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土壇場で繰り返された川崎フロンターレの悪しき歴史  by 藤江直人


■J1第32節
大分トリニータ(勝ち点26) 1‐0 川崎フロンターレ(勝ち点58)
[11月22日午後1時キックオフ@九州石油ドーム/観衆2万418人]


 またしても「壁」を乗り越えることができなかった。川崎フロンターレがすでにJ2降格が決まっている最下位の大分トリニータにまさかの金星を献上し、首位から陥落した原因を探っていくと、おのずと「壁」という言葉にたどりつく。
 確かに不安な材料はそろっていた。前日に鹿島アントラーズが勝ち、暫定首位に浮上したことで「絶対に負けられない」というプレッシャーが生じていたことは想像に難くない。8日のジェフ千葉戦で右太ももに肉離れを起こし、日本代表の南ア・香港遠征を辞退したMF中村憲剛はチーム合流4日目でまさにぶっつけ本番。これまで2分け5敗と勝利に縁がない鬼門・九州石油ドームでの試合ということも心理面に微妙な影響を及ぼしていたはずだ。
 加えて、対するトリニータは前節まで7戦連続で無敗。その間に無念のJ2降格が決まってもモチベーションは萎えず、失うものは何もないとばかりに伸び伸びとプレーしている。加えて、チーム財政が破綻寸前に陥った責任を取って今シーズン終了後の辞任を表明したばかりの溝畑宏社長へ白星を捧げようと、選手たちの士気はいっそう高まっていた。
 こういう時に決まって番狂わせは起きる。キックオフ前に抱いた予感は、時計の針が進むごとに確信に変わっていく。トリニータの鋭い出足にフロンターレはまったくサッカーをさせてもらえない。ボールを奪われるや、サイドから幾度となく危険な攻撃を仕掛けられる。攻撃的MFの家長昭博をボランチにすえる相手の新布陣にまったく対応できない。
 セカンドボールもことごとく拾われ、ポゼッションはトリニータが60パーセントを軽く超えていた。こういう苦境を伝家の宝刀・カウンターで打開してきたフロンターレだったが、正確無比なタテパスでチャンスを切り開く中村にいつものキレがない。いつもなら自らが担うCKやFKをFWレナチーニョに任せ、無意識のうちに肉離れの箇所をかばうように、おそるおそるプレーしている感すらある。
 まさに内憂外患。こんな状態が続けば、いつかは日本代表GK川島永嗣を中心とする守備網も決壊する。後半16分に右サイドをFW金崎夢生に破られ、FWフェルナンジーニョにゴールを陥れられた時点でほとんど万事休す。逆転はおろか追いつく可能性すら感じさせないまま、試合終了を告げるホイッスルが鳴り響いた。

 
 思い起こされるのは昨年11月8日の第31節で味わった悪夢だ。
 敵地NACK5スタジアムで大宮アルディージャと対戦したフロンターレは、J1残留へ目の色を変えて臨んできた相手に圧倒されて1‐2と苦杯をなめた。翌節からの3連勝で2位に滑り込んだものの、優勝した鹿島アントラーズとの勝ち点差はわずか3。勝負でたらればを言うのはあり得ないが、それでもアルディージャ戦の「取りこぼし」があまりにも痛かった。
 迎えた09年。J1に定着して5シーズン目におけるテーマは明快だった。手が届くようで実は遠かった1勝分の勝ち点をいかに縮めるか。中村は「したたかさ」を身につけない限り、チーム悲願の初タイトルは獲得できないと胸に刻んでいた。
「アントラーズのしたたかさはやはり経験の積み重ねであり、優勝を経験しているチームの強みなんだと思いました。ウチはまさに今そこを積み重ねている段階。調子が悪い中でも1‐0で勝ち点3を取れるかどうか、がすごく大事になってくる。強いチーム、優勝するチームは、まずい内容の試合を勝ちにもっていけるんです」
 フロンターレのウリはリーグ屈指の得点力であり、殴られたら何倍にもして殴り返すケンカ上等サッカーだ。壮絶なゴールの奪い合いの末にロスタイムの一撃でジェフにJ2降格の引導を渡した前節8日の一戦はまさにその典型だった。
 そうした長所はもちろん伸ばす。実際、昨シーズンにリーグ最多の65ゴールを叩き出した攻撃陣は今シーズンも60ゴールでリーグトップ。その上でチームがさらにワンステップ駆け上がるためには何が必要なのか。3月の開幕前に中村はこうも語っていた。 
「スタジアムに観に来てくれるファンは殴り合いが一番面白いと思うし、勝てばみんな満足はするんですけど、今シーズンは内容も求める試合を増やしていかなきゃいけない」
 昨年の大宮での悪夢からほぼ1年。図らずも巡ってきたほぼ同じシチュエーションの試合は、この間のフロンターレの進化を問われる舞台でもあった。間断なく続く相手の猛攻をいかにしのぎ、数少ないチャンスをものにするか。求めてきたはずの「したたかさ」は、トリニータ戦の結果と内容を見る限りは、残念ながらまだ身についていなかったと言わざるを得ない。


 トリニータ戦のサブメンバーには、中村が右太ももの故障で離脱していた間に行われた天皇杯で代役を務めたMF木村祐志が入っていなかった。
 テクニックに秀でるフロンターレユース出身の22歳の攻撃的MFだが、J1でデビューしたのは4年目の今シーズン。それも2試合、計18分間のプレーだけでは、関塚隆監督をして天皇杯とは異なるプレッシャーの中で戦うJ1の正念場に帯同させる決断に至らなかったのか。
 04年の就任以来、関塚監督は中村を中心にチームを作り上げてきた。その間、中村もほとんど故障することなくピッチの上で期待に応え、J1とナビスコカップでともに2度ずつ2位に入るなど確実に歴史を刻んできた。
 中村自身、都立久留米高から中央大時代を通じてまったくの無名だった自分をテスト生として受け入れてくれたフロンターレには、今でも感謝の思いを忘れていない。だからこそ、日本代表にまで育ててくれたチームへ「自分のすべての力を使ってプレーするのは当然」とまで言い切る。
 トリニータ戦の強行出場もチームへの愛情、強い責任感が体を突き動かしていたはずだ。選手がそう思うのは当然であり、だからこそベンチとして中村が機能しない事態に備えてオプションを用意しておくことも必要だった。
 そして、実際に中村は精彩を欠いていた。1点をリードされてから右足を思い切り振り抜いてのロングパスを何度か試みた中村だったが、守備のリズムができあがっていたトリニータを崩すには至らず、焦燥感にかられた攻撃陣も空回りを繰り返した。
 後半15分から右サイドバックに投入された森勇介も、武器であるアグレッシブなオーバーラップは影を潜めていた。FC東京に完敗した3日のナビスコカップ決勝後の表彰式における悪態が批判の的となり、チームから課された出場停止が明けてから初めての出場だったが、まだ迷いが晴れないのだろうか。ピッチに立った直後に自身の背後を破られ、失点を許してしまった。
 首脳陣を含めたチーム全員が目に見えない「壁」の前でもがき、苦しみ、それでも乗り越えるための道筋を最後まで見つけることができなかった。


 開幕前、中村は優勝するには「20」の白星を挙げることが必要と分析。その上で、残る14試合でいかに負け数を減らせるかがポイントとにらんでいた。
 トリニータ戦を終えた時点のフロンターレの成績は17勝7分け8敗。残りは2戦。残念ながらシーズン前の皮算用に届かないが、これですべての希望が潰えたわけではない。
 次節にもアントラーズがJリーグ史上初の3連覇を達成する可能性が出てきたが、そのアントラーズは逆転優勝へ執念を燃やす3位のガンバ大阪との待ったなしの直接対決に臨む。その結果次第では、フロンターレの視界が再び開けてくる。
 もちろん、フロンターレが次節のアルビレックス新潟とのホーム最終戦で勝利を収めることが、奇跡をたぐり寄せるための絶対条件であることは言うまでもない。
「まだあきらめない。自分たちを信じる」
 チーム全員に言い聞かせるように、中村は必死に前を向いた。28日までにいかに気持ちを切り替えられるか。何のために昨シーズンに高い授業料を払ったのか。幾度となく刻まれてきた無念の歴史を塗り替え、ここ一番で「勝負弱い」というレッテルを返上するための闘いはすでに始まっている。

2009年11月23日 03:06|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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