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岡田ジャパン/中田英寿氏とダブる本田圭佑 by 藤江直人
■W杯南アフリカ大会・アジア最終予選
日本代表(勝ち点15) 1‐1 カタール代表(勝ち点6)
[6月10日午後7時35分キックオフ@日産スタジアム/観衆6万256人]
口調は穏やか。表情は柔和。しかしながら、MF本田圭佑が発した言葉は次々と日本代表が抱える問題点の核心を射抜いた。
敵地ウズベキスタンで4大会連続のW杯切符を獲得してから4日。ホームへの凱旋を兼ねたカタール戦だったが、結果は不完全燃焼感が色濃く残る1‐1のドロー。試合後にピッチ上で行われたW杯出場報告では、岡田武史監督が「今日は選手を生かすことができなかった。本当に申し訳ありませんでした」と晴れの席では異例となる謝罪まで行った。
試合後の取材エリアとなるミックスゾーン。指揮官が苦虫を噛み潰すほどに試合内容が乏しくなった原因を指摘したのが、後半35分からMF中村俊輔に代わって投入された本田だった。
本田「代表のサッカーは基本的にボールを回す印象で、それがはまったときはいいんだけど、はまらなかったときの打開策が少ないように思う。似たような選手が11人いて、誰が打開すべきなのか、というのは見ていて感じていた。これがもっと相手のレベルが上がったら、もっと厳しくなる。オレとか大ちゃん(松井大輔)は仕掛けたがるタイプ。パス回しの質を上げるのも大事だけど、試合の流れを変えるとか、そういう役割を担う選手も必要だし、オレはそれを意識していた。そうでないと(W杯の)グループリーグ突破は厳しい」
開始わずか2分。自陣から素早くパスを回し、右サイドのスペースを狙った中村俊のロングパスにDF内田篤人が快足を生かして追いつく。慌てて体を寄せてきたマーカーを振り切り、スピードに乗った状態から絶妙のクロスをGKが飛び出せない空間に放つ。飛び込むFW岡崎慎司に触らせてなるものか、と必死に戻ったFWアハメド・アリがクリアしたかと思われた次の瞬間、ゴールネットが揺れた。完璧な速攻から誘発したオウンゴール。大勝すら予感させる幕開けだった。
しかし、負けはもちろん、引き分けでも悲願のW杯初出場への道が断たれるカタールが再開直後から玉砕覚悟のプレスに打って出てくると状況が一変した。
一の矢が外れれば、すかさず二の矢が飛んでくる。アグレッシブに、無骨に、泥臭く。スタミナの配分すら考えていないような激しいチェックの連続にパスの出しどころを封じられ、阿部勇樹、橋本英郎のダブルボランチがズルズルと最終ラインの前にまで下がり、前線との距離が開く。負の連鎖から抜け出す術を見つけられないまま、後半6分にはついに守備網が決壊。DF中澤佑二のファウルで謙譲したPKをFWヤハヤに決められた。
本田「オレはオランダでサッカーの価値観が変わった。基本的にサイドの人間は仕掛ける。オレのチームのサイドのヤツなんて、ボールを持ったらセンタリングを上げるまで絶対にボールを離さない。1対1を競い合う、目の前の敵や自分のエリアでは絶対に負けない、というのがサッカーだと思うようになった。サイドの人間までパッサーになっていたらサッカーにならないし、オレ自身、突破だけでは物足りないから、もっとシュートも狙っていこうと思っていた。もう少し時間がほしかった」
オランダ2部リーグでVVVフェンローをリーグ優勝に導いたキャプテンとして、16ゴールを挙げたリーグMVPとして。異国の地で積み重ねてきた自信が、1m82、74kgの体全体から発せられていた。
本田の歯に衣着せない発言はいまに始まったことではない。
昨夏の北京五輪ではビッグマウスが災いしたのか、反町ジャパンの1次リーグ3戦全敗のA級戦犯の一人として名前を挙げられ、ネット上でバッシングも浴びた。
しかし、この日の指摘はある意味で的を得ていると言ってもいい。試合後の公式記者会見。カタール代表を率いるフランス人のブルーノ・メツ監督は「日本というビッグなチームを脅かし、動揺を誘うことができたことを素晴らしく思う」と笑顔でアジア最終予選敗退を受け入れた上で、岡田監督が掲げる「W杯ベスト4」という目標については神妙な表情を浮かべざるを得なかった。
「テクニカルな部分では高い資質を持っているが、肉体的な部分をもっと鍛えないといけない。例えばプレスをかけられたとき、相手に仕掛けられたときに対処できない。相手に混乱させられると道を見失う。要はソリューション(解決策)がないように思えるし、そういう点を改善しないとW杯の4強に残るのは難しいのではないか。日本はサッカー大国ということを考えると非常に残念ですが、私のこうした見方が(来年のW杯では)間違ってくれることを祈ります」
02年の日韓共催大会で初出場のセネガルをベスト8に導いた名将からの厳しい指摘。続いて会見場に現れた岡田監督の口調からは、さすがに不快感が見え隠れしていた。
「メツさんがどうおっしゃろうと、我々はいままでできている試合がたくさんあって、今日一回ができなかっただけですべてを覆すことは考えていません。一回負けたからといってガタガタするつもりはまったくないです」
そして、次の質問者にマイクが渡ろうとしていた瞬間に苦笑いとともに訂正した。
「いや、負けてないか」
日本代表が苦戦を余儀なくされるだけの懸念材料はあった。
南ア切符獲得による虚脱感。連戦と長旅による疲労。昨年5月からほぼ固定され、岡田監督自らが「チームの心臓」と形容する遠藤保仁、長谷部誠のダブルボランチの不在。ウズベキスタン戦で退席処分を受けた指揮官のベンチ入り禁止。しかし、逆に考えれば代わりとなる選手たちにとってはアピールする千載一遇のチャンスだったが、ピッチの上では空回りが続いた。
会見で岡田監督はこう続けた。
「選手一人ひとりは頑張っているんですけど、中にはミスをしたくない、そこそこ結果を残したいというか、チャレンジする気持ちが足りなかったり......あとはボールを受けに行かないとか。そうすると逆にチャレンジした人がミスをする形になる。ウチの場合は全員でやるサッカーなので、そういうバランスというかコンビネーションが欠けていると厳しくなると思っています」
ボランチとして機能していなかった阿部を前半だけで代えることも考え、実際に交代選手も呼び寄せていたが、「選手たちだけでどこまで変えられるかチャレンジさせよう」と方針を変更。同点とされる直後まで阿部をピッチに残した。
本職のボランチで結果を残せなかったその阿部が唇を噛む。
「周りの動きを気にしすぎて窮屈になったというか、すべてが中途半端になった。プレーしながら頭の中が常にゴチャゴチャしていた。ここで(前に)行っていいのか、常に迷っていた」
阿部と交代でピッチに入った松井は、けがでフランスリーグの終盤戦を欠場していたこともあり、実に約2か月ぶりの実戦復帰となった。
「チームに活気がなかったから、気持ちの入ったプレーを見せないといけないと思った。(ベンチから見ていて)面白くないというか、眠くなるゲームってありますよね。でも、課題はあった方がいいから。これで引き締まると思う」
たまっていた鬱憤を爆発させるような松井の仕掛けと突破の連続は、本田の指摘と完璧なまでにリンクする。そして、その本田の静かなる「咆哮」は止まらない。カタール相手に喫したドローは決してエアポケットではなく必然的に足をはまらせた落とし穴だ、と。
本田「結果論だから難しいけど、今日に限ってはグラウンドを広く使った方がよかった。選手同士の距離が近く、常にパスコースが2つも3つもあるサッカーははまればいいんだけど。相手が日本のパスサッカーについてこれない可能性もあるし、オレも(パスの)精度を上げていくことを貪欲に貫き通すけど、その中でも仕掛けること、自分の特徴をしっかり出すことを忘れないでいく。ボールをもったらまずパスの相手を探すのは『チームのために』という意味をはき違えているような気がしないでもない」
ちなみに、俊輔はドローの原因についてこう語っている。
「単純に疲れが出たのかなと思う」
現在のパスサッカーのスタイルを作り上げてきた強烈な自負からか、背番号「10」の視点は本田と対極の位置にあった。
本田の一連の言動は引退した中田英寿氏をほうふつとさせる。
4年前の6月。ドイツW杯出場を決めたタイから凱旋した成田空港で行われた記者会見で、中田氏は「現状ではW杯を勝ち抜くのは難しい」と明言。祝賀ムードに水を差し、その瞬間、何人かの代表選手が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。結局はW杯本大会の1次リーグで姿を消すまで、中田氏とその他の選手の間に生じた溝は埋まることはなかった。
ならば、本田はどうなのか。
今回が1月のアジアカップ予選以来となる代表招集だったが、大黒柱の中村俊の名前を挙げて「オレがポジション争いしているのは俊輔さん」といきなり豪語したのはまだ記憶に新しい。威風堂々とした存在感。そして、オランダ1部リーグの強豪PSVが獲得しようと目をつけているテクニック。2部とはいえオランダの大男たちが競うリーグの中でもまれたことで、フィジカルも見違えるほどに強くなった。一方で、その突出したビッグマウスぶりとカリスマ性ゆえに、中田氏同様に「劇薬」的な存在になりうる可能性も秘めている。
もちろん、本田自身、スタイルやポリシーを変えるつもりは毛頭ない。
本田「岡田監督からは『これをやったらいかん』とか一切言われていない。『ボールを奪われたら奪い返せ』とか、いたってシンプルなことばかりですよ」
個人的には現在のチーム力を飛躍的にアップさせる「触媒」になりうる存在だと思うし、本田のように「尖がった」存在をごく自然に迎え入れるだけの許容力がチームになければ「W杯のベスト4」は語れないだろう。言い方は悪いが、W杯に一度も出ていないカタール程度の国にプレッシャーをかけられただけで「組織力」を封じられてしまったのだ。1対1で勝てる力を持った「個」の存在は不可欠と言っても決して過言ではない。もし俊輔と両雄並び立たず、といった類の理由で本田が日本代表からの距離を遠ざけられるとしたら、しょせんはそこまでのレベルのチームであり、そこまでの器の指揮官であり、中田氏が浮いた存在となったドイツ大会から何ら進歩していないことになる。つまり、1次突破すら難しいということだ。
松井を除く欧州組は終わったばかりのシーズンの蓄積疲労を考慮されて、17日に敵地メルボルンで行われるアジア最終予選の最終戦への帯同を免除されることがカタール戦後に決まった。そのオーストラリア戦を終えれば、次なる岡田ジャパンの集合は9月上旬に予定される欧州遠征。敵地でオランダ、欧州の中立地でガーナと戦うことが内定している中で、果たして本田は招集メンバーの中に名前を連ねるのか。
最後にひとつだけ聞いた。ミックスゾーンで指摘した点をロッカールームやホテルでチームメートたちにも話しているのだろうか。
本田「いやあ、端っこの方で大人しくしてました」
没個性が指摘される現代表の中で、いろいろな意味で強烈な足跡を刻んだ23歳のレフティーは無邪気な笑顔を浮かべてスタジアムを後にした。(文=藤江直人)
2009年6月11日 04:59|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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