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「高温多湿」にスポイルされた名勝負  by 藤江直人


■J1第19節
FC東京(勝ち点32) 0‐0 サンフレッチェ広島(勝ち点27)
[7月25日午後6時キックオフ@味の素スタジアム/観衆2万7846人]


 スーツ姿に着替えたサンフレッチェ広島のキャプテン、FW佐藤寿人が試合後に口にした言葉がすべてだった。
「暑さの問題がないときは、ノーガードの打ち合いになるでしょうね」
 破竹の5連勝中のFC東京に対し、前節でジェフ千葉に4‐1と圧勝して連敗を3で止め、再び上昇気配を漂わせるサンフレッチェ。長短のパスをつなぎ、ボールポゼッションを高め、自らが主導権を握ってゲームを支配するスタイルを標榜する5位と6位の激突は、「攻撃は最大の防御なり」を合言葉に、現時点のJ1で最もスペクタクルな90分間になるはずだった。
 しかし、キックオフの笛が鳴り響いてからしばらくすると、ピッチから違和感が伝わってくる。いつものようにパスをつなぐサンフレッチェだが、敵陣に攻め込むときは最低限の人数で最低限のリスクしか冒さない。逆にFC東京のボールになると、佐藤を除くフィールドプレーヤーの9人がペナルティーエリア付近にまで下がってゴール前に城壁を築いた。
 サンフレッチェのあまりの豹変ぶりに、FC東京の城福浩は珍しく悔しさを露にした。
「あそこまで引かれると、簡単に崩せるチームはまずないでしょう。カウンターから遅攻にうまくスイッチできなかったことは、当たり前ですけど我々の責任。もうひとつの課題を突き付けられました」


 午後6時のキックオフ時の気温が約28度、湿度は74%。ピッチより高い場所にある記者席には暑さを和らげるほどの風が吹き込んできたが、公式記録には「弱風」と記されている。となると、味の素スタジアムのピッチ上は30度を超えた日中の余熱もあり、想像以上に暑かったのだろう。
 佐藤は「僕自身は暑さは苦手じゃない」としながら、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督の下で4年間をかけて創り上げてきたスタイルをあえて封印した理由を明かした。
「いいサッカーをしても勝ち点が取れなければ、それは自滅行為。もうひとつ殻を破るためにも、今日は意図的にこういうサッカーをしようとみんなで意識を統一していた。ちょっと引き過ぎて相手にミドルシュートを打たれすぎた面もあるけど、価値のある勝ち点1が取れたと思っています」
 第15節の京都サンガ戦から喫した3連敗はいずれも同じパターンだった。試合を支配しながら、後半になると蒸し暑さもあって運動量が激減。第17節の浦和レッズ戦では前半6分に佐藤のゴールで先制し、その後も優位に試合を進めながら、後半23、39分の連続失点で涙を飲んだ。
「夏場に入り、開幕からずっと戦ってきた佐藤や柏木(陽介)にも疲労の色が濃い」
 日本の夏を知り尽くしている来日4年目のペトロヴィッチ監督はチーム状況をこう振り返った上で、「東京は連勝中で非常に強いチーム。この厳しい気候の中で素晴らしい戦いを演じた選手たちをほめてあげてください」と狙い通りのスコアレスドローに会見で終始ご機嫌の表情を浮かべていた。


 Jリーグ側から一度は却下されながら、現在もJリーグの秋春制への移行を主張して譲らない日本サッカー協会の犬飼基昭会長の最大の論拠に「夏場のパフォーマンス低下」がある。
 レッズの社長時代から7月と8月の試合内容に不満を抱いていた犬飼会長は、現在発売中の『論スポ』誌上でレッズの選手が夏場の試合後に「ファンに申し訳ないと思うぐらい体が動かない」と吐露していたことを明らかにした上で、「こんな酷い試合内容でファンからお金を取っていて日本のサッカー界に将来はあるのか」と言及している。
 現在、Jリーグは「夏休みはJリーグへ行こう」と銘打った集客キャンペーンを展開しているが、同会長は「そうは言っても来ないと思う」とまで言い切った。
 実際、FC東京とサンフレッチェの一戦は筆者も非常に楽しみにしていたカードであり、正直、後者の戦いぶりには肩透かしの思いを禁じえなかった。前節までのサンフレッチェがホーム、アウエーを問わずにパスサッカーを貫いたことを考えれば、思い描いていたスペクタクルな90分間が「高温多湿」にスポイルされたという思いが時間とともに膨らんでいったのも事実だ。
 戦法を変えたサンフレッチェだが、それでも最終的なボールポゼッションは49%とFC東京とほぼ互角だった。マイボールになると最終ラインを中心にパスを回し、相手を動かして体力を消耗させ、スキあらばロングボールを左右ワイドに展開して仕掛ける。
 ホームの大声援を背にサンフレッチェの倍となる14本のシュートを放ったFC東京の猛攻と相まって、まさに一瞬の油断も許されない試合展開は玄人受けするものでもあった。しかし、両チームのサポーターは別として、例えば決定的な場面すら乏しかったこの試合で初めてJリーグを観戦した人が果たしてリピーターとなるのかどうか。
 犬飼会長の「そうは言っても来ないと思う」という発言の真意がここにある。


 ヨーロッパのように午後8時45分のキックオフとすれば夏場の過酷な気候条件もいくらか緩和されるかみしれない。しかし、女性と子供の数がヨーロッパとは比較にならないほど多いJリーグのスタンド事情を考慮すれば、帰路の安全面の問題も浮上してくる。
 Jクラブが秋春制移行に反対する最大の理由に「寒冷地での冬場の試合開催が困難なこと」が挙げられる。実際、NDソフトスタジアム山形で3月に行われた第2節モンテディオ山形対名古屋グランパスが試合途中から大雪に見舞われ、両チームの選手たちがボールコントロールに四苦八苦。夏場同様にパフォーマンスが低下した。
 こうした点についても、犬飼会長はドイツやオランダのようにウインターブレークを設けたり、寒冷地のスタジアムの暖房対策などに日本協会から資金を提供する私案を練り、日本協会とJリーグの合同検討作業チームにも伝えているという。
 筆者自身、蒸し暑いスタンドでビールを飲みながら観ることと、ピッチの白熱した攻防に常に胸を躍らせることを天秤にかければ後者を、つまり秋春制への移行に賛成票を投じたい。
 しかし、今後は年内いっぱいをかけて検討作業チームが具体的な日程を含めたプランをまとめるとあって、移行するにしても早急な実現は難しい。


 そして、そうこうしている間にもJリーグ特有の「試練の夏」は過酷さを増していく。
 7月12日と18日のリーグ戦の合間の15日にはグランパスとのナビスコカップ準々決勝第1レグも戦ったFC東京の城福監督は言う。ちなみに、サンフレッチェはナビスコカップ予選リーグですでに敗退している。
「前週に7日間で3試合を戦った我々の疲労はそう簡単には回復しない。僕の主観ではなく、客観的に考えてそうでしょう」
 今後は29日にはナビスコカップの準々決勝第2レグで敵地名古屋に乗り込み、休む間もなく8月1日には川崎フロンターレとのいわゆる「多摩川ダービー」が待つ。優勝戦線に踏み止まれるかどうかの大一番だけに、指揮官の言葉にも力がこもる。
「問われるのはチーム力。正直、今日は勝ち点2を失ったと思っているし、非常に悔しい。選手たちもロッカールームでそういう表情を浮かべていた。我々は対戦を終えたばかりの相手ともう一度戦いたい、という試合を増やしていくことが大切なんです。勝点1は不満ですけど、チャンスはシュート数に比例する。その意味では、我々が積み上げてきたことをさらにブレないでやっていきたい」
 5月5日に敵地で0‐2と苦杯をなめたサンフレッチェへのリベンジはならなかったが、再戦を望むのは何も城福監督だけではない。サッカーに最も適した条件下で、佐藤の言葉を借りれば「ノーガードの打ち合い」をやはり見てみたかった。(文=藤江直人)

2009年7月26日 04:21|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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