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大人になった大久保嘉人は見たくない by 藤江直人
ほおはげっそりとこけ、ワイシャツやズボンはかなりダブついている。ヴィッセル神戸に復帰した日本代表FW大久保嘉人を見て、「痩せすぎてないか」と思わず心配してましった。
敵地メルボルンで行われた6月17日のオーストラリア戦への帯同を免除され、つかの間のオフを満喫した。本人は「6日間だったけどオレはそれで十分」と豪快に笑い飛ばし、「日本は暑いからね」と体調不良による体重減ではないことを強調した。
なるほど、視線はギラギラと鋭く、ほおがこけた分だけ顔つきも精かんさを増している。ブンデスリーガのボルフスブルクでは特に優勝争いが佳境を迎えたシーズン終盤になってほとんど出場機会に恵まれず、心身にストレスを溜め込んでいたのだろう。
契約は2011年6月まで残っていたが、「来年のW杯のために出場機会を増やしたい」と自ら希望する形でわずか半年で神戸へ復帰。21日のサンフレッチェ広島戦で後半26分までプレーすると、復帰2戦目の27日の浦和レッズ戦ではフル出場を果たした。
日本特有の梅雨の蒸し暑さも手伝って体が絞れてきたのであれば、欧州チャンピオンズリーグに出場できる可能性を捨ててまで移籍した効果が早くも表れた、と言ってもいいだろう。
しかし、取材エリアでプンプンと発散させていた「危険なオーラ」が、肝心のピッチの中からはなかなか伝わってこない。
3トップの右で出場した浦和戦では2度の決定的なチャンスを外した。MFアラン・バイーアのシュートのこぼれダマにフリーで詰め寄った前半7分のシュートはバーの上へ。「ボールが変なバウンドをしてスネに当たった」と本人も天を仰いだ。後半34分にも最終ラインの裏に抜け出して左足でシュートを放ったが、ボールは無人のゴールには吸い込まれずにポストの左をかすめてしまう。
しかし、存在感を放ったのはこの2度の場面だけだった。大久保が取られたオフサイドはゼロ。つまり、武器でもあるスピードを生かしてゴール前のスペースに走り込んだ回数が極端に少なかったことを示している。その一方で、自らがボールを持って仕掛ける場面もなかった。試合後、大久保はこう漏らしている。
「ボールをもらっても前に人がいないから、選択肢はひとつしかない」
選択肢とは試合中のプレーを見ていてもわかったが、あらためて本人の口から聞くと、肩透かしの思いを感じずにはいられない。
「DFに戻して、また一から攻撃を作り直すしかないでしょう」
むやみに勝負を仕掛けてボールを失い、相手のカウンターの脅威にさらされることを考えれば、大久保の選択はもちろん間違いではない。大久保の「留守中」に加入した外国人FWマルセウとはまだお互いを理解し合えていない。今シーズンから指揮を執るカイオ・ジュニオール監督とのコミュニケーションも然りだ。
しかし、それでも大久保にはもっと「個」を前面に打ち出して勝負を挑んでほしい、というのが偽らざる本音だ。
日本代表MFの本田圭佑は「サッカーは基本的に1対1を競うスポーツ。目の前の敵に勝っていって、その積み重ねが11対11になる。自分が任されたエリアで負けないことがサッカーだと思っている」と持論を展開する。異論もあるかもしれないが、1対1で勝てば局面が大きく変わるのも事実だ。大久保には仕掛けるスキルも度胸もあるだけに、自ら個性を封印してしまったのは残念でならない。
ジーコ監督時代の2003年に21歳でA代表に抜擢されたときの大久保は、類稀な身体能力とゴールへの執念をむき出しにするプレースタイルで、ジーコ監督をして「日本サッカーの将来を担う逸材」と絶賛させた。
27歳となったいま、かつてはピッチから危険なオーラをプンプンと発散させた「やんちゃ坊主」は心身で成長を遂げたが、大人になった分だけ相手に与える脅威も減ったのではないか。
敵地ウズベキスタンで4大会連続となるW杯切符を獲得し、凱旋帰国した横浜市内のホテルに設けられた取材エリアで大久保に気になる点をぶつけてみた。
――もう少しピッチの中で暴れた方がいいかな、と。かつてのやんちゃぶりが影をひそめているような気がしてならないんですけど。
「オレがそれをやったらすぐ退場になっちゃいますから。もう退場はできんでしょう」
――いえいえ、もちろん退場とかではなく、ゴールへ向かう姿勢というか執念をもっと見たいなと思うんですけど。
「まあ、そこはバランスを見ながらですね」
――アジア最終予選ではノーゴールに終わりましたが。
「そうですね。そこは残念です。まだ来年の代表メンバーに入ったわけではないから、これから本番に向けて頑張らないと」
03年12月の韓国との東アジア選手権、08年6月のオマーンとのアジア3次予選で受けた2度の退場処分がいまもトラウマとして大久保の心に刻まれていることがわかる。実はナイーブで考え込む性格という。メディアの批判を受けたこともあって退場後は2度ともかなり心身を疲弊させ、ピッチに入るとついつい熱くなる自分自身を必死に封じ込めようと努力してきたのだろう。
ジーコ監督時代は次第に出場機会が減り、スペインリーグのマジョルカに移籍後はほとんど代表に招集されないままドイツW杯への出場がかなわなかったこともショックだった。「今回はやっぱり出たいから」と、28歳で迎える来年の南ア大会を最後のチャンスとして捉えているのかもしれない。
だからこそ、全員守備、全員攻撃を標榜する岡田武史監督のコンセプトを必死で実践し、左MFに配されることが多い中で特に守備で奮闘する姿が目立つこともあった。「バランスを見ながら」という殊勝な言葉には、裏を返せばコンセプトを守らなければ代表から外される、という恐怖心が働いていると言ってもいいのではないか。
日本代表OBの中でいま、釜本邦茂氏という存在をもう一度見つめ直すべきではないか、という声が上がっているという。日本が生んだ不世出のストライカーだが、その割には評価が決して高くないというのがその理由だ。
FWが守備に労力を割いてどうするんや。ボール一個が通るすき間があればシュートを打てばいいんや。オレが無得点でチームが勝つより、オレがハットトリックを達成して負けた方がええわ――語録や伝説を挙げれば枚挙にいとまがないが、FWがゴールという絶対数で評価されることは当時もいまも変わりない。
しかしながら、釜本氏のFW哲学がいまのFW陣に受け継がれているのかと言えば、決してイエスとはならないのが現状だ。
釜本氏と大久保とでは同じFWでももちろんタイプが違うし、守備をしないなどと唯我独尊になれと言うつもりもない。ただ、没個性が指摘されるいまの日本代表の中で大久保がかつてと同じようなゴールへの執念と嗅覚を発揮すればそれだけで稀有な存在になり、相手に与える脅威も大きくなる。
たとえバランスを崩したとしても、残る10人の仲間が臨機応変に考えてギャップを埋めてくれるはずだし、結果としてゴールを決めてくれれば何の文句もない。大久保には相手の最終ラインの裏に抜けるスピードだけでなく、ドリブル、ミドルレンジからの決定力とゴールを奪うために必要な武器をいくつも搭載している。
バランスという大義名分のもとに大久保が自身の判断でそれらを自重しているのであれば、それは本末転倒と言わざるを得ない。平均的な選手ではなく、何かが尖がった、突出した武器を持つ戦士が来年の南アでは必要とされるからだ。
ならば、大久保嘉人は完全に変わってしまったのか。
噛み合わない味方の攻撃によほどイライラしていたのか。0‐2とリードされて迎えた浦和戦の後半10分、審判への異議を重ねたとして大久保にイエローカードが提示された。もちろん不必要な行為であり、チームにとっても決してプラスにはならないが、一方でちょっとホッとしたのも事実だ。
まだまだ「やんちゃ坊主」な面影も残しているのだ。(文=藤江直人)
2009年6月29日 04:36|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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