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南アW杯出場決定!/中村憲剛の「タテ力」 by 藤江直人
■W杯南アフリカ大会・アジア最終予選
日本代表(勝ち点14) 1‐0 ウズベキスタン代表(勝ち点4)
[6月6日午後11時(日本時間)キックオフ@パフタコール・スタジアム(タシケント)]
日本代表が1‐0で粘るウズベキスタン代表を振り切ってグループAの2位以内を確定させ、4大会連続となるW杯出場を決めた。前半9分にFW岡崎慎司が挙げた千金のヘディング弾をチーム一丸となって死守。後半43分にMF長谷部誠が一発退場処分、ロスタイムには岡田武史監督が退席を命じられる予期せぬ展開の中でタフさを発揮し、開催国の南アフリカを除くと世界で最も早いW杯切符獲得を達成した。
岡崎のゴールは素晴らしかった。体勢を崩しかけながら左足でボールをジャストミート。相手GKにセーブされると、そのこぼれダマにも瞬時に反応する。ダイビングヘッドというより、ピッチに突っ伏したまま首だけを伸ばす。それでも、額で確実にボールをヒットする。いま現在のFW陣にはない無骨で泥臭いスタイルは、見ている者の胸を打つものがあった。
ここで見逃してならないのはMF中村憲剛の「タテパス」だ。
長谷部からパスを受けるとすぐに前を向き、相手の最終ラインの裏に抜け出そうと走り出していた岡崎の姿をキャッチ。岡崎のスピード、ウズベキスタン守備陣の高さや位置といったものを瞬時に計算したのだろう。緩やかな放物線を描いた約25mのタテパスが、右サイドからゴール前へと走り込んできた岡崎のもとへ落ちる。岡崎がスピードをまったくゆるめることなく、ジャンプ一番、右足でトラップできたのも、寸分と違わない正確なタテパスのおかげだ。
6月15日発売の「論スポ」で日本サッカー協会の犬飼基昭会長と対談したスポーツライターの金子達仁氏が、日本代表のサッカーから「タテ力」がなくなったと指摘している。確かにその通りで、中村俊輔を中心とする攻撃陣はショートパス、それもヨコ方向を好む傾向が強く、そのまま岡田ジャパンのスタイルになりつつある。その攻撃陣の中で中村憲は異色の存在だ。
川崎フロンターレでダブルボランチを組む谷口博之は、以前にこう語ったことがある。
「あれだけ前へパスを出せる選手は絶対にいない。速いタテパス、前へのパスの質がホントに高い。僕が言うのもなんですけど、憲剛さんはA代表でもっと使った方がいいですよ」
中村憲がタテパスの感覚を身につけたのは入団2年目の04年にさかのぼる。ちょうど関塚隆監督に攻撃的MFからボランチへの転向を命じられたときで、現在もチームの得点源として活躍するブラジル人FWジュニーニョからはこんな指示を受けたという。
「ボールを持ったら真っすぐにオレのところに入れてこい」
中村憲は当時をこう振り返っている。
「ジュニーニョのところにボールが入るとチャンスになることが多かったので、癖になった部分もあります。それだけじゃダメだからサイドに散らしたり、そういう柔軟性みたいなことを覚えていきましたけど、最初にタテへの意識付けをしてくれたのはジュニーニョです」
ボールを持ってからわずかワンステップで、しかも小さなキックモーションから繰り出される正確無比なタテパス。中村憲とのホットラインを開通させた04年シーズンのジュニーニョは、出場39試合で37ゴールを量産。チームのJ1再昇格の原動力になった。
フロンターレでは絶対的な存在となっている中村憲だが、A代表ではなかなか出場機会に恵まれない。アジア最終予選においてはウズベキスタン戦が初スタメンであり、その前は後半25分から途中出場し、40分には結果的に決勝点となるゴールを決めた昨年9月6日のバーレーンとの第1戦にまでさかのぼる。2月のオーストラリア戦ではベンチにすら入れなかった。
もちろん、悔しくないはずがない。直後には偽らざる本音を明かしている。
「それは監督が決めることだけど、悔しいですよね。それでよしとする選手は誰もいないし、よしと思うのであればもう選手をやめた方がいいと思う。(整理は)正直、まだついていません。ただ、これからも戦いは続くし、自分の力を日本のために出したいという気持ちはもちろんあります」
都立久留米高から中央大時代を通して中村憲はほとんど無名の存在だった。年代別の代表に招集されたことは一度もなく、フロンターレに入団したのもテスト生として。ボランチ転向が「サッカー人生における最大の転機だった」と振り返る28歳にとって、A代表は別世界だった。
「自分が入るところじゃないと思っていた。入れるわけがないと思っていたし、それよりもその日、その日のパス練習でしっかりとパスを出すとか、フィジカルトレーニングをしかりやるとか、そういうことしか考えてなかったんです。A代表を意識したのは監督がオシムさんになってから。今シーズンから神戸に行っちゃいましたけど、ガナ(我那覇和樹)がA代表に呼ばれたのを見てからです。自分のチームメートが代表になるのはすごく刺激になるし、それだけみんなに門戸は開かれているのかと思うようになりました」
ウズベキスタン戦におけるアジア最終予選初スタメンは故障のFW田中達也がメンバーから外れた中で、4‐2‐3‐1の「3」の真ん中を誰にするか考えを巡らせた岡田監督が、ミドルレンジからの正確なシュート力を持つ中村憲を抜擢。直前のキリンカップで結果を残したこともあり、そのまま2列目として起用した。
ウズベキスタン戦後には胸の部分に「世界を驚かす覚悟がある」とプリントされたTシャツに着替え、はるばるタシケントにまで駆けつけたサポーターたちと喜びを分かち合った日本代表だが、例えば今後における中村憲の起用法も「世界を驚かす」ための方策のひとつとなるだろう。
もともと2列目の選手だが、中盤の底で起用すればさらに視野が広がり、タテパスもさらに威力を発揮するだろう。ミドルシュートも大きな武器になる。例えるなら、中村憲本人も意識しているイタリア代表MFピルロのような存在か。ヨコ中心のショートパスに中村憲を組み合わせれば相手に与える脅威は確実に増す。
「ピルロのことを言われるのは、ちょっと恥ずかしいですね。そんなレベルじゃないから。基本的にはすべての部分でまだまだ足りない。もっとやらなきゃいけないのは中盤の守備のところだと思っています。サッカーに完璧と思えるときがないから逆に楽しい。ここで終わり、ここが限界というのがないし、そこに向かうのは自由ですから。どんどん自分でできることが増えるのが楽しい。僕は先を見据えて行動できるタイプじゃないから、まずは明日の練習から。目の前のことをコツコツとやる。その積み重ねが先につながる。サッカーはいきなり上手くなりませんから。いろいろな経験をして、精神的にも成長していきたい」
岡田監督は試合後、「ようやくスタートラインに立った。やっとチャレンジが始まる」とあらためてW杯ベスト4を念頭に置いて南アへのビジョンを語った。残り1年。チームとして活動できる時間が限られている以上、選手個々のレベルアップと高い目的意識は日本代表の強化の根幹をなす。中村憲が言うように、すでに新たなる戦いは始まっている。(文=藤江直人)
2009年6月 7日 03:45|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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