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揺らぐクラブ経営/Jリーグに未来はあるのか?  by 藤江直人

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 予定されていた会見開始時刻より遅れること実に2時間半。その間、閉ざされた扉の向こう側ではただならぬ事態が起こっていることが容易に察しがついた。
 17日に東京・文京区のJFAハウスで行われたJリーグ理事会。東京ヴェルディのJリーグ退会問題がクローズアップされた話し合いだったが、午後7時から記者会見に臨んだ鬼武健二チェアマン(写真)はヴェルディの案件を上回る衝撃度を伴った問題を明らかにした。
 すでにJ2への降格が決まっている大分トリニータがJリーグ側に公式試合安定開催基金からの貸し付けを申請する件はこれまでにも報道されていたが、この理事会でその額を審議。結果として今月末までに3億5000万円、来年1月までにさらに2億5000万円と合計で6億円もの巨額融資を行うことが決まった。
 一部では2億円と報道されていた大分側の希望額は、実は明記されていなかった。再建計画すらまとまっていない状況にあるためで、Jリーグ側は常務経験者を急きょ大分に派遣。経営内容を精査した結果、今月末が期限のつなぎ融資の返済金2億円、人件費1億5000万円がなければ残り2試合の公式戦が開催不能と判断された。つまりは倒産寸前だったわけだ。
鬼武チェアマン「大分トリニータは存続が危ぶまれるほどの深刻な経営危機にある。破綻に近いと言っても過言ではない。再建途上の会社としてあってはならない経営が行われていた」
 今年1月から急激に経営が悪化した大分は借入金を繰り返す自転車操業で窮状をしのいできた。そこへ違約金を支払ってのシャムスカ前監督の解任、ポポビッチ新監督の招へい、新外国人フェルナンジーニョの獲得が重なり、成績低迷に伴って観客動員も激減。Jリーグ側に経営状態が極めて深刻であることを報告したのは10月になってからだった。
 現時点で把握されている大分の累積損失は約11億円、債務超過は約5億6000万円で、来年1月末時点の借入金の合計は約12億円に達するという。Jリーグ側は3億5000万円に加えてさらに同様の出費がかさむと判断し、最大で6億円を融資することを決定。公式試合安定開催基金の残高が約10億円だから実に60パーセント近くを割くことになるだけに、Jリーグ側も経営体制の刷新を含めた厳しい姿勢を見せた。
鬼武チェアマン「このような大きな金額を使用するに至ったことは非常に残念である。大分トリニータ、大分県、そして地元の皆様にはこのことを十分に認識していただきたい。行政を含め、県民や地元経済界から再建へ向けた十分な支援をいただけることが(融資の)条件となる。抜本的な経営再建計画を策定し、遂行してもらうために経営体制の刷新も必要となる」


 もっとも、Jリーグ側にも問われる責任はある。鬼武チェアマンは「私には経営を監視する義務がある」と話したが、ならばなぜもっと早く「あってはならない」と斬って捨てた借入金による自転車操業をを含めた大分の経営の悪化を把握できなかったのか。何のためにJリーグは経営諮問委員会なる組織を擁しているのだろうか。
 東京ヴェルディに対しては、日本テレビからほぼ全株式を譲り受けた持ち株会社の東京ヴェルディホールディングス(VHD)が提出した来年の事業計画のうち、5億4000万円のスポンサー料収入が理事会で承認されない限りJリーグからの退会を命じる異例の厳しい処分を設けた。
 しかし、大分に対しては融資を返済しない限りJ1には再昇格できないという従来の規定をあてはめただけで、鬼武チェアマンは「現時点で返済期限を設けるわけにはいかない。もちろん、長期の借り入れになることも許されない」と玉虫色の発言に終始した。同じく公式試合安定開催基金から5000万円を借り入れているJ2のFC岐阜に対しても、増資の未達などを理由に今月末の返済期限が来年7月30日まで延長されることが理事会で決まった。
 東京ヴェルディと大分トリニータおよびFC岐阜を隔てる境界線は何なのか。それはJリーグのトップの次の言葉から推察できる。
鬼武チェアマン「Jリーグが今まで歩んできた百年構想は、間違いなく地域に根差した考え方となっている。大分にしても県リーグからスタートしてきた長い道のりの中で地元に密着し、愛されるクラブとなった。県からも『県民にとっての宝物であり、なくすわけにはいかない』と言われている。そんなクラブを潰すわけにはいかないし、潰したくない。岐阜も天皇杯でベスト8に入っているし、将来性を感じると言ったら言い過ぎかもしれないが、小さなクラブにはぜひとも成長してほしいと思っている」
 一方、同じ理事会でスポンサー料の額と内容とが承認され、来シーズンもJ2で戦うことが決まった東京ヴェルディはどうか。
 Jリーグ創成期から当時ホームタウンだった川崎市と距離を置き、「全国区の人気があるから」と強引に東京移転を図ってJリーグ側と軋轢を起こしたこともある。念願の東京移転を果たしても地元密着とは到底かけ離れた上から目線の経営姿勢が続き、後発のFC東京に瞬く間に大差をつけられてしまったのが現状だ。
 だからというわけではないだろうが、大分トリニータやFC岐阜のように地元密着のJリーグ百年構想を必死に具現化しようとしているクラブへの「情」にも似た思いが鬼武チェアマンの言葉から伝わってくる。さらには、鬼武チェアマンはVHD自体に経営実績がないことから、今後も予算管理団体としてJリーグの監視下に置くとした上でこう注文をつけている。
鬼武チェアマン「来シーズンを戦う基盤が整ったというだけで、これで磐石かと言うとそうでもない。まだまだイバラの道が続く。いま以上の努力を期待している」
 しかし、努力に関して具体的な方策を問われると、大分や岐阜同様に「地元自治体や経済界と一体になって」という理想に基づいた文言が繰り返された。
 東京ヴェルディの新経営陣はすでにチーム所在地の稲城市とその周囲の立川、日野、多摩の4自治体との連携を密にしていくアクションを起こしているが、未曾有の不景気と言われて久しいこの時代。地方に行けば行くほど経済が疲弊し、その蓄積された怒りが先の総選挙における自民党から民主党への政権交代につながったことはまだ記憶に新しい。
 各Jクラブの地元だけの力ではおのずと限界が訪れる。自治体からの出資も然り、だ。今こそJリーグ本体が発想を転換させる時期を迎えているとも言える。


 鬼武チェアマンは「フットボールと経営の双方に精通している人材が必要」と現時点のJクラブ経営における問題点を指摘。現在ライセンスを発給中のリーグ公認ゼネラルマネジャーの就任をリーグ参加の条件とする「クラブライセンス制度」を導入を早めたいとする私見を語ったが、人材の育成には長い時間を要する。こうした中・長期的な対策よりも短期的で即効性のある対策もあるはずだ。
 例えばチームのスポンサーの件。大分のオフィシャルスポンサーは05年6月からアミューズメント系総合企業の「マルハン」がついていたが、Jリーグが定める「スポンサー自粛カテゴリー」のひとつにある「本体もしくは傘下企業がパチンコホールを経営している場合」に抵触。年間数億円ものスポンサー料を拠出しながらユニホームの胸の部分へのロゴを入れることが許されず、今年9月に広告対価が伴わないことを理由に撤退している。
 この一件が経営悪化に拍車をかけたことは容易に想像できる。Jリーグの「スポンサー自粛カテゴリー」は青少年に悪影響を与えるか否かがその境界線となり、酒類などもその対象となる。現時点ではJ2アビスパ福岡の大株主である「大都技研」も子会社にパチンコホールがあることを理由にユニフォーム・スポンサーを断られている状況だ。
 理想を追求するのはかまわないし、一度定めたガイドラインを堅持したいJリーグ側の考え方も理解できるが、一方で時代の流れに即して柔軟な姿勢を見せることもいいのではないか。「マルハン」や「大都技研」が社名がユニホームの胸に露出されることで、本当に青少年に悪影響が出るのかどうか。いま一度精査することも必要だろう。
 現時点で「自粛」のカテゴリーに分類されている企業の中にも、Jクラブを通じて社会貢献を果たしたいと考えている経営者がいるかもしれない。J1とJ2あわせて36もあるJクラブから破綻第1号が出てからでは間に合わない。来シーズンからJFLのニューウエーブ北九州とガイナーレ鳥取がJ2昇格を果たせばさらに移動費など経費がかさむ中で、そうした企業の声を最上部団体の「ツルの一声」で無視するわけにはいかなくなってきた。
 会見ではこんな悲観的な質問も飛んだ。今回の大分の一件は早急なJクラブの拡大戦略が引き起こした弊害の一環であり、巨額融資が悪しき前例となってリーグ、クラブともに共倒れになる危険性があるのではないか、と。
鬼武チェアマン「悪しき前例にはしたくない。そう(共倒れ)にならないように全精力を傾けるのが第一でしょう」
 横浜フリューゲルスの消滅を機に当時の川淵三郎チェアマンがトップダウンで身の丈に合った経営を打ち出し、全クラブが経営規模を縮小したのが98年オフ。その間も一貫して「豊かなスポーツ文化の振興と国民の心身の健全な発達への寄与」を柱とする「百年構想」は推し進められてきたが、予想を上回って悪化する経済情勢の中で、その土台となるべき肝心のJクラブが大きく揺らいでいることがあらためて浮き彫りになった。
 日本サッカー協会の釜本邦茂名誉副会長はFC岐阜や東京ヴェルディだけでなく、特定の親会社をもたないJ2クラブのほとんどが経営危機かその一歩手前にあると警鐘を鳴らす。かつてない危機が目前まで迫っている中で、大分や岐阜への融資はその場しのぎの止血剤としかなりえない。
 そして、総本山となるべきJリーグは11年前のように現実に即したアクションを起こすわけでもなく、理想と現実のはざ間でもがき、必死に理念を自問自答しているように思えてならない。

 

2009年11月18日 17:59|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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