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日本代表/香港戦の意義は何だったのか?  by 藤江直人


■サッカー・アジアカップ最終予選
日本代表(勝ち点9) 4‐0 香港代表(勝ち点0)
[11月18日午後6時半(現地時間)キックオフ@香港スタジアム]


 アーリークロス。アーリークロス。アーリークロス。
 ピッチの中の日本代表選手の脳裏には、まるで呪文のようにこの単語が駆け巡っていたようだった。10月の国内3連戦で面白いようにゴールを重ねた、岡田武史監督が言うところの「日本の新しい武器」は、14日の南アフリカ戦においては試みることすらままならなかった。
 だからなのか。迎えた年内最後の国際Aマッチ。日本のコンセプトを実践して勝て。おそらくはこんな指示が飛んでいたはずだが、選手のほとんどが自陣に引いて、なおかつサイドに「フタ」をされては、いかに格下の香港が相手でもアーリークロスを通すのは難しい。
 それなのに、まるで与えられた命令を忠実に守るロボットのように同じパターンのサイド攻撃を繰り返す。ホームの声援を背に闘志満々の香港に当然のように跳ね返されて、何度もカウンターを食らう。日本と同等かそれ以上のレベルの相手だったら、ゴールを割られていてもおかしくない試合展開が後半途中まで続いた。
 チームとして掲げるコンセプトをピッチで実践することはもちろん大切だ。しかし、タイムがかけられないサッカーにおいては、ピッチで刻々と変わる状況に選手たちが臨機応変に対応しなければいけない。やや乱暴な言い方になるが、ピッチに送り出された以上は選手たちの自由。勝利という共通の目標があれば監督との間に波風は立たないはずだ。
 先制点が生まれたのは前半32分。MF長谷部誠がゴール前ほぼ中央から代表初ゴールとなる強烈なミドルシュートをゴール左に突き刺したが、フィニッシュに至るまで左→右→中央→セカンドボールを拾って再び右→左→中央とショートパスによるサイドチェンジが繰り返された。
 執拗に左右に振られた上、DF闘莉王まで攻撃に絡んできたものだから香港の守備ブロックは完全に破綻。長谷部の前にポッカリと花道が生まれた。サイドが詰まったら逆サイドに振る。アーリークロスではなく、イビチャ・オシム前監督が口を酸っぱくして要求していたパターンで先制したのは何とも皮肉だったと言うしかない。
 
 
 日本代表監督経験者で思い出すのは、フィリップ・トルシエ監督のある言葉だ。
「勝利においてチーム戦術が占める割合は60パーセント。残る30パーセントは選手個人の戦術で、残り10パーセントは運になる」
 いまとなっては、この論法にもうなづける。トルシエ氏が指揮を執った日韓共催W杯では、フラット3を標榜する監督の「ラインを上げろ」という指示に対して、宮本恒靖らDF陣がロシアとの第2戦以降において「引いて守る」ことを決断。それがベスト16進出につながった。
 もちろんW杯という舞台だからこそできた「反逆」とも言えるが、南アフリカW杯を7か月後に控えた現況では、まず監督の指示を守ることありきになってしまうのだろうか。対戦相手だけでなく、ベンチで眼鏡を光らせる指揮官を意識してしまうのだろうか。
 引いた相手を崩すセオリーにはミドルレンジから積極的にシュートを打つことや、サイドなどの局面でより数的優位を作ることが挙げられる。長谷部と闘莉王はそれを個人の判断で実践したが、後半の香港はほとんど0トップと言っていい状態だったわけで、ならば闘莉王以外にも最終ラインからどんどん攻撃に参加する必要があった。
 例えば左サイドバックの駒野友一。岡田監督の指示を受けてから思い出したようにオーバーラップを繰り返していたが、南アフリカ戦でも左からの攻撃は極端に少なかった。レギュラー格の長友佑都が故障で辞退した今遠征は、駒野にとってアピールする絶好の場面だっただけに残念でならない。左右両方のサイドバックをこなせる貴重な存在として安心してしまったのか。香港戦は同じく左右両方ができる徳永悠平を先発させる手もあったのではないか。
 同じことはFW大久保嘉人にも言える。以前にも「論」で書いたが、プロ入りした当初のギラギラした、飢えた野獣のようなゴールへの執念というものがどんどん希薄になっている感がしてならない。大人しくなった、という点を指摘すると、大久保本人からは「もう退場はできませんから」という言葉が返ってきたこともあった。
 昨年6月のオマーン戦で一発退場になったことがよほどトラウマとして刻まれているのだろう。しかし、今年は代表戦において無得点。大久保に代わって出場し、香港の戦意を奪う2点目を決めたFW佐藤寿人を先発で起用すべきだったのは言うまでもない。
 岡田監督は「残り10分で何かをしてくれる」と佐藤をスーパーサブとして位置付けているが、役割を固定するのはまだ早い。先発としての佐藤の適性を試すまたとない舞台を、「大久保×佐藤」や「駒野×徳永」といった構図で競争意識を高めてレベルアップを図る絶好のチャンスを、自らの硬直した選手起用で逃してしまったわけだ。


 香港戦は公式戦ということで交代枠は3だった。佐藤と徳永を投入した時点で残りは1枠。しかし、今遠征のメンバーを発表した5日には岡田監督はこう語っていた。
「海外組がある程度長いキャンプをできるのはこれが最後のチャンスということで、チームをまとめ上げていくような遠征にしたい。なので、海外組優先で選んでいます」
 取材する側にとっては海外組をふるいにかける2試合と受け止められたし、だからこそ指揮官も南アフリカから香港まで5人全員を帯同させたのだろう。しかし、3人目のMF阿部勇樹が出場を命じられた時点で、稲本潤一、本田圭佑の両MFの出場機会はなくなった。
 岡田監督が掲げる今遠征の意図は欧州でプレーする選手にも伝わっていたはずだ。ならば、稲本と本田はピッチ外でアップをしながらどんな心境でいたのか。前者は南アフリカ戦でワンボランチで試された結果として不合格だったのか。後者はあくまで中村俊輔のスペアなのか。
 岡田監督の真意はともかく、来年3月3日まで海外組を招集できる国際Aマッチデーがない以上は、稲本と本田を先発で起用しないまでも、途中交代で投入する枠は設けておくべきだったのではないか。さらに付け加えれば、センターバックのバックアップ育成が急務な中で、南アフリカ戦で出場しなかったDF岩政大樹は香港戦ではベンチ入りすらしなかった。
 ドイツW杯優勝の強国イタリアから同国内での親善試合を申し込まれながら香港協会の猛反対にあって断念し、結果として勝利以外のテーマがぼやけてしまった11月18日の香港戦をもって、日本代表は09年の全試合を11勝3分け3敗の成績で終えた。
 その中で収穫をあげるとしたら、年間15ゴールをマークしても「強い国に対しては何もできなかった」と貪欲な姿勢を崩さないFW岡崎慎司の急成長と、ブンデスリーガでもまれている長谷部が中盤のダイナモとして完全に一本立ちしたことくらいか。
「チームというのはうまくいっている時に『もう少しこうしたい』『もう少しこうしたらよくなる』ということを焦ってやったら逆にダメになることが多い。いまは獲得したことをしっかり身に付ける。それが一番大事だと思っています」
 5日の会見ではこうも語っていた岡田監督が南アフリカ戦で前言を翻すように、まるで閃いたかのように試したワンボランチ構想はどうやら頓挫し、武器として獲得したはずのアーリークロスも不発。俊輔依存、もっと極端に言えば俊輔と心中する構図がより鮮明になり、新陳代謝を欠くチーム内の競争意識がだんだんと萎みながら、日本代表は勝負の年を迎えようとしている。

2009年11月19日 17:42|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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