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J2首位ターン/湘南ベルマーレが直面していた正念場 by 藤江直人
年間の試合数が1チームあたり51戦。湘南ベルマーレを指揮する反町康治監督の言葉を借りれば、「他に例を見ないほど恐ろしいリーグ」となる長丁場のJ2戦線が8日の第26節で折り返した。
勝ち点57で首位ターンを決めたのはそのベルマーレ。今シーズンは3位以内に入れば自動的にJ1に昇格できるシステムだけに、1999年を最後に遠ざかっている悲願のJ1復帰へ、絶好のチャンスが訪れていると言ってもいいだろう。
勝ち点1差で追走してくるセレッソ大阪とは、3月の開幕以来、激しいデットヒートを演じてきている。しかし、17勝6分け3敗と順調に勝ち点を積み重ねてきたベルマーレは、実はここ数試合、今シーズンで初めてとなる「正念場」に直面していた。
18チームが3回戦総当りで対戦するJ2を17試合ずつ3つのクールに分けて考えると、ベルマーレの第1クールは12勝3分け2敗、得点32に対して失点11とほぼ満点に近い結果と内容だった。第2クールに入っても8日のヴァンフォーレ甲府との第26節を終えた時点で5勝3分け1敗の成績を残しているが、ここで注目したいのはすでに13を数えている失点だ。正確には第2クールの7試合だけで第1クールの失点11を上回っていたのだ。
6月24日の東京ヴェルディ戦で1‐2と敗れた後、反町監督はこう指摘していた。
「黒星を喫する兆候は見えていた」
その兆候こそが失点の急増だ。第19節のロアッソ熊本戦を3‐3で引き分けたのを皮切りに、5試合連続で2失点以上を献上。その中には愛媛FCやFC岐阜といった下位に低迷するチームも含まれていた。選手会長を務めるMF田村雄三は「相手に研究されている」と追われる立場になったことを痛感している。
「結果として上位にいますけど、そうなれば必然的に下のチームも燃えてきますからね」
最前線で起点となるFW田原豊へのマークはより厳しくなり、ときには相手が反則も厭わなくなった。FWアジェルにはヨコへは自由に動かす代わりに、タテへのパスや突破は許してくれない。そして、開幕からワンボランチで中盤の攻守を支えてきた田村の周囲に生じるスペースを巧みに突かれる。
戦いも一巡目を終えて、今シーズンから指揮を執る反町監督の戦法が丸裸にされた結果が失点の急増につながったことは想像に難くない。ヴェルディ戦の4日後に行われた栃木SC戦も1‐1の引き分けに終わった。それでも、指揮官は練習で守備網の再構築に着手することはなかった。
「攻撃の練習しかやらせませんでした。J2の過密日程の中で守備の練習をしている時間はないし、ピッチに入れば選手も攻撃の方が好きですからね」
選手たちは、しかし、この言葉を額面通りには受け止めていない。第2クールでの失点増を田村はこう分析している。
「守りに入ったとか、そういうことではないと思うんですけど、人間の心理というものは難しくて、周りから首位だ、何だと言われると、前半はどうしても無失点で終えたいという気持ちになってしまって。僕らはあくまでチャレンジャーですから、メンタル的な部分の修正が必要だったと思う。大雑把に言えば、執着心の問題だったんです」
いままでのやり方でまったく問題はない。自信を持て。守りになんて入るな。方向性は絶対に変えない。攻撃の練習しか組まれなかったメニューには、反町監督のこんなメッセージが込められていた。
自身が97年に現役を終えた古巣の指揮を執るにあたって最も心掛けたことは、J2で8シーズンに渡って積み重ねてきた苦闘の歴史とチームカラーを尊重することだった。だからこそ、新任監督にありがちな「大ナタをふるう」ことは極力避けた。
主だった補強はアルビレックス新潟時代にもともにJ1昇格を味わったGK野沢洋輔とMF寺川能人、開幕直前にテスト生から合格させた田原の3人。あとは攻撃に専念させるためにアジェルをMFからFWへ、坂本絋司をボランチから元来の2列目に戻す微調整をほどこした上で、方針をシンプルで覚えやすい言葉で伝えた。
『Motion & Emotion』
Motion(モーション)とは「自分たちから常に仕掛けて躍動する」ことであり、Emotion(エモーション)とは「強い感情をもってプレーする」となる。昨シーズンまでのベルマーレがまったく実践できなかったわけではないが、語呂もうまく合わせたこのスローガンが選手たちを巧みに意識付けしたことは言うまでもない。
J2降格と同時にジュビロ磐田から移籍し、現在に至るまでの喜怒哀楽のすべてを知っている30歳のチーム最古参、坂本はこう証言する。
「いまでは頭で考えるよりも先に体が動く。気持ちの問題というけれど、レベルがはるかに高いチャンピオンズリーグでも結局は強い気持ちが原点になる。いまのベルマーレでそれが実践できなければ、試合に出られませんから」
スローガンを思い出し、再び心身に叩き込んだからか。7月に入って最初の試合となった5日の横浜FC戦は「攻守ともにパーフェクト」と田村が振り返る内容で2‐0で完勝。折り返しの一戦では前回の対戦で0‐1と苦杯をなめているヴァンフォーレ甲府を2‐1で振り切った。
後半37分の失点は2点をリードしている状況で「ダフったようなシュートが入った」(反町監督)ものだったが、その後のヴァンフォーレの猛攻を素早い出足と献身的な守備でシャットアウト。勝ち点5差で食らいついていた眼下の敵を突き放す勝利に、田村は「みんなよく走っていたし、粘りが戻ってきた」と会心の笑顔を浮かべながら、後半戦をこう見据えた。
「うまくいき過ぎている点もあるし、思ったよりも結果がついてきている部分もあるけど、ギアをもうひとつ、ふたつ上げないと。それで夏場を乗り切ったときに、多少なりとも先が見えてくると思う」
まだ25試合も残している段階では手応えも何もないだろうし、ちょっとでも黒星が続けばセレッソに逆転を許すだけではなく、その後続のベガルタ仙台やヴァンフォーレ、さらにはヴェルディや徳島ヴォルティス、水戸ホーリーホックといった第2集団にも肉迫されるだろう。
それでも反町監督には迷いはない。
「細かいところは企業秘密で言えないけれど、要は積極性の問題。どうやって積極性を引き出すか。それをメーンに考えました」
アルビレックスを率いてJ1昇格に導いたときから、自らの指導スタイルを「右手にロジック(理論)、左手にパッション(情熱)」と描写してきた。その言葉通りならば、まだ左手の中身のみを披露した段階で開幕ダッシュに成功し、第2クールで訪れた最初の正念場も乗り越えようとしている。
今週末には敵地でセレッソとの頂上決戦が控え、アビスパ福岡戦をはさんで22日には再び敵地で3位のベガルタ戦が待つ。もちろん、第3クールではさらに相手も研究してくるだろうし、高温多湿の夏場の戦いの中で決して厚いとは言えない選手層が悲鳴を上げることもあるだろう。
そのとき、右手からはどんなロジックが繰り出されるのか。指揮官はすでにその胸中に何か温めているものがあるのだろうか。
「当たり前ですよ。そうじゃなかったら、監督をやっている意味がないからね」
過去2シーズン、ベルマーレは終盤までJ1昇格圏内に踏み止まりながら07年は6位、08年は5位と最後に息切れしてきた。果たして3度目の正直で悲願は達成されるのか。アルビレックスでまばゆい脚光を浴び、北京五輪で一敗地にまみれた45歳の指揮官の手腕をも問われるJ1昇格への過酷な戦いは夏を越え、秋を越えて12月の第一週まで続く。(文=藤江直人)
2009年7月10日 00:08|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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