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矢野貴章のスーパーゴールが与えた衝撃 by 藤江直人

■J1第18節
横浜F・マリノス(勝ち点21) 1‐1 アルビレックス新潟(勝ち点33)
[7月18日午後7時キックオフ@日産スタジアム/観衆2万2681人]
久しぶりに見たスーパーゴールだった。
両チームともに無得点で迎えた前半24分。自陣でボールをもったアルビレックス新潟のDF千葉和彦と、約40m先にいたFW矢野貴章の目が合う。
矢野「(田中)裕介と(中澤)佑二さんの間のスペースを狙おうと話し合っていた。ホント、千葉がいいボールを出してくれました」
標的は横浜F・マリノスの左サイドバック田中裕介とセンターバック中澤佑二の間のスペース。千葉と目が合った直後に、前線の右サイドにいた矢野はゴール前へ向けてダッシュを開始していた。死角をうまく突いたのか、千葉が蹴ったロングボールに田中が反応したときには、すでに矢野はトップスピードで田中の背後をジャックしていた。
これには田中も、日本代表の中澤も反応できない。ジャンプ一番、胸でボールをトラップしようとする矢野を傍観するしかなかった。しかも、矢野のトラップが絶妙だった。自らは加速していたし、ロングボールそのものも決して弱い弾道ではない。それなのに、空中の難しい体勢で胸でボールの勢いを殺し、着地する地点にちょうどボールを落としたのだ。
矢野「トラップからシュートまでいい形でできました。意外と周りがよく見えていたので、落ち着いてシュートを打てました」
弾むボールを左足で一度コントロールし、相手GKの位置と動きを見極めてから左足を一閃する。7割から8割の力で、コースを正確に狙った一撃が鮮やかにネットを揺らす。千葉が前方にロングボールを送ってからわずか5秒足らず。一連の矢野の動きにはいっさいの無駄もミスもない。文字通りのパーフェクトゴールだった。
現在発売中の『論スポ』でスポーツライターの杉山茂樹氏が矢野についてこう触れている。
「まだレベルは低いけど、ひと皮むけたよいう印象を抱かせるようなプレー、巻誠一郎よりは溜飲を下げさせるプレーが多くなった」
この夜の矢野のゴールを見て、杉山氏の言葉を思い出さずにはいられなかった。1m85、76kgのサイズは直近に招集された日本代表のFW陣では最も大きい。高さに加えて、ゴールシーンでも証明されたようにスピードもテクニックもある。
日本代表の岡田武史監督が最も重視する運動量についても、「僕自身の最大のウリでもありますから」と絶対の自信をもっている。キックオフ時の気温27.6度、湿度77%と過酷なコンディションで行われたF・マリノス戦でも、後半に足が止まってしまったアルビレックス勢の中で最後まで矢野の運動量は落ちなかった。
今シーズンからチームが採用した3トップの右を任されている。無尽蔵のスタミナを見込まれ、鈴木淳監督からは中盤に下がって守備をすることも求められている。
矢野「特に守備のところで動きに慣れるまでは戸惑うこともありましたけど、いまはすごくやりやすい。自分のプレーの幅も広がったと思いますし、前を向いたときには自分のよさをどんどん出していきたいですね」
6月いっぱいでアルビレックスとの契約が切れることに伴い、ヨーロッパのクラブでプレーする可能性を模索した時期もあった。しかし、6月30日に半年間契約を延長することで合意。チームから発表されたリリースには「Jリーグがシーズン中である状況で、チームもリーグ2位という順位にあることを思うと、どうしてもこの時期にチームを去るという決断をすることはできませんでした」と残留の理由が綴られていた。
もうひとつ、やり残した思いもあったはずだ。これまでのシーズン最多ゴール数は07年にマークした7。FWとしてはかなり寂しい数字だと言わざるを得ないし、F・マリノス戦で6ゴールとした今シーズンは自己ベストを大きく更新するチャンスでもある。
矢野「ホント、まだまだです。これからもどんどん積み重ねていかないと」
F・マリノス戦を終えて3位と奮闘するアルビレックスを最低でも来シーズンのACL出場権を獲得できる3位以内に導き、自身も最低でも2けたのゴールをマーク。その上であらためてヨーロッパ挑戦の可能性を求めたいとする矢野の意向もあり、半年間と中途半端な契約延長となったことは容易に想像できる。
岡田監督は昨年5月のキリンカップから4‐2‐3‐1のフォーメーションを採用。特に前線の選手には運動量を求め、全員守備、全員攻撃をチームの基本コンセプトに据えた。
ワントップには玉田圭司が重用されてきたが、所属する名古屋グランパスではカタールのウム・サラルに移籍したダヴィ、新加入のケネディら大型FWの背後で動き回るシャドー的な役割が与えられている。日本代表においても1・5列目的なプレーを好む傾向は顔をのぞかせ、結果として「ノートップ」となる時間帯が決して少なくない。
岡田監督は「みんなで入れ替わりで(前線に)出て行く。そのためには走らざるをえない」とノートップを肯定的にとらえているが、果たしてそうだろうか。アジアではそれなりの結果を残したとはいえ、それでもオーストラリアとはアジア最終予選で2度戦って1分け1敗と結果を残せなかった。
オーストラリアよりもはるかに強い国と対峙する来年でW杯で最低でもグループリーグを突破するためには、数少ないであろうチャンスを確実にものしなければならない。ゴール前では高さも必要になることを考えれば、厳しい言い方になるが、1m73、67kgの玉田のサイズはやはり物足りない。
前出の杉山氏は「ワントップにはFWらしいFWを据えないと」と主張し、その有力候補に矢野を推している。サイズは言うまでもないし、運動量も豊富で、スピードもある。先週は復調気配を見せている高原直泰の復帰の可能性について触れたが、日本代表の現有戦力で考えるならば矢野はワントップとして適任なのではないか。
途中出場が多い代表戦で矢野に与えられるポジションは、4‐2‐3‐1の「3」の右が多い。運動量とスピードは岡田監督にも及第点を与えられているようで、アルビレックスと同じ仕事を求められている。ならば、「1」でスタメンとしてピッチに立ちたい思いはあるのだろうか。
矢野「やりたいというか、やれる自信はあります」
出場試合数の3分の1のゴールを挙げたらストライカーとして認める、という持論をもつ岡田監督を振り向かせるには、F・マリノス戦を含めてJ1通算156試合に出場して29ゴールという矢野の記録はまだ物足りないだろう。しかし、矢野のゴールシーンのリプレーを見れば見るほど、ワントップとして試してみるべきだとの思いも強まってくる。
この夜の日産スタジアムには岡田監督の姿はなかった。視察に訪れていた日本代表の大熊清コーチの目には、数字上の不足を補って余りある潜在能力に導かれた矢野のスーパーゴールがどう映っていたのだろうか。(文=藤江直人/写真=高須力)
2009年7月19日 03:46|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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