Home > 本日の論! > 職人・遠藤保仁がPKを失敗した理由 by 藤江直人
職人・遠藤保仁がPKを失敗した理由 by 藤江直人
■J1第10節
川崎フロンターレ(勝ち点30) 1‐0 ガンバ大阪(勝ち点23)
[7月1日午後7時キックオフ@等々力陸上競技場/観衆1万5903人]
両手を大きく広げ、ゴールマウスに仁王立ちする川崎フロンターレのGK川島永嗣。ガンバ大阪のMF遠藤保仁は足元のボールには目もくれず、約11m先にいる川島だけを見つめて微動だにしない。
フロンターレの1点リードで迎えた後半8分だった。前半32分にプロ通算2ゴール目を決めていたFW養父雄仁がペナルティーエリアの中でガンバの選手を倒した瞬間から、ともに日本代表に名前を連ねる2人の火花散る対決は幕を開けていた。
扇谷健司主審がPKを宣告するホイッスルを鳴らすと、西野朗監督をはじめとするガンバの誰もが同点を確信した。ボールをゆっくりと拾い上げる遠藤のもとから、一人、二人とガンバの選手が離れていく。任せたぞ。無言の会話が伝わってくる。
1998年3月に横浜フリューゲルスの一員としてデビューして以来、遠藤はPKで20ゴールを記録している。福田正博の26ゴールに続くJリーグ歴代2位であり、ジュビロ磐田の中山雅史と並ぶ現役トップ。何よりも福田も中山もともに8度のミスがあるのに対し、遠藤のミスはわずかに1度。成功率実に9割5分。ただでさえキッカーが8割方有利とされるPKにおいて、遠藤は「職人」と呼ばれるに足る絶対の武器を持っていた。
誰が名付けたか、人呼んで「コロコロPK」。ゆっくりと助走し、ボールに近づくにつれてさらに減速し、ボールをまったく見ないでGKを凝視し、GKが我慢しきれずに動いた逆の方向へ瞬時に右足首の角度を変え、ピッチをコロコロと転がるPKを蹴り、緩い弾道で静かにネットを揺らす。
「僕がGKであれをやられたら、逆にすごくムカつくと思う」
当事者の遠藤でさえ苦笑する、特に相手のメンタルにより大きな打撃を与える蹴り方を編み出してすでに7年。Jリーグ以外では昨年のクラブW杯で優勝したマンチェスター・ユナイテッドの守護神、元オランダ代表のエドウィン・ファン・デル・サールをも翻弄した遠藤だったが、同時に研究されているとも感じていた。
「ファン・デル・サールも僕のPKを読んでいたので、ちょっと強めに蹴ったんです」
今シーズンも3発蹴ってすべて成功させていたが、コロコロPKではなく、サイドネットを狙って強い弾道で沈めたPKもあった。ゆっくりとした助走に相手GKが慣れ、まったく動かないときはサイドを狙ってハードヒットすることにしているからだ。
しかも、この夜は対峙する相手GKとは特別な関係があった。
キャップ数はわずかに3だが、2007年からA代表に名前を連ねる川島は、代表合宿でPK練習のGKを買って出ることが多かった。
代表のPKはそのほとんどを遠藤が担う。当然のように練習で川島はコロコロPKにあざ笑われた。同時に遠藤のPKの傾向、ちょっとした癖、何よりもコロコロPKに対する「免疫力」を体に染み込ませ、実際、合宿ではコロコロPKを何本かセーブしたという。
「そういうのもあって、今日は最初から強く蹴ると決めていた」
ボールに足をヒットさせる刹那に決めていた弾道の強弱を助走に入る前から決めた。コースは従来通りインパクトの直前に決めたが、過去の成功事例のプロセスを一部捨て去ったことから見ても、川島という存在に対して遠藤が必要以上にナーバスになっていたと言ってもいいだろう。
その川島は自らに3つの言葉をまるで呪文のように言い聞かせていた。
「耐えろ、耐えろ」
「頭で考えるな」
「体を先に動かせ」
そのココロはどこにあるのか。ガンバ戦がJ1通算100試合目のメモリアル出場となった26歳の守護神は、会心の笑顔を浮かべながら「遠藤封じ」の一端を明かした。
「頭であれこれ考えるとボールへの反応が遅くなる。ヤットさん(遠藤)は上手いので、とにかく最後までボールをよく見て、できるだけ先に動かないように耐えて、うまく体を反応させるようにしました」
ウラをかいた遠藤。陽動作戦に鉄の意志で対抗した川島。約11mの空間で繰り広げられた巧妙な駆け引きの激突は、左隅を狙った強烈な弾道に対して抜群の反射速度で反応し、両手でガッチリと弾き返した後者に凱歌が上がった。
昨年8月23日にホームの万博競技場で行われたヴィッセル神戸戦。相手GK徳重健太にPKを止められ、リーグ戦における初めての失敗を記録した原因について、遠藤は「自分の方から相手のタイミングに合わせてしまった」と偶発的な要素があったと分析している。
しかし、今回は偶発でもなんでもない、まさにパーフェクトセーブ。同点を確信していた分だけガンバのショックは大きく、その3分後にはゴール右上へと吸い込まれかけた遠藤の正確無比なFKをまたも川島がファインセーブ。ボールを圧倒的に支配され、終始ガンバに傾いていて流れを最後の城壁が食い止めた。
取材エリアとなっている試合後の等々力陸上競技場正面ロビー。遠藤は淡々とした口調の中にときおり悔しさをのぞかせながら、リーグ戦で2度目、他のカップ戦などを含めるとプロになって4度となるPK失敗を振り返った。
「あれはコースが甘かった。GKが止めやすいコースにいってしまった。決めなければいけないPK。あれだけ強く蹴ることもなかなかないんですけど、失敗したことは仕方ない。しっかりと反省して、次の機会につなげたい」
1週間前のACL決勝トーナメント1回戦で惜敗し、アジア連覇への道を閉ざされた因縁のフロンターレに喫した痛恨の黒星。この夜も名古屋グランパスに快勝した首位鹿島アントラーズとの勝ち点差は実に「15」も広がった。
まだリーグ戦は折り返してもいないが、それでも絶望的な大差と言っても決して過言ではない。過去のJ1における最大逆転優勝が、05年に最大「12」差をひっくり返したガンバ大阪。すでに未知のゾーンに突入した昨年のアジア王者のプライドと意地を、遠藤はこう代弁している。
「このままでは終われない。次につなげないといけない。いいサッカーをしているし、ゲームを確実にコントロールしている。悪くないけど、結果が出ない」
一方のフロンターレはチームタイ記録の6連勝をマーク。アントラーズと勝ち点8差の2位に浮上するとともに、次節7月5日にそのアントラーズをホームに迎える大一番に悲願のリーグ初制覇への「挑戦権」をかけて必勝を期して臨む。
好調なチームの中心にいるのが、ガンバ戦を含めて3試合連続完封を達成した川島だ。
「ガンバの攻撃力に苦しめられるなかで、みんなの意思を統一させてチームとして動くことが大事だった。ガンバを上回る強い気持ちで試合に臨めたことがよかった」
大宮アルディージャ時代にパルマ、名古屋グランパス時代にはウディネーゼから獲得オファーを受けた逸材。アルディージャからグランパスに移籍する際は、日本代表GK楢崎正剛がいることを承知の上で「追い抜く」と公言して周囲を驚かせた。
1m85、80kgの恵まれたボディに宿る、セリエAをも魅了したポテンシャルが2007年の移籍から84試合連続フル出場中のフロンターレで一気に覚醒しているのか。だとすれば、楢崎に続くGKがなかなか台頭しない日本代表にとっても、フロンターレで一戦ごとに輝きを増す川島は歓迎すべき存在となるはずだ。(文=藤江直人)
2009年7月 2日 05:48|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
トラックバック(0)
この記事のトラックバックURL: http://sv62.wadax.ne.jp/~sports-times-jp/mt/mt-tb.cgi/321
コメント(0)
コメントを書く
- 井上康生 「最後の内また」
(2008/06/08 21:36) - 北京五輪100kg超級代表、石井彗の練習風景
(2008/05/24 22:25) - ばんえい競馬@帯広ばんえい競馬場
(2008/05/07 12:15)
カテゴリー
アーカイブ
編集部より