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日本代表の大逆転勝利の価値 by 藤江直人
■サッカー国際親善試合
日本代表 4‐3(前半0‐1) ガーナ代表
[9月9日現地時間正午キックオフ@オランダ・ユトレヒト]
ガーナの選手の足が明らかに止まっていた。W杯ドイツ大会でベスト16に進んだアフリカの雄の後半残り20分間の戦いぶりは、まるでオランダ戦の後半における日本を見ているかのようだった。親善試合ということで、選手も後半開始ともに一挙に4人が入れ替えられていた。
無理もない。彼らは3日前に母国でスーダンとのW杯アフリカ最終予選を戦い、2‐0の勝利とともに南アフリカ大会切符を獲得。翌日に空路でオランダ入りしている。時差ぼけこそないものの、心身に蓄積された疲労を抱えた上での中2日の試合は相当に過酷だったはずだ。
しかし、そうしたアドバンテージを差し引いても評価できる日本代表の逆転勝利だった。後半33分からの5分間で挙げた電光石火の3ゴールも確かに素晴らしかったが、何よりも称えたいのはミスを繰り返しても決して下を向かなかった「闘う姿勢」だ。
その象徴が左サイドバックの長友佑都となる。
前半31分にFWギャンに決められたPKは、CK時の競り合いにおいて長友が犯したハンドで献上したものだった。
体のサイズやフィジカルで劣る日本人選手は、無意識のうちにより強く、より高く、より速くプレーしようとして手を振り上げて勢いをつけてしまう。国際試合の舞台でたびたび繰り返されてきた苦い教訓をまたも生かせなかったことになるが、その後の長友のプレーには鬼気迫るものがあった。
左サイドを完全に自らの統治下に置き、これでもか、これでもかと何度もオーバーラップをかける。中学時代にサッカー部と並立して駅伝部にも所属したことで培われた無尽蔵のスタミナに迫力がプラスされれば、まさに鬼に金棒だ。
「喧嘩してでもガンガンと行くところが自分の持ち味ですから」
こう公言してはばからない男が、後半33分の1点差に迫るFW玉田圭司のゴール、38分のMF稲本潤一の勝ち越しゴールをアシストする。怒涛ゴールラッシュに霞んでしまったが、玉田のゴールの直後には自ら左サイドからゴール前にまで切れ込んで右足でシュートを一閃。CKを獲得した場面はその後の逆転を予感させるものがあった。
このとき、相手DFに詰め寄られていた長友の右側にはフリーの味方が3人もいた。これまでの日本代表のパターンなら十中八九パス。迷うことなくシュートを選択した長友の姿からは、「自分のミスは自分で帳消しにする」という強烈な意思がありありと伝わってきた。
いわゆる欧米で主流の加点主義。これまでの取材で日本の決定力不足は教育過程における減点主義が遠因にあると何度も聞かされてきただけに、長友のプレーには胸のすく思いを感じてしまった。この強引なまでのシュートが稲本へのアシストの布石になったことは言うまでもない。
もちろん、長友だけではない。
PKによる先制点は、MF中村俊輔が中盤で不用意にボールを失ってカウンターを仕掛けられて、かろうじてCKに逃れた直後に与えていた。
その後の俊輔は貪欲にミドルシュートを打ち続けて味方を鼓舞し、その効果もあって、後半4分にはシュートブロックにくる相手を引き付けてからのスルーパスで攻撃参加したDF田中マルクス闘莉王の決定的なシュートを導いた。
FW岡崎慎司は屈強なガーナ守備陣の前に何度も跳ね返され、無残にも芝生の上に転がされても愚直なチャレンジを繰り返し、後半34分には同点ゴールを突き刺した。
「きつかった。ついていけないくらい速いし、抜いてもすぐ追いつかれる。でも、一発狙ってやろうと思っていました」
オフサイドぎりぎりのタイミングで最終ラインの背後に抜け出し、稲本のピンポイントクロスをヘッドで流し込んだ一撃はこの男の真骨頂。そう言えば、北京五輪を指揮した反町康治監督が岡崎についてこう言っていたことを思い出す。
「手を抜かないんじゃなくて、手の抜き方を知らない選手」
俊輔らと同じ欧州組でありながら招集されるだけでベンチウォーマーの状態が続いていた稲本、先発をFW前田遼一に譲った玉田のプレーにも意地とプライドがほとばしっていた。
ギャンの身体能力に置き去りにされる屈辱的な形で、後半2分に2点目を許してしまったキャプテンのDF中澤佑二は体を張ったプレーで4点目を阻止している。
3失点は決してほめられたものではない。しかし、フィジカルが落ちる後半をメンタルの強さでカバーした闘いぶりに岡田武史監督もご満悦だった。
「ハーフタイムで『ここで崩れるのか、持ちこたえられるか』と話したが、選手は最後までめげずに戦ってくれた。結果も出たし、点も取れたので、遠征のいい締めくくりができた」
オランダ戦では後半途中まで試合を優勢に進めながら「逃げのパス」が目立っていた。ボールポゼッションを高めることがゴールへの「手段」ではなく試合の「目的」になっている感すらあり、それは岡田ジャパンの最大の悪癖とも言えた。
だからこそ、後半8分に2点ビハインドからの反撃の狼煙をあげるゴールを奪ったMF中村憲剛が胸を張る。
「勝って(日本に)帰ろう、とみんなも言っていた。ガーナは速くて強いので、コンタクトせずにワンタッチ、ツータッチでボールを回せばいけると思っていた」
もちろん、親善試合である以上は内容も問われてくる。勝った、勝ったと喜んでばかりはいられないのも事実だ。
2点目と3点目は押し込みながら一発のロングボールを最終ラインの裏に蹴り込まれ、相手FWの速さに屈した。来年の本大会では6か国も出場するアフリカ勢と1次リーグで同組になる確率が極めて高い。同じパターンで失点しないための対策が必要であることは言うまでもない。
前半は前田、憲剛、俊輔が相手ゴール前で決定的な場面を迎えたが、シュートは枠にすら飛ばなかった。18分には岡崎が思い切ってニアサイドを狙ったが相手GKがセーブ。一連の場面を見ていると、いやがおうでも「決定力不足」というお決まりの言葉が浮かんでくる。
さらには、層の薄さが懸念されるセンターバック。約1年半ぶりに招集された岩政大樹がオランダでの練習中に負傷したこともあり、今回も2試合を通じて中澤と闘莉王の2人が先発フル出場せざるを得なかった。
そして、後半25分に俊輔との交代でピッチに入ったMF本田圭佑の存在だ。
俊輔がオランダ戦で左足首を痛めていた事情もあった。しかし、本田が途中出場したオランダ戦で見せた精彩を欠くプレーを俊輔に暗に批判されながら、十八番のビッグマウスを速射砲のごとく連発。いい意味でも悪い意味でも注目を集めていた23歳に対して、俊輔と共存する2度目のチャンスは、結局、与えられなかった。
不動のボランチである遠藤保仁は、来年の南アフリカ大会へ「小さくてもいいから決して破けない頑丈な輪にしたい」と結束力を最大の武器にしたいと力を込める。そこには、中田英寿という存在が最終的にはチームにマイナスをもたらしたW杯ドイツ大会を反面教師としたい思いがある。
その意味で、オランダリーグで確固たる結果を残す「王様レフティー」は果たして日本代表の戦力をアップさせるのか。あるいは劇薬と化して育まれてきた輪を破裂させるのか。結論は10月以降の代表戦に持ち越された。
もちろん、スコットランド、トーゴと日本国内で対戦する10月の親善試合に、俊輔を唯一無二の大黒柱に据える岡田監督が本田を再招集すればの話だが。
2009年9月 9日 23:21|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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