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鹿島アントラーズを蘇生させたデジャヴ by 藤江直人
■J1第16節
川崎フロンターレ(勝ち点31) 1‐1 鹿島アントラーズ(勝ち点39)
[7月5日午後7時キックオフ@等々力陸上競技場/観衆2万2185人]
文字通りのデジャヴ。いつか見た試合展開だった。
故意のハンドで得点機会を阻止したとしてDF内田篤人が前半32分に一発退場となり、その1分後に川崎フロンターレのFWジュニーニョにゴール左隅にPKを決められて先制を許した直後だった。
鹿島アントラーズのオズワルド・オリヴェイラ監督が動いた。内田が抜けた右サイドバックに攻撃的MFの本山雅志が下がるように指示。フォーメーションをそれまでの4‐4‐2から4‐3‐2に、選手交代のカードを切ることなく変えたのだ。
DFの選手が退場となった場合、2枚のFWのどちらかを守備的な選手と交代させることがセオリーとされている。しかし、オリヴェイラ監督はマルキーニョス、興梠慎三の2トップをそのまま残し、本山には守備と同時に攻め上がってからはゲームメークにも参加する役割も命じていた。
その瞬間、アントラーズの選手たちの脳裏には2007年11月24日に埼玉スタジアムで行われた浦和レッズ戦の記憶が蘇っていた。両チームともに無得点で迎えた前半終了間際。2度目の警告を受けたDF新井場徹が退場となった瞬間、オリヴェイラ監督は本山に新井場が抜けた左サイドバックに入るように命じていた。
本山の配置転換を通じて指揮官が伝えたメッセージは単純明快だった。
「10人になっても攻めろ」
試合は後半にMF野沢拓也が千金の決勝弾を叩き込み、1週間後の最終節でレッズを勝ち点1差で逆転する奇跡のリーグ制覇を呼び込んだ。果たして、約2年半の歳月を越え、再び本山を通じて託された指揮官のメッセージは瞬時にピッチ上の10人に伝わった。
ボランチの青木剛が興奮気味に言う。
「あの局面でFWを2枚残すところがウチの監督のすごいところ。普通だったら4‐4‐1にするところなんですけど、攻撃する意識を持たせたんだと思う」
シックなスーツに銀縁の眼鏡。インテリジェンス感を漂わせる58歳のブラジル人指揮官は涼しげな表情で自らの采配を振り返った。
「退場者が出てすぐに選手を交代させるのは得策じゃない。あの場面では本山に頑張ってもらい、あとは様子を見ながら相手の出方をうかがうものだよ」
その一方では、ハーフタイムに選手たちに「いつもの1・5倍走れ」と厳命。先天性水腎症を患った影響でスタミナ的に不安のある本山の体調を考慮し、交代要員として同じ攻撃的MFの増田誓志を早めにスタンバイさせた。交代のカード3枚をそのまま残し、その上で最大限の手段を講じて迎えた後半19分にドラマは起こった。
対するフロンターレはリードしながらも王者のプレッシャーにさらされていた。
2万人を超えるサポーターが駆けつけたホームでの大一番。6連勝で2位に浮上する間に積み重ねてきた自信と勢い。そして、内田の退場による数的優位。アントラーズの背中を視界にとらえ、悲願の初タイトルへ大きく前進する勝利へ。すべてにおいて追い風が吹いていたはずだった。
しかし、最初に選手交代のカードを切ったのはフロンターレだった。後半11分。その直前に2度の決定的なチャンスを外していたFW鄭大世に代わってFW黒津勝が入る。関塚隆監督はその意図をこう説明した。
「テセ(鄭大世)のイエローカードが危なかったので、黒津のスピードを生かそうと思った」
前半40分にラフプレーでイエローカードをもらっていた鄭大世は、競走馬に例えれば入れ込み過ぎ。決定機で決められず、過度の興奮状態にあった北朝鮮代表FWが試合巧者アントラーズの挑発にさらされれば退場となる危険があったし、スピードのある黒津を配してカウンターを狙うことももちろんリードしているチームの常とう手段だ。
しかし、選手交代が監督のメッセージを伝える手段である以上、残り時間は守ってカウンター狙いに徹するとフロンターレの選手の誰もが思っただろう。当然のように、最終ラインとボランチを中心に無難なボール回しの時間帯が増える。
ここで忘れてならないのは、アントラーズがFWの枚数を減らしていなかったことだ。してやったりの表情を浮かべたのは興梠だ。
「後ろでボールを回してばかりいたので、カットすればチャンスになると思っていた。マルキーニョスと2人で、そればかり狙っていました」
後半19分。ボールを受けたボランチの寺田周平の背後で気配を消し、スキをうかがっていたマルキーニョスが無造作に寺田が出したパスをかっさらう。その時点でマルキーニョスと興梠に対するフロンターレの守備陣は2人。こうなれば数的優位も何もない。
マルキーニョスからのスルーパスを受けた興梠がGK川島永嗣をもかわし、無人のゴールネットを揺らした瞬間、フロンターレが描いていた勝利の方程式は崩れ去った。後半29分にFW矢島卓郎を投入して3トップでアントラーズ陣内に攻め込んだが、J1最少の10失点を誇る堅守をこじ開けることができないまま試合終了の笛を聞いた。
「非常に残念な引き分けです。ぜがひでも勝ち点3がほしかったんですが、相手に勝ち点1をプレゼントしてしまった」
試合後の会見に臨んだ関塚監督の表情と声のトーンは沈んでいた。セオリー通りにことを運んだはずだったが、裏を返せばセオリー通りだったからこそ相手に出方を読まれていたのではなかったか。
結果論になるが、決して守備が上手いとは言えないアントラーズの右サイドバック、本山と後半28分から交代で入った増田にプレッシャーを与え続けて、最終ラインに綻びを生じさせるのも手ではなかったか。2点目が入った時点で10人で戦う王者は戦意をほとんど喪失しただろう。攻撃は最大の防御なり。もうひとつのセオリーは指揮官の選択肢にはなかったのだろうか。
「後半の立ち上がりにもチャンスがあったし、失点が少ない堅守のチームですからそう簡単にはフリーにさせてくれない。逆に相手は攻撃面でも迫力のある戦いをしてくる。ウチが攻撃に枚数をかけていったら、リスタートからでもそうですが、今それがアントラーズの得点のほとんどの部分を占めているので、そこはしっかりと締めながら攻撃に入っていくというところではチャンスを作れたと思う」
やはり必要以上に王者の底力を警戒していたのだろう。ハーフタイムに「もしかすると一回ぐらいしかチャンスはないかもしれない」と攻撃陣に集中力を研ぎ澄まし、背水の陣で臨むことを求めたオリヴェイラ監督との差が、セオリーと非セオリーとの差が、さらに言えばアントラーズとフロンターレの差がここにある。
そのオリヴェイラ監督も後半30分を過ぎた頃にマルキーニョスをサイドライン際に呼び寄せ、何やらひそひそと指示を送った。マルキーニョスとMF中田浩二との交代が告げられ、ドローでよしとするメッセージがピッチに伝わったのはその直後だった。
「日本では決してほめられないかもしれないが、私はこの結果に対しておめでとうと言いたい。非常に満足している」
数的優位に立ちながら、鄭をベンチに下げた後半11分以降は勝負を決める2点目を積極的に奪いにいかなかったフロンターレ。昨シーズンのMVPであるマルキーニョスを交代させた時点で、追いすがる眼下の敵の今シーズンにかける戦意を根こそぎ喪失させる逆転勝利をあえて求めなかったアントラーズ。スタンドで観戦していた日本代表OBは苦笑いする。
「これがプレミアなら、両チームとも何がなんでも2点目を奪いにいく。リーグ全体の面白さという意味では、この結果はどうなんだろうね」
ともに勝ち点1ずつを積み重ねた90分間を終えると、フロンターレは脱力感を漂わせながらがっくりとうなだれ、アントラーズは笑顔でがっちりと握手を交わした。勝ち点差は変わらず8のまま。一時は見えかかった王者の背中が再び遠くかすんだ中で、カクテル光線に照らされたピッチにはまさに敗者と勝者の非情なコントラストが描かれていた。
アントラーズを蘇生させたデジャヴ。前回が奇跡の逆転優勝の呼び水となったように、ちょっと気の早い話かもしれないが、Jリーグ史上初となる3連覇を達成すれば、そのターニングポイントとして刻まれるに違いない。
サッカーにおける監督采配の妙と、決着がつかなかったことへのちょっぴりの不完全燃焼感を残して、J1前半戦の天王山が幕を閉じた。(文=藤江直人)
2009年7月 6日 04:17|記事URL|コメント(1)|トラックバック(0)
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コメント(1)
現在はNHK-BSで4強が中心ですがプレミアリーグを見ることができます。私はそれに加えてマンU・TVもよく見ています。
同点の状況で一人少ないチームが攻撃的にいくケースはリーグ戦折り返し前ということを考えれば相当まれでしょう。
ましてや川崎は強力な外国人だけでなく中村・谷口・黒津など攻撃センスあふれる日本人プレーヤーがいます。
リーグの状況もプラスして考えれば鹿島が攻撃的にいく必要があったとは思えないですね。
〈スタンドで観戦していた日本代表OB〉、が誰か知りませんが名前を明かすべきですね。そうすれば彼が現役時代どんなプレーで観客を魅了したか思い出すことができますから。
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