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横浜ベイスターズ/怪物左腕指名を断念させた筒香嘉智の可能性 by 藤江直人

 シナリオ通りの単独指名だった。花巻東高の怪物サウスポー、菊池雄星に6球団の1位指名が重複した今年のプロ野球ドラフト会議で、超高校級スラッガーの呼び声が高い横浜高の筒香嘉智内野手が地元横浜ベイスターズから1位指名を受けた。
 最大で9球団が菊池を1位指名するとも予測された今年のドラフト会議。外れ1位でも重複した場合はくじ引きとなるだけに、会議当日の土壇場になって福岡ソフトバンクホークス、オリックス・バッファローズ、千葉ロッテマリーンズが菊池の1位指名回避に踏み切ったが、ベイスターズだけは早い段階から菊池ではなく筒香の1位指名を決めていた。
 今シーズンのチーム防御率がセ・リーグでワーストの4.36。2ケタ勝利を挙げた投手も35歳のベテラン、三浦大輔ただ一人で、その三浦の成績も11勝11敗。ファームを含めても有望株がほとんどいないチームの状況を考えれば、補強のポイントは投手以外になかった。実際、今回のドラフトも2位から5位まではすべて投手を指名している。
 それでも、数年後のエースとなる逸材を獲得できる可能性を捨ててまで期待をかけたくなる魅力が筒香にはあったということになる。地元の横浜高ということも「地元の生え抜きスター選手を育てる」という方針に一致していた。
 その横浜高で野球部部長を務めて20年になる小倉清一郎氏は、筒香をこう評価している。
「高校時代の中田翔や大田泰示よりもはるかに力は上ですよ」


 筒香の高校通算本塁打数は69本。大田(現読売ジャイアンツ)の65本は抜いたものの、歴代1位となる中田(現北海道日本ハムファイターズ)の87本には遠く及ばない。
 2年の秋に椎間板ヘルニアを患って約2か月ほど戦列を離れたことも中田に届かなかった原因のひとつだが、技術的な部分で筒香の打撃を大きく変えたある「事件」が今年5月の九州への招待試合で起こっていた。
「13打席でヒットは1本だけ。あとは大半がどん詰まりの外野フライ。アイツにはこう言いました。『プロで一番恥ずかしいのが打球を詰まらせること。お前は簡単に詰まらせる。何を考えているんだ』とね。アドバイスなんてとんでもない。それこそボロカスに言ってやりました(笑)」
 小倉部長によれば、筒香のスイングには始動時にバットのヘッドが内側に入り、体の重心が沈む悪癖が染み付いていたという。プロ志望の筒香に対してあえて「プロ」という言葉を使ったことも17歳の少年を刺激した。恰幅のいい高校球界の名物部長から落とされたカミナリを契機に、必死に自分自身の打撃を見つめ直したのだろう。宮崎遠征後から夏の神奈川県大会準々決勝で横浜隼人高に敗退するまでの約2か月で、筒香は20発以上の本塁打を量産している。
 その結果が69本塁打。小倉部長はこう豪語する。
「アイツがホンモノになったのは今年の5月からです。もっと早く目覚めていれば、それこそ100本を打っていますよ」
 打率5割2分6厘、3本塁打、当時の大会記録を塗り替える14打点と大爆発した2年夏の甲子園も、小倉部長の言葉を借りれば天性の才能だけで打っていたことになる。1m83、85kgと体のサイズも十分。村田修一、内川聖一、吉村裕基と中軸に右打者が多いことを考えれば、確かに左の筒香の加入は魅力的だ。


 松坂大輔(現ボストン・レッドソックス)に憧れて和歌山から横浜高の門を叩いた筒香も、ベイスターズの1位指名を受けて「地元だし、好きなチーム。活躍してお世話になった人に恩返ししたい」と早くもプロ選手としての自分自身を思い描いている。
 ならば、肝心の可能性はどうなのだろうか。
 ベイスターズ側は来年で30歳になる主砲・村田の後を継げる存在として期待を寄せている。その村田が来シーズン中にFA権を取得するため、流出という万が一の事態に備える意味でも生え抜きの長距離打者が必要だった裏事情もある。
 しかし、中田は2年間、大田は1年間のプロ生活で一軍で放った本塁打はゼロ。高校通算本塁打で歴代2位の86本を放っている大島裕行(埼玉西武ライオンズ)に至っては10年目の今シーズンは一軍試合出場ゼロとなかなか殻を破れない。
「プロに送り出すのなら、ピッチャーを育てるのが一番楽ですよ」
 過去に松坂、涌井秀章(西武)、成瀬善久(ロッテ)らをプロに輩出してきた小倉部長はこう笑い飛ばしながら、愛弟子の将来をこう予測する。
「まず2年間はファームで鍛えないとダメでしょう。その間にいかにプロのスピードと変化球のキレにタイミングを合わせることができるか。そして、いかに平常心でプレーできるようになれるかですね。高校野球の予選でも、ちょっとお客さんが入ると緊張感で筋肉が硬直するのか、スイングの始動が0.1秒から0.2秒遅れることが多かった。松坂や涌井なんかは、高校生の時から『オレのピッチングを見てください』という感じで投げていたからね」
 横浜高の部長を含めてアマチュアでの指導歴が長い65歳の小倉部長にとって、戦後の高校生で歴代ナンバーワンの打者は「誰が何と言おうと清原」だという。
「いまでも清原の右に出る選手はいないでしょう。ただ、筒香も10年に一人出るか、出ないかの選手。テクニックはまだまだ未熟ですが、パワーとバットのヘッドスピードの速さ、ボールを遠くに飛ばす力は抜きん出ている。清原に近づける可能性は十分にありますよ」
 今夏の神奈川県大会には日本球団だけでなく、メジャーのクリーブランド・インディアンスやシアトル・マリナーズの外国人スカウトもネット裏で目を光らせていた。その誰もが絶賛したのが、小倉部長が指摘する「バットのヘッドスピードの速さ」だった。
 筒香の69本塁打の中には、花巻東高との練習試合で菊池から放った特大の一発が含まれている。なるほど、素材は超一級だ。あとはベイスターズがしっかりと育成できるかどうか。
 優勝したジャイアンツから離されること実に40ゲーム差以上。クライマックスシリーズに進出できる3位争いにもまったく縁がないダントツの最下位に沈んだベイスターズに、来シーズンは久々にファンの心を躍らせてくれる超新星が加入する。

2009年10月30日 02:16|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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