはいい環境を与える。これは当然のことです」
 日本サッカー協会も、ここにきてこの動きにシンクロした。同じく20日からは静岡市内でU‐17代表候補合宿が行われ、宇佐美も招集メンバーに名前を連ねていたが、チームを率いる池内豊監督はあえてチームの大黒柱をひとつ上のカテゴリーに送り出した。
 池内監督は「あくまでU‐17のレベルでの話」と前置きした上で宇佐美をこう評価している。
「日本人に最も欠けている部分、最後の仕掛けやシュートで突出したものを持っている」
 ならば、すでにJリーグで活躍している選手たちもいるU‐20に挑戦して来い。ダメなら何がいけなかったのかを自分で考えろ。新たな刺激を与える意味でのU‐20代表候補への抜擢となったわけで、池内監督によれば「日本サッカー界の総意」だという。 
 U‐20日本代表の総監督を務める岡田武史監督以下も、無限の可能性を秘めたダイヤの原石に注目しているわけだ。


 U‐20代表候補合宿は22日の午前中の練習で打ち上げられたが、選手たちが所属チームに三々五々と戻っていく一方で、宇佐美だけは在来線を使ってU‐17代表候補合宿が行われている静岡市内へと移動。午後からチームに合流し、まさに「代表ウイーク@静岡」となった。
 当面の目標は11月にナイジェリアで開催されるU‐17W杯。宇佐美を中心に昨年のアジア予選
を勝ち抜き、たどり着いたヒノキ舞台で初めて遭遇する「世界」が若武者にどんな刺激を与えるのか。その一方で、短期的な目標としてガンバ大阪でのデビューがある。トップチームでどうしたら試合に出られるのか。自問自答、試行錯誤を繰り返す闘いの日々が続く。
 年代別のカテゴリーで活躍してきた今までは、前線で黙っていてもパスが来た。しかし、そんな「王様プレー」はもはや通用しないことは本人が身をもって痛感している。ガンバの下部組織では「自分で考えない選手に前は開けない」と常に叩き込まれてきた。このまま話題先行で時間を経過させるつもりは毛頭ない。
「ポジションは前の方ならどこでも。FWでもサイドでも、最近はトップ下もやっている。同じポジションのルーカスも、遠藤さんも、(橋本)英郎さんも、みんな抜きたい」
 選手層が厚く、かつ全タイトル制覇を目指すガンバではなかなか出番は回ってこないが、ひとつだけ可能性がある。5月20日に万博競技場で行われるFCソウルとのACL1次リーグ最終戦。現時点でグループFの1位を独走するガンバがFCソウル戦を前に1位突破を決めていれば、Jリーグとの過密日程を考慮した西野朗監督が宇佐美を含めた控えの選手たちにチャンスを与えることは十分に考えられる。
 まだ見ぬ天才が、自身の原点とも言える万博のピッチにどんな軌跡を描くのか。そんな楽しみを抱きたくなるほどの魅力と雰囲気を、17歳になる直前の少年は漂わせている。
                                 (文=藤江直人/写真=スエイシナオヨシ)


 

2009年4月25日 13:22|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

トラックバック(0)

この記事のトラックバックURL: http://sv62.wadax.ne.jp/~sports-times-jp/mt/mt-tb.cgi/306

コメント(0)

コメントを書く