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横浜ベイスターズD1位/筒香嘉智が思い描く10年後の自分  by 藤江直人

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 新たな門出を迎えるアスリートを取材する際、最後にこんな質問をするようにしている。
「10年後にはどんな選手になっていたいですか」
 ありきたりの問い掛けながら、これがどうして、けっこう面白い答えが返ってくることが多い。例えば、残念ながら来シーズンのシード権は確保できなかったものの、ギャル風のウエアや派手なつけ爪などで注目を集めた女子ゴルフのルーキー、キンクミこと金田久美子を6月に取材した時に返ってきた答えにはとにかく驚かされた。
「10年後は結婚して子供を産んでいると思います」


 では、門出の季節を迎えたプロ野球界に目を移すとどうか。
 10月のドラフト会議で横浜ベイスターズから相思相愛で1位指名され、入団が決まったばかりの横浜高校のスラッガー、筒香嘉智内野手にも同じことを聞いてみた。
 背筋をピンと伸ばし、かなり緊張気味の18歳の表情を見るほどに「4番を打ってチームを日本一にしたい」といった型通りの真面目な言葉が返ってくるのでは、と勝手に思い込んでいた。
 しかし、予想は見事に、それもいい意味で裏切られた。
「これから頑張るか、頑張らないかで結果も変わってくると思うので、あの時頑張っていてよかったな、と10年後に思えるような選手になりたいです」


 横浜高校の名物部長、小倉清一郎氏からは「己に負けるな」という檄とともに、プロのスピードと変化球のキレにタイミングを合わせられるまで、「1年半から2年はファームで泥をすすれ」という檄を餞別代りに贈られている。
 現段階では一軍で活躍できるレベルにないことは筒香自身が誰よりもわかっている。だからこそ憧れてきたプロへの門出にも浮かれることなく、それこそ血へどを吐くような猛練習の日々を乗り越える決意表明として「あの時――」という言葉を口にしたのだろう。
 スポーツ新聞のベイスターズ番記者からは「決して大風呂敷を広げない実直な選手」という前評判を聞いていたが、確かに大地にしっかりと足をつけた言動はとても18歳の高校生とは思えない。こちらが緊張していると思った表情は、実は泰然自若としていたというわけだ。


 高校3年間で放った69本塁打は歴代1位の中田翔(北海道日本ハムファイターズ)の87本に遠く及ばないが、その中田は1年目の自主トレから日焼けサロン通いや数十万単位の小遣い発言など、どちらかと言うとグラウンドの外で話題を提供した。
 しかし、自らの固い意思で智弁和歌山など地元和歌山の強豪校からの誘いを蹴って野球留学を決めるなど、まさに「野球道」を一心不乱に突き進んできた筒香にはそうした心配は無用のようだ。「モンブランが大好き」という甘党派であることはさておいて、この世代なら一度は夢中になるはずのテレビゲームにただの一度も興じたことがないという。
「自分は打者ですので、目が命だと思っていますから。視力は両方とも2.0です」


 その筒香が1日、横浜市内で記者会見に臨んだ。8日に設定されているドラフト指名選手全員が勢ぞろいしての入団発表に先駆けるかたちで単独で、しかも日本一の高層ホテルとして有名な「横浜ロイヤルパークホテル」の最上階、70階にある「オーロラの間」を用意したところにベイスターズの期待の大きさが表れている。
 そのココロは、ハマのてっぺんから日本のてっぺんへ。筒香の視線も「一番」に注がれる。
「球界を代表する打者とか、自分はまだ全然そんなレベルではありませんけど、最終的にはそこを目指してやっていきたい。これまで磨いた打撃をアピールし、ホームラン打者になれるように頑張りたい」


 もっとも、背中に「55」と「TSUTSUGOH」が刻まれた真新しいベイスターズのユニホームを袖を通すと、胸に秘めてきた「こだわり」が顔をのぞかせる。
 読売ジャイアンツ時代に松井秀喜が背負って以来、日本ではホームラン打者の代名詞となった背番号。現在も高校通算65本塁打の大田泰示(ジャイアンツ)がつけていて、ベイスターズ側も「ハマのゴジラ」なるニックネームを浸透させようとしている。
 しかし、スポットライトを浴びるひな壇の上で、筒香は胸を張ってそのニックネームを拒絶した。
「高校時代からずっと5番だったので、5は好きな番号ですし、5にちなんだ番号で嬉しいですけど、『ハマのゴジラ』ではなく『横浜の4番は筒香』と言われるように実力で認めさせたい」


 以前に「55」番について松井秀喜を例に出しながら感想を聞いた時も、筒香は語気をやや強めながらこう話している。
「いただいた背番号なのでしっかりと、小さくまとまったバッターにならずに、大きく、大きくなりたいというのはありますけど、ホントに背番号が何番だろうと自分のプレーが変わることはありません。やっぱり、その打者の真似をしても打撃の感覚というのが違いますし、自分の中である選手を目標にしたらその選手を超えることはできないので。横浜高校の3年間で渡辺監督と小倉部長から素晴らしい指導をいただいたし、自分独自の打撃理論も持っている。自分の感覚を大事にしてこれからもやっていきたいと思います」
 いわゆる「○○二世」ではなく「筒香一世」になる。18歳の少年が紡いだ言葉の端々から揺るがない自信とプライドがひしひしと伝わってきた。


 現在の体重は90キロ弱。準々決勝で甲子園に出場した横浜隼人の前に涙を飲み、高校野球に別れを告げた夏の神奈川県大会時に比べると5キロ以上も増えたという。
 もっとも、野球部引退後の運動不足やモンブランの食べすぎで太ったわけではない。最後の夏を戦いながら筒香は違和感を覚えていた。
「パワーがなくなっているというか、物足りなさがあったんです」


 横浜高校伝統の猛練習に加えて、キャプテンとして、対戦校から徹底マークされる主砲として、甲子園出場にかける思いは並大抵ではなかった。時間とともにそれがプレッシャーに変わり、必然的に体重も減少。だからこそ、いま現在がベストの体重だと言う。
「いろいろなトレーニングを取り入れて、ホームラン打者にふさわしい大きな体を作りたいと思ってやってきました。もちろんプロのトレーニングが始まれば体重も絞られるでしょうから、その中でベストのコンディション、けがをしない体を作ることに重点を置いています」


 プロ入りへ向けて、小倉部長からは「とにかく走れ。走って、走って、走りまくれ」とメニューを言い渡されている。幸いにも金沢区内にある横浜高校の練習グラウンドは丘陵地にあり、ランニングで足腰を一から鍛え直すには絶好のロケーションにある。
 筒香もウエートトレーニングなどはいっさい行わず、ランニングと重めのバットをとにかく振る地道な練習を繰り返すことで体重増に成功した。もちろん木製バットを使っての打撃練習も行い、小倉部長によれば「飛距離は金属バットとさほど変わらない」という。


 ボールを遠くへ飛ばす天性のパワーとバットのヘッドスピードを兼ね備えるスター候補へ、ベイスターズ側も「700日計画」を立てて育成に臨む。その青写真通りなら、来年から筒香の主戦場はベイスターズの二軍、湘南シーレックスの拠点となる横須賀スタジアムやベイスターズ球場に移る。
 今年5月。そのベイスターズ球場である「伝説」が刻まれている。
 花巻東高を招いての練習試合。マウンドにはもちろん菊池雄星。メジャー球団を含む約30人のスカウトが熱い視線を注ぐ超高校級左腕が投じたカーブをライト席に弾き返したのが筒香だった。高校通算55号は、飛距離120メートルの特大弾。もともと高い評価を受けていた筒香の株はこれで一気に上昇し、夏の神奈川県大会にはメジャーのインディアンスやマリナーズのスカウトもスタンドに姿を見せていた。


 花巻東との練習試合にかける筒香の執念は半端ではなかった。試合の3日前から風邪で体調を崩し、朝の時点で39度4分の高熱がありながら点滴を打って2打席限定でスタジアムに駆けつけ、約束の2打席目で快打。そのまま試合から退き、タクシーで寮へ引き揚げたのだ。
 今年の春、夏と甲子園に出場しなかったことで、知名度においては菊池にはるか及ばない。それでも、質実剛健を地でいく筒香は18歳にして何かを期待させるオーラをまとっている。これから呼ばれるであろう「菊池世代」の打者の筆頭格として。菊池へのライバル心がないわけがない。
「セとパで分かれちゃったんですけど、対戦することもあると思いますし、ホントにいいライバルとしてこれからもやっていきたい。対戦した時は必ず勝つように意識したいですね」


 その時が来るまで、奢らず、慌てず。筒香は「急がば回れ」の精神を肝に銘じながら、未知なる世界の門を叩く。
「700日計画というのを自分も聞きました。一軍はプロの中でもトップの方々が活躍される場所ですし、そんなに簡単にたどり着けるとは思っていません。いまはとにかくその舞台に立てるように力をつけたい。ファンの方々の声援があってこそ力に変えられることは高校野球での経験で分かっているので、実力でファンの皆様に認めてもらえるような選手になりたい」
 元来はスイッチヒッターの筒香だが、実戦では右打席にほとんど立っていない。菊池からの一撃も左打席で放ったが、プロへの旅立ちを機に原点に回帰。横浜高校のグラウンドに隣接する室内練習場で、右打者としての「牙」もひそかに研いでいる。

2009年12月 2日 04:30|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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