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岡田ジャパン/3年前と変わっていない現実 by 藤江直人
■W杯南アフリカ大会・アジア最終予選
日本代表(勝ち点15) 1‐2 オーストラリア代表(勝ち点20)
[6月17日午後7時20分キックオフ@MCGスタジアム(メルボルン)]
いつか見た光景だ。激しいフィジカル・コンタクトの連続で体力を消耗させられ、後半に入ってからセットプレーで連続失点を許しての逆転負け。相手も同じオーストラリア。W杯ドイツの初戦を戦った地、カイザースラウテルンで刻まれた忘れえぬ悪夢が約3年の時空を越えて、初冬のメルボルンで再現されてしまった。
日本へのテレビ中継はキックオフ前からしきりに「勝って1位通過を」と連呼し、消化試合となったアジア最終予選の格付けに躍起だった。しかし、たとえ1位になったところで12月4日に行われる本大会のドローには何ら影響を与えない。
前半40分に左CKからDF闘莉王が鮮やかなヘディング弾を見舞い、最終予選で無失点を続けていたオーストラリアの城壁をこじ開けたが、そもそもは2月に日産スタジアムに迎えたホームでの一戦でゴールを奪った上で勝っていなかればいけなかった。
今回のアウエー戦には中村俊輔、遠藤保仁、長谷部誠、本田圭祐のMF陣とFW大久保嘉人を帯同させず、代わりとなるメンバーも招集しなかった岡田武史監督は結局、交代枠をひとつ残したまま試合終了のホイッスルを聞いた。後半23分から投入された1m85の長身FW矢野貴章は、基本的に4‐2‐3‐1の「3」の右に配置され、残り数分になっても最終兵器・闘莉王をパワープレーで最前線に固定することもなかった。
「このレベルで策を弄して勝っても何も見えてこない」
現在発売中の弊誌「論スポ」でも、スポーツライターの玉木正之氏の問いに対して指揮官は「真正面からぶつかる」と宣言している。確かにその言葉通りの試合展開となったが、悲しいかな、結果は無残な玉砕。オーストラリアを物差しにすれば、ジーコ時代の3年前とほとんど変わっていないことを図らずも露呈しただけでなく、現在の岡田ジャパンが抱える3つの問題点も浮き彫りとなってしまった。
(1)センターバックの層の薄さ メルボルン入り後に体調を崩したDF中澤佑二は結局欠場。代役には10日のカタール戦ではボランチとして先発した阿部勇樹が指名された。
今回のアジア最終予選では左サイドバックも務めるなど、阿部が発揮したユーティリティーぶりは幾度となくチームの危機を救っているし、イビチャ・オシム前監督がよく口にした「ポリバレント(多様性)」を持つ典型的な選手と言えるだろう。
しかし、一方ではどのポジションでも帯に短し襷に長しの印象を禁じえない。所属する浦和レッズでは基本的にボランチ。1m77の上背でセンターバックを務めるには、スピードやフィジカルの強さといった部分で突出した武器がないとやはり厳しい。
実際、オーストラリア戦では闘莉王が1m94の長身FWケネディとのマッチアップに忙殺された。阿部が他の選手をケアする形だったが、後半14分、ケネディと競り合う闘莉王の背後に飛び込んできたMFケーヒルに対して傍観者となってしまう。目の前で同点ゴールを許した阿部は、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。後半31分には右CKに対してケネディらがニアサイドで囮となり、抜けてきたボールに対してケーヒルとともに反応。しかし、プレッシャーの前になかなか自分に優位な位置取りができず、最終的には一瞬早く右足をボールにコンタクトされてしまう。
ベンチには31歳の山口智、22歳の槙野智章の2人のセンターバックがいたが、結局、5月下旬のキリンカップで前者が念願のA代表デビューを果たしただけ。国の威信を背負って戦うW杯予選ではともに経験不足がネックとなったのか、出番は回って来なかった。
以前は1m89の寺田周平、1m88の高木和道が中澤&闘莉王の代役を務めることが多かったが、34歳の前者は故障禍で、後者は今シーズンから移籍しガンバ大阪で思うように出場機会を得られず、必然的にA代表との距離も遠のいた。
身長は最低でも1m85があり、高さだけでなく足元の技術も高く、自分たちが守るゴール前で存在感を発揮できる。センターバックの条件をこの3つに絞ると、現在のJリーグではなかなか該当者がいない。山口と槙野は高さが不足している上、代表における国際試合の経験が圧倒的に不足している。J1の首位を走る王者・鹿島アントラーズでゴール前の制空権を握っている1m87の岩政大樹は、岡田ジャパンの発足時に招集されながら故障で離脱して以来、まったく声がかからない状況だ。
来年6月の本大会で中澤、闘莉王の2人が健在ならばいい。しかし、リスクマネジメントを考えたとき、阿部には申し訳ないが、2人に続くセンターバックがボランチを本職とする選手ではどうしても心もとない。実際、責任感が強く、多少の痛みは我慢してプレーすることが多い闘莉王は故障も多い。かといって、経験が求められるセンターバックというポジションはすぐには人材が育たない宿命を背負っている。この先、致命的な問題とならないことを祈るばかりだ。
(2)ボランチのレベル格差 右太もも裏に肉離れを起こした遠藤。ウズベキスタンでの一発退場でオーストラリア戦まで出場停止中の長谷部。昨年6月2日のオマーンとのW杯アジア3次予選を皮切りに日本代表のボランチにはこの2人が固定され、岡田監督をして「ウチの心臓」とまで言わしめるほど信頼を勝ち取っている。
以来、どちらかが欠けることはあったが、2人同時に不在となるのは10日のカタール戦とオーストラリア戦の2度しかない。「ハセ(長谷部)がどんどん前に行くタイプだから自分はバランスを上手く取っている」と遠藤が言うように、熟成されてきたコンビネーションは日本の大きな武器であり、同時にセカンドチョイス組との格差が相当に広がってしまった。
遊びの時間帯を作る個人的な戦術眼や味方に与える安心感、あるいはサイドの選手が攻め上がらせる演出法。10日のカタール戦では阿部と橋本英郎、オーストラリア戦では今野泰幸と橋本がコンビを組んだが、これまでほとんど実戦でコンビを組んだことがない以上、いきなり遠藤&長谷部コンビと同じ仕事を求めるのは酷な注文だった。
これもセンターバック問題と同じ状況となるが、来年6月までの強化試合の数が限られている以上、遠藤と長谷部の心臓部分をさらに強化しなければならないし、そうなると必然的に控え組のレベルアップを図る時間がなくなる。二兎を求められないのが現状だ。
その一方で、岡田監督は即戦力となりうる新しい選手の招集には慎重な姿勢を崩さない。例えばJ1で首位を走る鹿島の原動力であり、ボランチの位置でチーム全体を統率している経験豊富な小笠原満男の代表復帰の可能性をメディアから尋ねられた際には「所属チームで少しいいプレーをしたらすぐ代表に、という場所ではない」と一喝したこともあった。
(3)FWの存在価値 今年に入ってからの国際Aマッチ8試合で7ゴールを挙げ、特に4大会連続のW杯切符獲得を決めたウズベキスタン戦での執念の決勝ゴールで一躍スポットライトを浴びたFW岡崎慎司もラスト2戦は不発。岡崎に限らず、前線の選手はオーストラリア戦でも特に守備で奮戦し、自陣に全速力で戻って相手の突進を阻止するシーンも決して珍しくなかった。
岡田監督は「全員守備、全員攻撃」をコンセプトに掲げているが、特に前線の選手が守備に忙殺され、肝心の攻撃が疎かになっては本末転倒だ。実際、サイドからクロスが入っても中の人数が足りないことや、クロスに対して「点」ではなく「線」で合わせようとするシーンがかなり目立ったのも事実だ。1‐0で勝利した3月のバーレーン戦では修正されかかっていたが、またぞろ悪癖が顔を出し始めてしまった。
A代表に招集されなくなって久しいが、サンフレッチェ広島のFW佐藤寿人は「ニアサイドこそが自分の戦場」と公言。屈強で大柄なDFに対して臆することなくニアに突っ込み、「相手の切っ先でボールに触れて自分がゴールするのもいいし、自分が潰れることでファーサイドにボールが流れればさらにチャンスになる」と1m70、68kgの小さな体に秘めたFW哲学を語ってくれたことがあった。FWの矜持と言ってもいいだろう。
キックオフ時の湿度は85%とやや高かったが、気温は8度。この時期の南半球は初冬であり、もちろん来年の南アW杯も同じ気象条件下で行われる。尋常ではない暑さの中で体力を失っていったドイツ大会とは根本的に異なる。相手を運動量で凌駕することで道を切り開く日本にとって、攻め込むべきゴール前でこの体たらくが続くのでは話にならない。
できなければ、佐藤をはじめとする他のFWと変わればいい。岡田監督もそれぐらいの厳しさを打ち出していくべきではないか。決定力不足うんぬんの前に勇気不足、体力不足の二重苦では、頼みの綱は本当にセットプレーだけになってしまう。
オーストアリア戦が終了した瞬間、テレビ画面の右上には「あと359日」のテロップが登場した。まだ1年あるのか。あと1年しかないのか。返ってくる言葉はわかっていたが、ウズベキスタンから凱旋した7日にあえて長谷部に聞いてみた。
「もちろん、1年しか、ですよ」
オーストラリア戦をもって代表チームのスケジュールは9月に予定される欧州遠征までしばらく空く。欧州組はつかの間のオフで新シーズンへ向けて鋭気を養い、Jリーガーたちは休む間もなく今週末からのリーグ戦再開に体と心を切り替える。アジア最終予選の8試合を闘い終え、グループAの1位通過のオーストラリアには勝ち点差で「5」もつけられた。南アフリカでのベスト4を目標に掲げた一方で、この厳しい現実は何を意味するのか。 長谷部が指摘した「1年しかない」を合言葉に、日本代表の新たなる闘いが始まった。 (文=藤江直人)
2009年6月18日 01:10|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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