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鹿島アントラーズ「したたかに、老獪に」   by 藤江直人

_H5F2654a.jpg■J1第9節
鹿島アントラーズ(勝ち点20) 2‐0 ジェフユナイテッド千葉(勝ち点7)
[5月2日午後4時キックオフ@フクダ電子アリーナ/観衆1万7009人]


 苦しい状態だからこそ、試合巧者ぶりが余計に際立つ。強いというよりも負けない。上手いというよりもしたたか。首位の座をがっちりとキープした鹿島アントラーズのアントラーズたる「ゆえん」を象徴するシーンが訪れたのは、2点をリードして迎えた後半22分だった。
 アントラーズのゴールキックで試合が再開されるはずが、GK曽ヶ端準がなかなか蹴ろうとしない。それどころか、左足を指差して何かを訴えながら主審のもとへと歩いてくる。ブーイングが渦巻き、騒然とするスタジアム。何をやっているんだ、とばかりに駆け寄ってきたジェフ千葉の選手に左足のスパイクを見せ、主審の許可を取った上で、元日本代表GKはついにはピッチの外に出てしまった。
「いやあ、スパイクのひもが切れちゃったんですよ。自分で踏んで切れたかどうかは分からないんですけど、あれでは取り替えるしかなかった。レフェリーから『急いでくれ』と言われて、ちょっと汗かいちゃいましたけど(笑)」
 フクダ電子アリーナのスタンドでは、昨シーズンまでアントラーズに在籍していたMF中後雅喜が観戦していた。出場機会を求めてジェフに移籍した26歳は、一連のシーンに思わず苦笑した。

「あれはアクシデントだったと思うし、そこまでは(故意に)しないでしょうけど......やっぱり(アントラーズは)時間の使い方を知っていますよね」
 ゴールキックになる直前。ジェフはアントラーズ陣内に攻め込み、MF深井正樹がこん身の左足シュートを一閃。曽ヶ端が必死のセーブで弾いたところにMF谷澤達也が走り込んだが、タイミングがずれたシュートは大きく外れてゴールラインを割っていた。
 得点こそならなかったが、さあ、反撃だ、というムードが一気に膨らみかけた矢先に曽ヶ端がかけた「待った」。スパイク交換を終えるまで約2分。しかし、ジェフを苛立たせ、焦らせ、結果として気勢をそぎ、浮き足立ちかけていた味方を落ち着かせるには十分過ぎるほどの時間だった。
 試合後、ロッカールームから出てきた曽ヶ端に聞いた。
――それにしても、スパイクの交換、まさに絶妙の「間」となったのでは。
 29歳の守護神はニヤリと不敵な笑いを浮かべて帰りのバスへと向かって行った。


 ゴールデンウイーク恒例の過密日程に加えて同時進行でACLも戦うアントラーズは、前節から中2日で迎えるジェフ戦にスタメンを3人変更して臨んできた。
 アントラーズだけでなく日本代表でも不動の右サイドバックを務める影響で疲労の色が濃い内田篤人、前節で右足の内転筋を痛めて途中交代した昨シーズンのMVPマルキーニョスは遠征にすら帯同させず、センターバックの伊野波雅彦もベンチスタート。オズワルド・オリヴェイラ監督は、特に内田を欠場させた意図をこう説明した。
「内田に関してはどうしても疲労からパフォーマンスに影響が出ている。マスコミの注目度も高く、精神的な負担もあったかと思う。一般的には若いから大丈夫だと思われがちだが、やはり選手である前に人間であり、そういった人間の生理的な部分が思わしくないと感じたので、今回は彼を休ませざるを得ない、いや、休ませなければいけないと思った」
 内田の代役に指名されたのは新井場徹。ガンバ大阪時代から左サイドバックとして活躍し、07年&08年シーズンのアントラーズ連覇にも貢献している29歳は間逆となる不慣れなポジションをそつなくこなし、指揮官を唸らせた。
「当然ながらバックアップの選手が必要であって、そういうときに新井場が右サイドバックもできるということを......本当に練習からそういうことに取り組む姿勢を示してくれた。困難な状況を乗り越えていくにはお互いの協力が必要であり、その意味では献身的なチームスピリットをもってやってくれた」
 新井場自身、3月7日の開幕戦では左サイドバックとして先発フル出場。しかし、11日のACL水原三星戦で1対4、15日のJ1第2節でアルビレックス新潟に1対2で連敗を喫すると、オリヴェイラ監督はてこ入れの意味合いを込めて、新人FW大迫勇也とともに左サイドバックに水戸ホーリーホックから加入したパク・チュホを抜擢。現在に至っている。
 その間、途中出場ばかりとなった新井場の胸中はどうだったのか。昨シーズン途中からレギュラーポジションを伊野波に奪われ、ジェフ戦でようやく今シーズン初出場を果たした36歳の大ベテラン、大岩剛はサブメンバー全員の思いをこう代弁した。
「ベンチも含めてしっかりとサポートしていかないと。この時期は大事な試合が続くので、全員が準備を怠らないのは当然のこと。試合に出ていない人間を含めて、ウチにはいい選手がたくさんいるし、だからこそ出たときにはしっかりとプレーしないといけない。僕なんか他の選手より疲れていないのでやらないと。でも、ジャンプのし過ぎでふくらはぎがつりそうですよ。年寄りだから次は休まないと(笑)」
 報道陣の笑いを誘う軽妙なジョークに見え隠れする自信と誇り。アントラーズの強さ、選手層が厚いだけでなく一人ひとりの意識の高さが大岩の言葉から伝わってきた。


 バスに乗り込もうとする曽ヶ端に、挨拶に訪れていた中後が歩み寄ってきた。
「相変わらずですねえ」
 握手を交わした後輩に曽ヶ端が笑顔で言葉を返す。
「手堅いだろう」
 この試合の序盤の主導権を握ったのは、執拗なプレスをかけてきたジェフだった。放ったシュート数21本は、アントラーズより2本多い。それでいて、90分間を終えてみれば凱歌はアントラーズに。いつの間にか負けてる。そう思わせるところが王者の強さでもある。
 再び中後に外から見た古巣の印象を聞いた。
「個々の能力が高いし、攻守の切り替えも早いけど、やっぱりしたたかですよね。2対0になった状況でも攻撃にきましたけど、ボールを失わないように、相手に取られないようにしっかりとつないでいましたから」
 曽ヶ端の一件もあって5分を数えた後半ロスタイム。カウンターから伊野波が手薄になっていた相手の左サイドにドリブルで攻め込む。ゴール前にはトップスピードで大迫、途中出場の田代有三の2トップが走り込む。トドメの3点目を期待するアントラーズのサポーター。しかし、伊野波はそのまま左コーナーを一直線に目指し、追走するジェフの選手をあざ笑うかのようにピッチの左隅でボールをキープする体勢に入った。
 サッカーではセオリーでもある時間稼ぎの方法だが、それがスムーズにできないJクラブがそう多くないのも現状だ。特にアントラーズは時間の使い方、ボールのキープの仕方、ファウルのもらい方のすべてが老獪であり、相手にとってみれば狡猾に映る。
 日本でもすっかり有名になった「マリーシア」、ポルトガル語で「ずる賢い」を意味する戦法を最も上手くピッチ上で表現できるJクラブ。礎を築いた神様ジーコ直伝の伝統はいまもなお息づき、アントラーズの強力な武器となっている。
 そういえば、あるJリーガーがこんなことを話してくれたことがある。
「アントラーズとやるときは、決してカッカしちゃいけない」
 怒りでファウルを犯せば、その時点でアントラーズの術中にはまってしまう。実際、ジェフも5枚のイエローカードをもらった。そのうちDF青木良太がもらった1枚は後半5分のMF小笠原満男が決めたPKの2点目につながり、前半15分のMF野沢拓也(写真)の先制点も相手のミスパスを拾ったものだった。ミスを突いてのゴールは相手に与えるダメージも倍増させる。「したたか」という言葉を用いた理由がここにある。
「当たり前のことが当たり前のようにされた。この連戦の中でアウエーでの試合を勝てたことはチームとしても非常に自信がつくし、選手個人にとっても喜ばしいことではないかと感じている」
 オリヴェイラ監督も確固たる手応えを感じずにはいられないようだ。ナイターで浦和レッズが試合終了間際のDF田中マルクス闘莉王のゴールで辛勝して勝ち点20で並び、得失点差での2位と必死に食らいついているが、そのレッズにアントラーズはすでに2対0で快勝している。
 となると、今後、アントラーズを止めるチームはどこになるのか。メンバーのてこ入れを行った3月18日のACL上海申花戦以降は、この日のジェフ戦を含めて無傷の8勝2分け。史上初のJリーグ3連覇を目指す王者から一戦ごとに死角がなくなっていく。 (文=藤江直人/写真=スエイシナオヨシ)

2009年5月 3日 03:35|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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