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浦和レッズ/選手を育てるサポーターの拍手  by 藤江直人


■ナビスコカップ準々決勝第1戦
浦和レッズ(1勝) 2‐1 清水エスパルス(1敗)
[7月15日午後7時30分キックオフ@埼玉スタジアム/観衆2万1271人]


 発表された観客数は満席の約3分の1。サンフレッチェ広島を迎えた11日のリーグ戦と比べても半分以下の数字とあって、埼玉スタジアムには特にバックスタンドに空席が目立った。
「だから駒場でやれって言ったのに。オレ、駒場も好きだしね」
 収容人員が2万人強のかつてのホームスタジアムを引き合いに出して取り囲む報道陣の笑いを誘った浦和レッズのDF田中マルクス闘莉王だったが、ゴール裏を赤く染めた自軍のサポーターには感謝の思いを禁じえなかった。
「観客の少なさをまったく感じさせなかった。相変わらず彼らの力は大きいですよ」
 どのチームも観客動員数に苦しむナビスコカップだが、埼玉スタジアムのメーンスタンドから見て左側のゴール裏の光景だけは変わらない。試合前から大歓声を張り上げ、手拍子を打ち鳴らし、応援歌を斉唱し、相手にブーイングを浴びせ、ときにはスタンドを揺るがすほど飛び跳ねる。
 どこのスタジアムのゴール裏にも共通する要素が並ぶが、レッズサポーターの場合、特筆すべき点がひとつある。それは拍手。惜しいシュート。鮮やかなパス。トリッキーなプレー。ピンチを未然に防ぐ好守。こうしたプレーが対象となるのはもちろんだが、前半10分にはいわゆる「玄人受け」するプレーに対しても惜しみない拍手が送られた。
 最終ラインでボールをもった闘莉王が正確無比なロングパスでサイドチェンジを成功させた瞬間だった。もちろんレッズサポーターだけが目が肥えていると言うつもりはないし、他のチームのサポーターも一瞬で局面を変えるサイドチェンジには拍手を送りたくなるし、実際、送っているはずだ。
 これが単発の拍手なら、悲しいかな、歓声や歌声にかき消されてしまう。しかし、レッズサポーターの場合、ゴール裏に陣取った数千人がいっせいに拍手に切り替え、スタジアム全体に響かせるのだ。選手の耳に届かないはずがない。
 無邪気な笑顔を浮かべたのは闘莉王だ。
「拍手はもちろん嬉しいですよ。(サイドチェンジは)些細なところですけど、見ていてくれるんだと思ったらね。代表でしばらくチームを離れていたけど、ここにきてサイドチェンジの距離感というものがだいぶ戻ってきたしね」
 

 0‐0で迎えた前半23分。再び闘莉王が仕掛けたサイドチェンジが些細なものではなくなった。左のタッチライン際で正確無比な約40mのロングパスを受けたのはMF原口元気。スタジアム中に鳴り響いた拍手が、今度は一瞬にして歓声に変わる。
「ドリブルを始めたら、絶対にいけると思った。ユースのときはいつも感じていたけど、トップに上がってからは初めてです」
 原口が最も得意とする左45度からのカットインを誰も止められず、ペナルティーエリアに侵入した直後にMFマルコス・パウロが倒してしまう。一気に上がるゴール裏のボルテージ。微妙なプレーだったが、相手のファウルをアピールする大歓声に後押しされたかのように佐藤隆治主審はパウロにイエローカードを提示。原口のプレーには拍手が降り注ぎ、ルーキーがもぎ取ったPKを闘莉王が冷静にゴール左に蹴り込んだ。
「ピッチを広く使われて、何回か原口にやられて、そのひとつでPKを取られた」
 試合後の会見で舌をかんだエスパルスの長谷川健太監督はこう続けた。
「アウエーでしたけど絶対に勝つつもりで試合に入ったが、私から見てもどこか消極的だった。何をそんなに恐れているのか、と何度も思ったほど。マイボールになっても迫力も落ち着きもなく、私自身、前半は首をひねるしかなかった」
 前半のボールポゼッションはレッズの75%に対してエスパルスが25%。レベルが拮抗するチーム同士の試合でここまで大差がつくことは珍しい。ましてや、レッズは坪井慶介と鈴木啓太が欠場し、18歳の原口だけでなく高橋峻希、濱田水輝の19歳コンビも先発に名前を連ねていたからなおさらだ。
 前半はエスパルスが攻める先にそこだけ赤く染まったエリアが飛び込んできたこと。エンドが変わり、プレッシャーから解放された後半3分に初めてのチャンスを生かしてエスパルスが追いついたこと。ゴール裏から発せられる熱い声援に導かれるように同15分にFWエジミウソンのゴールでレッズが勝ち越したこと。すべてを強引に結びつけたくなるほどメーンスタンドから見て左側のゴール裏は熱く、一糸乱れぬ団結力でチームを後押ししていた。
 試合後のヒーローインタビューの最後に、闘莉王がゴール裏に向けて叫んだ。
「いつもありがとうございます。声がずっと聞こえていました!」


 発売中の『論スポ』で熱狂的なバルセロニスタであるスポーツライターの金子達仁氏が日本サッカー協会の犬飼基昭会長と対談した際に、昨シーズンに急成長を遂げ、スペイン代表でも主軸となりつつある22歳のDFジェラール・ピケについて「シーズン序盤は下手くそでJリーグでもレギュラーになれないと思った」と苦笑いしながらこう言及している。
「理由のワン・オブ・ゼムとしてお客さんの拍手があるかな、と思います。ピケのサイドチェンジに拍手が上がれば、あんな下手くそな小僧でも上手くなったと思えるじゃないですか。それがのべつ幕なし歌っている、あるいは歌に塗り潰されちゃっているJリーグだとちょっと厳しいのかなと思います」
 レッズにはゴール裏が一体となっての拍手がある。それに乗せられ、自信を膨らませ、相手にとって脅威となる。現在のレッズにおいてその典型的な選手が原口となるだろう。
 PKを獲得したシーンだけでなく、何度となく左サイドから得意のドリブルでゴール前に侵入し、惜しいシュートを放ち、チャンスを作る。試合後の会見でフォルカー・フィンケ監督は原口のプレーに及第点を与えている。
「この数試合は穴に入りかけていて、優れたプレーを見せることができていなかった。開幕直後にはマスコミに次の次のW杯の顔だ、と大きく取り上げられていたので、記者と話すよりはサッカーに集中した方がいいとは言ってきたんだが。いまはいい方向に行っている。どう成長するか、今後が非常に楽しみだ」
 原口自身も「あまり意識しないようにしたときはいい」とか「自分にできることを繰り返そうと思った」と話すなど、キレを取り戻した理由についてはピンときていない。しかし、入団16年目、33歳のチーム最古参でレッズの栄枯盛衰のすべてを知るDF山田暢久は、リーグでナンバーワンと呼ばれて久しいサポーターの存在を挙げた。
「本当に力をくれる。若い選手たちにとっては非常にいい形になっている」
 もちろん、チームにとってマイナスのプレーをしたときには容赦ないブーイングが浴びせられる。昨シーズン終盤に大失速して優勝争いから脱落したとき、罵声に耐え切れずに闘莉王がスタンドに向かって号泣したのは記憶に新しい。
 だからこそ、「一緒に戦っている」という思いは他のチームより強いのだろう。選手とサポーターの間に築かれた理想の関係。闘莉王も「僕たちを育ててくれる」とサポーターには常に感謝の思いを抱いている。第2戦は29日、場所をアウトソーシングスタジアム日本平に移して行われる。闘莉王は「ややこしい戦いになる」と気を引き締めたが、山田はすでに敵地のゴール裏を思い描いていた。
「アウエーの試合でもホームの雰囲気を作ってくれる。本当にやりやすい」
 観客動員的には苦しかったが、その分だけ「サポーターは12番目の選手」であることをあらためて実感させられたレッズの勝利だった。(文=藤江直人)

 

2009年7月16日 12:56|記事URLコメント(1)トラックバック(0)

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コメント(1)

体張ってるのはわかるけど闘莉王怪我多いですよね
怪我をおして出場→怪我悪化の繰り返しのような
だとしても九石のピッチは酷かった・・・

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