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湘南ベルマーレを救った反町チルドレン by 藤江直人
■J2第32節
湘南ベルマーレ(勝ち点63) 1‐0 水戸ホーリーホック(勝ち点55)
[8月5日午後7時キックオフ@平塚競技場/観衆5510人]
春先にまかれた種が芽を出し、すくすくと育ち、つぼみを膨らませ、大きな花を咲かせてチーム最大の危機を救った。泥沼の4連敗を喫して一気に4位へ転落した湘南ベルマーレを救ったのは、反町康治監督の秘蔵っ子、DF島村毅だった。
前半35分に退場者を出し、10人で戦う水戸ホーリーホックを攻めあぐねて迎えた後半32分だった。左サイドの深い位置でボールを持ったDF村松大輔が逆サイドに長いクロスを入れる。反応したのは直前のCKでゴール前に残っていた島村。1m83の長身を生かし、ジャンプ一番、マーカーに競り勝つ。折り返されたボールをGKがキャッチしようとしたその眼前で、飛び込んできたDFジャーンが頭でコースを変えてゴールに流し込んだ。
「ただいまのゴールはジャ、ジャ、ジャ、ジャーン」
MCのコールに乗って派手なガッツポーズでゴールの喜びを表現するヒーローに、狂喜乱舞して抱きつくチームメートたち。漂いはじめた引き分けのムードが一掃されたピッチの上では、今シーズン2度目の先発を果たした一戦で決勝点をアシストした島村が控えめな笑顔を浮かべていた。
「大輔(村松)と目が合ったので、ボールを出してくれると思った。ちょっと(ボールが)ずれたけど、ジャーンさんが飛び込んでくるのが見えたので何としても折り返そうと思って。ジャーンさんがよく決めてくれました」
試合後のフラッシュインタビューもどことなく遠慮がち。マスコミへの対応に緊張を隠せない入団2年目の23歳へ、先輩の選手たちがさかんに茶々を入れては笑いを誘っていた。
前節でカターレ富山に0‐1で苦杯をなめてから中2日。敵地への往復。雨でぬかるんだ重馬場のピッチで蓄積した疲労。4連敗で喫した精神的なショック。対するホーリーホックは1引き分けをはさんで6連勝中で、勝ち点で5差の5位に肉迫していた。
すべての状況を勘案した反町監督が、今シーズン初めて動いた。
「春先からやってきたことをちょっと後退させるやり方でしたけど、いまのチームに必要なのは勝つことと、失いかけた自信を取り戻すことというスタンスで決めました」
4‐3‐3から3‐4‐3への、つまり4バックから3バックへの緊急チェンジ。合計で22ゴールをマークしているホーリーホックの2トップ、荒田智之と高崎寛之への対策であり、特に浦和レッズからレンタル移籍中の後者には1m88の長身であることも踏まえて「いますぐレッズに戻っても試合に出られる」と警戒マークをつけていた。
ならば、3バックの配置をどうするべきか。
ジャーン、村松と不動の2人に続く人選で、指揮官は迷うことなく早稲田大学から入団して2年目の島村を指名した。
「相手のストロングポイントを消し、自分たちのよさも出しつつ勝ち点3を取るためのベストウエイを探す中でこのメンバーになりました。シマ(島村)はふてぶてしい性格で無骨なところがある。肉体的にもフレッシュですし、彼のようなキャラがいまのチームに必要でした」
早稲田実業を通じてFW一筋だった島村は、昨シーズン途中から長身を見込まれてDFにもトライ。反町監督を迎えた今シーズンは登録をDFに正式に変更していたが、これまでに4度与えられた出場機会はすべてFWとしてだった。
プロ初先発を果たした6月14日のFC岐阜戦は欠場したFW田原豊の代役。他の3度も試合終盤のパワープレー要員だったが、反町監督は確固たる信頼のもとに背番号30をピッチに送り出していた。
3月8日のJ2開幕以来、ベルマーレは公式戦の翌日に必ずといっていいほどの頻度で練習試合を組んできた。相手はJクラブのときもあるし、JFLや関東社会人リーグ、大学生のときもある。
「公式戦を合わせれば、ウチはシーズンで100試合以上をこなす予定ですから」
年間のビジョンを語る反町監督は、練習試合の目的をこう説明する。
「長いシーズン、必ず選手全員に(公式戦に)出場するチャンスが巡ってくる。そのときに最大限の力を発揮できるように、100%信頼してピッチに送り出せるように、常に自分の近くに置いておきたかった。これが勝ち点3を取るための、遠いようで近い道なんです」
反町監督の視線と期待を感じながら、春先からの練習試合で必死に経験を積んできた選手の一人が島村だった。
「常にアピールする場を与えてくれて、そこで頑張っている選手には必ずチャンスをくれる監督ですから。自分もFWとしてプロの壁というか、未熟な部分を感じていた。今シーズンからDF登録に変わって、まずはFWとして試合に出場するチャンスをもらっていたけど、パワープレーでも何でも必要とされているのは嬉しかった。それでもDFでレギュラーを獲りたいという思いはいまも変わらない。やっとスタートラインに立てたという感じです」
島村だけではない。今シーズン3度目の先発で攻守にわたって中盤のダイナモとなった24歳のMF永田亮太もいれば、決勝点が入る直前に投入された21歳のMF猪狩佑貴は6月21日のコンサドーレ札幌戦の終了間際にプロ初ゴールとなる値千金の逆転弾を叩き込んでいる。
彼らすべてが公式戦翌日の練習試合で経験を積み、アピールを重ね、チャンスをうかがってきたサブメンバー。言うなれば「反町チルドレン」となるのだろうか。
「そう呼ばれれば、最高ですね」
先発が決まった前日には茶髪を黒に染め直し、より高く見せようとツンと尖がらせて気合いを入れた。本職の守備でも体を張って高崎を封じた島村が、ようやく笑顔を輝かせた。
4分を数えた後半ロスタイムにはGKも攻撃参加した10人の相手の迫力に押し込まれる場面もあっただけに、試合終了のホイッスルが鳴り響くと反町監督は左ひざをピッチに落とし、5試合ぶりの勝利の味をかみしめた。
「非常に厳しいゲームでした。飯も喉を通らず、ない頭を使って、短い時間の中で準備してきた成果が出たと思います」
どこまでが本音かはわからないが、これだけは言える。
プライドを捨て、開幕から掲げてきた理想も捨て、勝ち点3をもぎ獲ることだけにこだわった90分間。その目的を成就させ、さらには手塩にかけて育ててきた秘蔵っ子たちが躍動したのだから嬉しくないはずがない。
「感傷に浸る場面ではないので。シーズンはまだ19試合も残っていますから」
劇的な勝利でヴァンフォーレ甲府を総得点で上回って2位に浮上した。もちろん、この時期の順位には一喜一憂しない。再び中3日でホームにサガン鳥栖を迎える9日の次節は、前半終了間際に負傷退場した田原の出場が微妙だ。
指揮官は「8月は無理でしょう」と長期離脱を覚悟した上で「次はまた違ったやり方になると思う」とメンバーの再変更を示唆した。
その場合、3トップの中央に配置されるのはホーリーホック戦で途中出場した阿部吉朗か。あるいは自信をつけた島村の緊急配備か。異例ともいえるDFとFWの二刀流にも、さらに大きな花を咲かせようと後者は前向きだ。
「FWの経験を生かした守備ができればいいとずっと思ってきたし、相手FWのいい面もどんどん盗んでいきたい。いまはホントに楽しいし、充実感がある」
連敗ストップから一夜明けた6日には指揮官の母校・慶応大との練習試合が組まれた。J1に自動昇格できる3位以内を目指す戦いの決着は12月第1週。さらなるヤマが訪れることを見越し、そのときにチームに必要不可欠な存在となるべく、島村や永田に続けとばかりに「反町チルドレン」のチャレンジが続く。(文=藤江直人)
2009年8月 6日 16:06|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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