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岩政大樹 鹿島通算1000ゴールを超越する喜びとは   by 藤江直人

■J1第8節
鹿島アントラーズ(勝ち点17) 1‐0 ヴィッセル神戸(勝ち点10)
[4月29日午後7時キックオフ@カシマスタジアム/観衆1万4473人]


 まだ席に着いていないサポーターも多かったのではないか。Jリーグの歴史に新たな1ページを刻むゴールが生まれたのは、キックオフからわずか1分後だった。
 鹿島アントラーズが得た右CK。ニアサイドを狙ったMF野沢拓也のボールが、マーカーより頭ひとつ以上も高く跳ねたDF岩政大樹の「額」にピンポイントでコンタクトする。ヴィッセール神戸守備陣が一歩も動けない先制弾が、Jクラブで一番乗りとなり、2位のジュビロ磐田の964ゴールに大差をつけるリーグ戦通算1000ゴールへの到達を告げた。
岩政「たまたま僕がニアに行って、そこに完璧なボールが来ました。僕が取ったということより、サポーターの皆さんにはチームが積み重ねてきた1000という数字を、アントラーズの歴史とともに味わってくれればいいかな、と思います」
 時は1993年5月16日。場所はカシマスタジアム。カードは鹿島アントラーズ対名古屋グランパス。前夜に国立競技場で行われた歴史的な開幕戦、ヴェルディ川崎と横浜マリノスの興奮も冷めやらない中で迎えた前半25分、背番号「10」を託された神様ジーコの一撃で幕を開けたアントラーズのゴールの歴史。以来、数えること552試合目、歴戦の戦士67人によって紡がれてきた系譜に名前を刻んだヒーローは、11歳当時ですでに結ばれていた奇遇な「縁」を振り返った。
岩政「ジーコのゴールはテレビで見ていました。そこらへんのサッカー少年と一緒に興奮しながら。一生懸命貯めたお年玉でたまたまアントラーズのユニホームを、それも10番のものを買って。それを考えるとホント、すごいチームにいますよね、僕。当時、好きなチームはヴェルディだったんですけど、たまたま僕に合うサイズがアントラーズのしかなかったんですよ。Jリーガーになりたいと思うなんて、とんでもない。田舎の小さな島に住んでたし、Jリーグは現実的な目標ではありませんでした」
 ちなみに、5月18日に19歳の誕生日を迎えるFW大迫勇也にジーコが決めた鹿島アントラーズ第1号ゴールのことを聞くと、こんな答えが返ってきた。
「全然、分からないです」
 当時はまだ3歳と2日。覚えてなくて当然か。それより何より、超大物高卒ルーキーは岩政に続く1001ゴール目を逃した悔しさを胸に募らせていた。
「今日は決めなきゃいけない場面がたくさんあったのに......」
 

 話題を岩政に戻す。
 瀬戸内海の西に浮かぶ山口県の周防大島で生まれ育った少年は県内屈指の進学校、岩国高校から一般受験で東京学芸大に合格。数学の教員免許をもつ異色のJリーガーとして04年にアントラーズ入りし、1m87、85kgの恵まれたボディを生かし、大先輩であるW杯戦士・秋田豊からレギュラーの座と鉄人の象徴でもある背番号「3」を受け継いだ。
 そして、メモリアル弾は奇しくも「秋田越え」を果たした一撃でもあった。
 アントラーズでプレーした11シーズンで秋田がマークしたゴール「20」を、この夜でひとつ上回った。すでに引退した秋田の背中を今でも追い続けている、と公言してはばからない27歳。自らを雑草と呼ぶ男は、偽らざる胸のうちをこう明かしている。
岩政「1000ゴールよりも、と言うとサポーターの皆さんにとってはいいことではないかもしれないけど、個人的には秋田さんの記録を抜いたことの方が......数字で少しずつ越えていかないとサポーターからも認められないし、秋田さんを越えて初めて見えてくるものもある。でも、このゴールだけでは秋田さんも僕を評価してくれないと思います」
 21ゴールはクラブ史上16位タイにしてDF陣ではトップ。ちなみに、トップ3には89ゴールのFW長谷川祥之、80ゴールのFW柳沢敦、55ゴールのMF小笠原満男が名前を連ねている。


 前節まで首位だった浦和レッズが引き分けた情報はキックオフ前の段階で入っていた。勝てば得失点差で首位に返り咲くこともわかっていた。しかし、一時的な首位奪取も、リーグ最速となる1000ゴール到達も、すべては通過点に過ぎない。ジーコによって植え付けられた「敗北」という2文字をとことん拒絶する勝者のメンタリティーは17年目を迎えたいまなおチームの血肉となり、岩政をはじめとする選手たちの飽くなきモチベーションの源泉となっている。
岩政「秋田さんの記録は多すぎて、どんなものがあるかまだ整理しきれてないけど、最終的には獲得したタイトルの数で越えたい。僕の場合、あと6つですね。それが一番の目標です。今日も内容的には不満。神戸に助けられた部分もある。勝ったことはいいけど、内容もみんなで見つめていかないといけない。今の順位は関係ないけど、ACLを同時に戦いながら首位にいることは、気分的に悪いことではない。僕個人としては、神戸に押し込まれた後半をゼロに抑えたことの方に満足感を覚えている。今日レッズが2点取られたから、これで失点数も並びましたよね。今シーズンはリーグ最少失点も目指しているので」
 常に貪欲に、手に入れられるものなら何でも。満たされることのないこの「ハングリー精神」こそが、アントラーズがJの歴史の中で培ってきた揺るぎない背骨だ。
 秋田は最終的に9つのタイトルをアントラーズにもたらした。岩政が獲得に貢献したタイトルは現時点で4つ。J1、ナビスコ杯、天皇杯、そしてチーム悲願のACL制覇と現存するすべてのタイトルを狙う今シーズン。ちょっと気が早い話になるが、J1を制して07年からの3連覇を達成すれば、これも史上初の快挙としてJリーグの歴史に刻まれる。(文=藤江直人)

2009年4月29日 23:29|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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