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自虐ネタを連発する日本代表・岡田武史監督の意図 by 藤江直人
胸の内にしまったままにしておけば絶対に分からなかったことを、自ら進んで口にする。それも自虐的なテイストに仕立てて。
サッカー日本代表の岡田武史監督が、8日と9日に東京都内で行われた日本代表合宿のミーティングである「秘話」を選手たちに披露していた。
南アフリカのケープタウンで現地時間4日夜に行われたW杯抽選会。その前夜に催された夕食会の席上で、セリエAのユベントスへの短期留学などを通じて面識のあったイタリア代表のマルチェロ・リッピ監督との間でこんなやり取りがあったという。
リッピ監督「W杯でベスト4を目指しているというのは本当のことなのかい」
岡田監督「本気で目指しているよ」
ドイツW杯を制した名将が思わず一笑に付したことも選手には伝えられた。
南アフリカから6日に帰国した際の成田空港でも、9月に対戦したばかりのオランダ代表のベルト・ファン・マルワイク監督とくだんの夕食会で歓談した際の笑えないエピソードを明らかにしている。
「自分が日本の監督だと分かっていなかった。彼と話していたら『ところで日本の監督はどこだ』と言われた。試合前に握手もしたのに忘れられてた。その程度にしか思われていない」
表情をほとんど変えない岡田監督の話し方からは、その真意を察することは難しい。眼鏡を光らせながら真顔でジョークを言い放ち、ひと呼吸置いてから周囲が笑うことも珍しくない。
その一方で、横浜F・マリノス時代に指導を仰いだDF松田直樹をはじめとする親しい関係者のほとんどが「誰よりも負けず嫌い」と口をそろえる。
そんな指揮官があえて屈辱的なネタを披露するココロはどこにあるのか。
常識的に考えれば、自国開催以外のW杯でまだ1勝も挙げたことのない日本が、オランダ、カメルーン、デンマークと強敵がそろったE組を突破し、さらに決勝トーナメントを勝ち進んでいく姿はなかなか思い浮かべることができない。
それでも岡田監督は頑なまでに「ベスト4」という目標を変えず、そうした情報ははるかイタリアのリッピ監督にも伝わっていたわけだが、肝心の日本代表の選手たちが目標に向かって奮い立たなければ何の意味もなさない。
これはあくまで推察となるが、指揮官自身があえて笑いものになり、見下されているという現実を伝えることで、選手たちの反骨心を煽っているのではないだろうか。
帰国した際の囲み取材で明かしたファン・マルワイク監督とのやり取りはマスコミ報道を通じて必然的に選手たちの知るところになる。そして、ミニ合宿でのミーティングにおける第2弾。すべてが計算尽くのように思えてならない。
実際のところ「自虐ネタ」の効果はてき面だ。
昨年5月に岡田監督からA代表に抜擢され、いまや左サイドバックのレギュラーを完全に確保しているFC東京の長友佑都は決して穏やかではない心中をこう明かしている。
「腹が立ちますよね。腹が立ちますけど、僕らはピッチで返すことしかできないので。やってやろうじゃないか、という気持ちです」
指揮官から「残り10分で必ず仕事をしてくれる男」とスーパーサブとして期待をかけられているサンフレッチェ広島のFW佐藤寿人は、リッピ監督に対して岡田監督が返した「本気だ」という言葉に感動したという。
「そう言ってくれると僕らも嬉しいし、もっと頑張らないと、という気持ちになる。これからの半年間はサッカー人生において一番大事な時間になる」
体力測定がメーンに据えられた今回のミニ合宿で、日本代表は年内の活動をすべて終えた。いよいよ迎える勝負の年へ、岡田監督は従来のコンセプトで臨むことをあらためて明言した。
「基本的に日本人が世界のトップレベルに勝つためにやってきたことなので、組み合わせが決まったからといって変えるつもりはありません」
コンセプトの3本柱は(1)相手に走り勝つ(2)局面で相手に競り勝つ(3)テクニックの精度で勝つ――このうちの最も重視するという(1)については9月のオランダ戦でも後半15分過ぎまでは実践できたし、その間はFIFAランク3位の強国と互角の勝負を展開した。
しかし、この試合ではオランダがあえて日本を自由に走らせた感があるし、実際、日本がスタミナ切れを起こした後に攻勢に転じて3ゴールを挙げて快勝している。
サッカーにおいて90分を通して相手より走り勝つことはほぼ不可能なこととされているが、それでも岡田監督は11月の南アフリカ戦を例に挙げながら強気な姿勢を崩さない。
「平均の走る距離より1キロも多く走った選手が6人もいた。レベルアップに驚かされた」
もちろん自虐ネタで反骨心を煽るだけでなく、選手たちの頭脳にも刺激を与えている。
今回の合宿には陸上の女子短距離界に旋風を巻き越している福島大学陸上部の川本和久監督を特別講師として招へい。速く走るのではなく、体力をロスすることなく選手個々がトップスピードに達するためのヒントを与えた。
岡田監督から9月のオランダ戦の映像を渡されていた川本氏の分析は明確だった。日本代表選手と福島大学の女子選手の走り方をビデオで見比べた約30分間の講義を佐藤はこう振り返る。
「走ることとは、つまり移動することと言われた。具体的には、僕らはスタートする時に半歩後ろに下がっていた。走り方やフォームのことはほとんど考えたことがなかったので、非常に興味深い話をしてもらえました」
勢いをつけようとするから半歩下がり、その積み重ねが体力をロスさせる。佐藤同様にゴール前の一瞬のスピードで勝負するFW岡崎慎司も、川本氏の指摘を聞いて目からウロコが落ちる思いを感じずにはいられなかったという。
「走り出しとは『体の力を抜いて重心を前にずらすこと』と言われて。コンマ何秒を速くすることをずっと追求してきた自分にとってはホントにありがたい話でした」
岡田監督は川本氏を招へいした狙いをこう語っている。
「陸上のプロから見ればこんな無駄な走りをしていたのか、もっとスムーズに走れるということを伝えたかった。体力がついても最後まで走り切ることができなければ意味がない。川本先生は『ポテンシャルはある』と言ってくれた」
要は90分を通して走り勝とうと思わなければ走れない、ということなのだろう。同じことは、グループリーグにも言える。強敵オランダと引き分けでいい、と思っていたら引き分けることすらできない。つまりは、日本のベスト4が夢物語だと思っていたら、グループリーグすら突破することはできないという理論にたどりつく。
それは、来年に向けた指揮官のこんな決意表明からもうかがえる。
「充実した1年を過ごすことができたが、成長したといっても一線を越えないと世界では『いいチームになった』で終わってしまう。我々はその一線を越えないといけない。W杯でベスト4に進んで世界に我々の存在を知らしめることは夢ではなく目標なんだ」
今回の川本氏の講義やリッピ監督とのやり取りを含めた岡田監督のミーティングの映像はDVDに収められ、ミニ合宿に参加できなかったMF中村俊輔をはじめとする欧州組に送付される。
2009年12月10日 14:00|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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