Home > 本日の論! > 浦和レッズ 「初もの」尽くしの90分プラスアルファ by 藤江直人
浦和レッズ 「初もの」尽くしの90分プラスアルファ by 藤江直人
■J1第10節
浦和レッズ(勝ち点23) 3‐2 柏レイソル(勝ち点9)
[5月5日午後4時キックオフ@国立競技場/観衆3万2854人]
クリアさせてなるものか。
こぼれダマを狙おうと、ニアポストにつめていた背番号「15」が本能に導かれるままに自らの体を差し出す。後半42分。浦和レッズのFWエジミウソンが放ったシュートを柏レイソルのGK菅野孝憲が弾いた直後だった。レイソルのDFが必死に蹴り出したボールの軌道を、後半23分から途中出場していたFWエスクデロ・セルヒオの右わき腹がふさぐ。鈍い音とともにはね返ったボールは、緩やかな曲線を描きながらゴールの中に吸い込まれていった。
「とりあえずブロックしようと。Jリーグでデビューして5年目。長かった。ずっとサポーターにも期待されていたので」
スペイン・グラナダ生まれの20歳。浦和レッズユースから16歳7か月の若さでトップチームに昇格を果たしたのが2005年4月。以来、通算26試合目。2007年6月にはそれまで持っていたスペインとアルゼンチンの国籍ではなく日本国籍を取得した期待のFWは、何度も夢見てきたJ1初ゴールに我を忘れたかのように興奮し、ゴール裏に陣取るサポーターに向かって走って行った。
「最近は勝っている試合での途中出場が多くて、僕のよさを出せなかった。攻めていっても、何かチームの和を乱してしまうような気がして。でも、今日は違った。感じるままにやるだけだった。勝つことしか頭になかった。自分が入って逆転できて、チームのために何かをすることができた。次はもっと長い時間で出られるように。ここからが新たなスタートです」
劇的な勝利に流ちょうな日本語が心なしか興奮と感動で震えいる。ACLで試合がなかった鹿島アントラーズを抜いての暫定首位浮上。しかし、今シーズンのレッズにとっての「初もの」は何もエスクデロの一撃だけではなかった。
前節までの9試合における失点6はアントラーズと並ぶリーグ最少。しかし、第4節から7節にかけてJリーグ記録となる「4試合連続の1対0勝利」を記録してきた鉄壁守備陣が、前半24分、38分と立て続けにゴールを許して逆転されてしまう。前半だけで2失点を喫するのはもちろん初めてだった。
試合後の公式会見。レッズのフォルカー・フィンケ監督はこう切り出した。
「ピッチはスリッピーな状態だったし、両チームにとって非常に難しい状況の中で非常に厳しいファイトゲームになった」
試合前から降りしきる雨の影響からか、最初の失点は一度はレイソルDF小林祐三の突破を止めたDF細貝萌が体勢を崩してしまい、その間にフリーとなった小林が放ったクロスをFW北嶋英朗にダイビングヘッドで決められた。
2失点目は普通なら高くバウンドするボールが濡れたピッチで鋭さを増したことで感覚が狂ったのか、エジミウソンが手で触ってしまう。ファーサイドを狙われたやらずもがなのFKは何とかDFが防いだものの、こぼれダマは不運にもノーマークだったDF石川直樹の正面に飛んでしまった。
しかし、レッズは冷静さを失わなかった。エジミウソンが言う。
「失点以外はほとんど(レイソルに)仕事をさせていなかったからね」
フィンケ新監督のもと、短いパスをつなぎながら選手が連動して動くスタイルを標榜している今シーズン。そこには昨シーズンまでの「3バックによる堅守&リアクション」の面影はない。自らが主導権を握って相手を圧倒し続ける「新生レッズ」のサッカーに、レイソルの高橋真一郎監督も「イメージが違っていた」とその変貌ぶりを認めるしかなかった。
キックオフ直後からポゼッションは常に60%前後をキープ。放ったシュートはレッズの20本に対してレイソルは6本。後半39分のオウンゴールによる同点、その3分後のエスクデロが体で押し込んだ勝ち越し弾は、怒涛の攻撃が与えるプレッシャーの前にレイソル守備網が決壊した証でもあった。
実は逆転勝利も今シーズンで初めて。結果だけでなくその試合内容に、指揮官も手応えを感じずにはいられなかった。
「チームとしてのメンタリティー、スピリットを考えると、あのような形で勝ち点3を収めるというのは大切なことだったと思う。サッカーではご存じのように様々なことが起こる。私たちが意図的に望んでいないことも起こるわけで、例えばオウンゴールやミスジャッジがあったり、相手の選手や味方の選手にボールが当たって入ってしまうこともある。大切なのは幸運に頼ってゲームを進めるのではなく、あくまでもチームのクォリティーですべてを解決していくことだ。私の哲学では相手チームより多くの得点チャンスを作り出すことに重きを置いている。そうすれば勝利を収める可能性も高くなるからだ」
攻撃こそが最大の防御。豊富なタレントを生かし切れていないサッカーに対する批判や失望感が絶えなかったレッズはいま、確実に進化を遂げている。
その「新生レッズ」の象徴が、レイソル戦でも先発に名前を連ねた浦和レッズユース出身コンビ、18歳のMF山田直樹と17歳のFW原口元気であることは言うまでもない。しかし、フィンケ監督は後半開始から原口に代えて元日本代表の高原直泰をピッチに送り出した。
10試合目にして初めてとなる采配。先発した試合では最短の45分でベンチに下がった原口への印象を聞かれたフィンケ監督は、「根本的なことについて皆さんにお話したい」と前置きした上で、約5分にわたって持論を展開した。
「原口のように実力も才能もある若い選手が毎日のようにメディアに出てしまうのはよくないことだと思う。現在の原口の状態を見ると、いろいろな意味で問題を抱えている。もちろん彼が活躍した時期もあったが、今日のようなパフォーマンスを見ると私は悲しくなる。彼の持っている能力、才能を発揮できていないからだ。ここ数週間、ほぼ毎日のようにインタビューを受け、彼についての記事が出て、写真が大きく出ていた。もちろんここは日本なので、日本の状況についてできる限りリスペクトしたいが、もしここがドイツで、同じようなことが起きていれば、私は彼を約3か月間メディアには一切出さないようにする。最も大切なのは彼がサッカー選手としてのキャリアに集中すること。そして、サッカーという一番大切なプレーに集中することだからだ」
1991年から16シーズン指揮を執ったブンデスリーガのフライブルクでは、元ドイツ代表のMFセバスティアン・ケール、グルジア代表MFレヴァン・コビアシュビリ、ボスニア・ヘルツェゴビナ代表MFズラタン・バイラモビッチ、オーストリア代表DFアンドレアス・イベルツベルガー、イラン代表MFフェリードゥーン・ザンディーらを育て上げ、手腕を欧州中に知らしめた。
昨年12月のレッズ監督就任会見でも目的のひとつとして若手育成を明言。「2、3人のスター選手に依存するのではなく、若手による刺激を加えることがチームにとって重要だ」と昨シーズン無冠に終わったレッズの再建論を展開していただけに、豊富な経験と自信に裏付けられた独自の「原口育成プラン」はさらにヒートアップした。
「私はドイツで実際に若い選手たちをたくさん育ててきた。彼らは17歳、18歳、19歳の時に私のもとに来てプロとしての道を歩み始めたが、その時私はこれらの若い選手を数週間、もしくは数か月間メディアに一切出さないようにした。それを現地の記者たちもリスペクトしてくれた。私は日本にあくまでもゲストという形で来ているし、日本には日本のやり方があるのも知っているが、以前に新聞で『フィンケ監督が情報を規制している』と報道されたことは事実ではない。大切なのは選手が成長していく環境を整えることだ。優れた若い選手が1年後、2年後、3年後に非常に優れた選手になれるように助けることが監督の仕事だ」
まさに堰を切ったかのような言葉の洪水。指揮官は「これは皆さんへのお願いでもある」とまで言い切った。もちろん初めてのことだった。
エスクデロはその若手の一人、山田直に代わって投入されていた。実は交代でピッチに入った選手が得点を挙げるのも、10試合目にして初めてのことだった。
第5節の名古屋グランパス戦で前半22分から投入された原口が同43分にJ1初ゴールとなる決勝弾を決めたが、この時は負傷したFW田中達也に代わって急遽ピッチに入っていた。正確に言えば、「戦術的な交代で投入された選手」ではエスクデロが初めての得点者となる。
その殊勲のヒーローが「新生レッズ」の舞台裏をこう明かす。
「チームである以上、ピッチに立つ選手の年齢は関係ない。実力があるからピッチに立てるのであり、今は自分よりも彼らの方がチームのために仕事ができているということだと思っている。ならば、僕はベンチで自分もチームのために何かしないと、(原口)元気や(山田)直樹ができるだけプレッシャーから逃れられるようにしないと、という気持ちがあった。何で(試合に)出られないんだとは思いませんでした。今はひとつのチームとして、誰が出ても同じ目標を持ってプレーしていると思います」
敵地カシマスタジアムに乗り込んだ3月7日の開幕戦では王者・鹿島アントラーズに攻守で圧倒され、0対2と完敗を喫した。新しいスタイルがまだ馴染んでいなかったという点もあるが、それ以上に「2月の練習試合があまりに調子よかったから」とエスクデロはこう続ける。
「自分たちの力を少し過信していた。アントラーズにあれだけ完璧なサッカーをされて目が覚めたし、あの負けでチームがひとつになることができた。次にアントラーズと当たるまで、できれば負けないで行きたい。年齢なんかに関係なく、誰が試合に出てもみんながやれれば、自分たちが目標としているところにたどり着けると思う」
言葉通りに、第2節以降は7勝2分けとチームは確実に上昇軌道を描き、「初もの」尽くしとなったレイソル戦でムードはさらに高まった。
次にアントラーズと対峙する12月5日のリーグ最終節でリベンジを果たし、3シーズンぶりにタイトルを奪回する――壮大な青写真を現実のものとする上で、10日に川崎フロンターレ、16日にはガンバ大阪と強豪チームを埼玉スタジアムに迎える今後の2連戦は「新生レッズ」の真価が問われる最初の関門となる。 (文=藤江直人)
2009年5月 6日 02:43|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
トラックバック(0)
この記事のトラックバックURL: http://sv62.wadax.ne.jp/~sports-times-jp/mt/mt-tb.cgi/310
コメント(0)
コメントを書く
- 井上康生 「最後の内また」
(2008/06/08 21:36) - 北京五輪100kg超級代表、石井彗の練習風景
(2008/05/24 22:25) - ばんえい競馬@帯広ばんえい競馬場
(2008/05/07 12:15)
カテゴリー
アーカイブ
編集部より