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「多摩川クラシコ」の明暗を分けたもの by 藤江直人

■J1第20節
川崎フロンターレ(勝ち点36) 2‐1 FC東京(勝ち点32)
[8月1日午後7時キックオフ@等々力陸上競技場/観衆2万1379人]
予定の時間を過ぎても、FC東京の城福浩監督が試合後の公式会見場に姿を現さない。
「納得するまでオレは絶対に会見に出ねえっ!」
舞台裏では、敗戦を受け入れられない指揮官が何度もロスタイムに叩き込まれた決勝点を映像で確認していた。ゴール前へのクロスボールをDF今野泰幸がクリアしたところへ川崎フロンターレのFWジュニーニョがブロック。こぼれダマがMF谷口博之への絶妙のパスになり、ほとんどノーマークの状態から右足を振り抜かれた。
ここで微妙だったのはジュニーニョのハンドではないか、という点だ。左肩でブロックしたように見えるし、腕に当たったようにも見える。しかし、吉田寿光主審がハンドの反則をとらなかった以上は、もはや何を言っても始まらない。
試合終了後には引き揚げてくる審判団に食ってかかるほど激高していた城福監督だったが、約10分間の映像確認でようやく冷静さを取り戻したのか、会見の席では感情を抑えるような口調で7試合ぶりの黒星を振り返った。
「我々にとっては厳しい判定だったと思いますが、これ以上は私が言えることではありませんので、次のステージに行けるように頑張りたいと思います」
多摩川をはさんでホームタウンをかまえる両チームの激突は、J2時代の1999年4月4日から数えて16戦目。試合前における対戦成績は5勝5分け5敗の五分で、激しい攻防の応酬が繰り返されてきた歴史もあって、07年からは対決意識を盛り上げる意味で「多摩川クラシコ」と銘打たれた。
今シーズンは第13節で味の素スタジアムにて激突し、フロンターレが0‐2のビハインドから一挙に3点を奪って大逆転勝利を収めている。
しかし、ここで注目したいのは黒星を喫した後のFC東京だ。
W杯アジア最終予選による中断をはさみ、6月20日に再開された第14節の柏レイソル戦から破竹の5連勝。その間、喫した失点はわずかに1。前節のサンフレッチェ広島戦こそスコアレスドローを厭わない相手の術中にはまって連勝がストップしたが、無敗はキープした。現在のJ1で最も波に乗っているチームだった。
城福監督は第11節の京都サンガ戦を境に生まれ変わったことを強調する。
「ウチは第10節までの最多失点チームですが、第11節以降は最少失点のチームとなることを目指していますから」
開幕から10試合が12得点に対して19失点を喫し、4勝6敗と大きく出遅れた。しかし、サンガ戦をスコアレスドローで乗り切ると、以後の8試合はわずか4失点。だからと言って、守って、守って、守ってからカウンターというスタイルではなく、長短のパスをつないで常に主導権を握る攻撃的なスタイルで16得点を奪っている。
「堅守からカウンターというのはFC東京の昔からのスタイルですが、それでは我々が目指す上のステージにはたどりつけない。監督に就任した昨シーズンから人もボールも動くポゼッションサッカーという鎧を見につけないといけないと選手たちには言ってきたし、試行錯誤をしながらですが、そういう指導をしてきたんです」
使い古された言葉になるが、まさに「攻撃は最大の防御なり」が奏功したからこそ失点が激減した。だからこそ、「生まれ変わった」以降で唯一の黒星をつけられ、4失点のうち3点を奪われている因縁のフロンターレに勝利を収めてこそ、目指してきたスタイルが完成度を高め、もうひとつ上のステージに到達できたと確信できる。
城福監督以下、チームが今シーズン2度目の「多摩川クラシコ」にこだわった理由がそこにあった。
実際、キックオフから主導権を握ったのは敵地に乗り込んできたFC東京だった。
ボールポゼッションは60%前後をキープ。ボランチと最終ラインを中心にパスを回し、ロングボールを前線の平山相太とカボレの2トップに預けて2列目が連動するときもあれば、両サイドのスキを突いて仕掛けるときもある。
前半37分には左サイドをドリブルで突破した日本代表DF長友佑都がゴール前へ絶妙のグランダーのクロスを入れる。そこへ飛び込んできたのはMF石川直宏。城福監督が掲げるスタイルのもと、右サイドの「槍」的な存在からオールラウンドなアタッカーに変貌を遂げた28歳の得点ランクトップに並ぶ11点目で先制したFC東京が優勢で試合を折り返した。
しかし、フロンターレはFC東京にはない「武器」を隠し持っていた。
後半8分、山岸智に代えてFWレナチーニョが投入されると一気にスイッチが入る。フロンターレの最大のウリは電光石火のカウンター。そのわずか3分後。自陣のゴール前で相手ボールをカットすると、DF森勇介、レナチーニョ、森とつないで最後はジュニーニョがダイビングヘッド。5秒足らずのうちに同点に追いついたのだ。
選手交代で蘇生したフロンターレ。一方のFC東京は動かない。いや、動けないと表現し方が妥当だったか。城福監督は言う。
「バックアップの選手が先発の選手以上の状態で試合に入っていけるか。決して彼らのせいではないが、途中出場の選手がこのチームのスイッチになりえたのかどうか。そうはならなかった事実を受け止めるし、サブの選手の底上げという課題を突き付けられたと思っている」
後半25分に高卒ルーキーのMF田邉草民が投入されたのを皮切りに、32分にMF鈴木達也、37分にはFW赤嶺真吾がピッチに送り出されたが、フロンターレのレナチーニョのように試合の流れを変えるまでには至らない。
逆に圧力を増すフロンターレの前に磨いてきたはずのパスサッカーも乱れ、ボールを失ってはカウンターを許す。いわゆる「行ったり来たり」の展開となれば、強みを発揮するのはホームの大声援を受けるフロンターレ。耐えに耐えてきたFC東京の守備網が、4分を数えたロスタイムの最後でついに決壊してしまった。
「最後まで自分たちのリズムで、怖がらずにやればよかった。チャレンジしなければゴールは奪えないのに、単調になって狙い通りにできなかった。フロンターレはACLなども経験して試合巧者の部分があった。ウチはまだ学ばなきゃいけない部分がたくさんある。チームとしての成長がまた足りない、ということです」
石川はさばさばとした表情で黒星を受け止めた。
第11節で「生まれ変わった」以降、FC東京はほぼ不動の11人で先発を固めてきた。新しいスタイルを熟成させる上では仕方ない部分もあるが、レギュラーには確実に疲労が蓄積し、サブの底上げという課題も快進撃というスポットライトの影に隠されてしまった。
それでも、大きな手応えはある。キャプテンのMF羽生直剛は言う。
「前半のサッカーこそウチが目指しているスタイル。疲れたらボールのポゼッションを高めてちょっと休めばいいだけ。完敗したという思いはない。勝ち点3を取るという手段を成功させたのがフロンターレ。それがすべてです」
同点となった場面は、ペナルティーエリア付近で平山が羽生に出したスルーパスがわずかに合わず、そのこぼれダマを拾われたのが発端だった。
最後の部分で決め切れない、詰めが甘いという反省はもちろんあるが、羽生は敵陣のアタッキングサードまでボールを運ぶ過程を重視したいと力を込める。
「ようやくだけど、運び方というのがわかってきた。攻撃をビルドアップしていく中でミスをしたり、相手から何度も『怖くない』と言われてきたけど、いまは手応えというかボールを運ぶ楽しさというものがある。やっとここまできた。あとは勝ち切るゲームにすること。それができなければ上に行けない」
試行錯誤を繰り返し、特に黒星が先行した序盤の10試合の苦しさがあるからいまがある、と言いたいのだろう。前回の「多摩川クラシコ」で味わった悔しさを糧にチームタイ記録の5連勝が始まったことを考えれば、今回の逆転負けも「授業料」とすればいい。
何よりもFC東京の誰もが目指すスタイルにはまだまだ行き着いていないと思っている。
同時間帯に行われた試合で首位を独走する鹿島アントラーズがサンフレッチェに負けた。
リーグ戦では3月14日以来となる黒星。暫定2位に浮上したフロンターレとの勝ち点差はまだ8もあるが、3日前のナビスコカップ準々決勝でも延長戦の末にフロンターレに敗れていることから見ても、失速気味であることは否めない。
リーグ戦で5試合ぶりとなる白星を挙げ、伝家の宝刀カウンターを武器に打たれたら倍にして打ち返す「川崎劇場」を再演させたフロンターレ。「この負けから目をそむけることはできない」と城福監督を筆頭に捲土重来を期すFC東京。両雄とアントラーズの直接対決は、それぞれ9月12日と8月23日に組まれている。
もうドラマはないのではないか、と思われていた今シーズンのJ1戦線が面白くなってきそうな予感がわずかながら漂ってきた。(文=藤江直人/写真=高須力)
2009年8月 2日 14:28|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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