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湘南ベルマーレ/11年ぶりのJ1で感じた課題とツキ  by 藤江直人


■サッカーJ1第1節
湘南ベルマーレ(勝ち点1) 1‐1(前半1‐1) モンテディオ山形(勝ち点1)
[3月6日午後1時キックオフ@平塚競技場/観衆11,280人]


 平塚競技場のメーンスタンドから正面玄関へと降りる関係者専用の階段を踏みしめながら、湘南ベルマーレの眞壁潔社長は自らに言い聞かせるようにつぶやいた。
「まあ、よしとしよう」


 昨年12月5日のJ2最終節で奇跡の逆転勝ちを演じ、11年ぶりとなるJ1昇格を決めてから約3か月。期待と興奮に胸を躍らせながら、指折り数えてきたモンテディオ山形との開幕戦は1対1のドローに終わった。
 そぼ振る雨の中を駆けつけてくれたサポーターに白星を贈りたかった。その一方で、最低限である勝ち点1はゲットすることができた。
 胸中で揺れる思いを封じ込めるように、「よしとしよう」と前を向いたのだ。


 眞壁社長の言う「よしとする」には2つの意味がある。
 ひとつは反町康治監督が就任した昨シーズンから追い求めているサッカーが、J1の舞台でもある程度は通用する手応えをつかんだことだ。


 それはどのようなサッカーなのか。反町監督の言葉を借りればこうなる。
「ウチには1対1で仕掛けて、抜いて、シュートを打てる選手はいない。前線にボールを運んで、人数を割いて、攻撃の選択肢を増やしていくしかない」
 キックオフから主導権を握り、迎えた前半19分。目指す形が先制ゴールといて結実した。


 MF寺川能人が前線へ浮きダマのパスを送る。FW新居辰基が体を反転させながら太ももでトラップ。さすがに体勢を崩したが、背後から走り込んできたMF坂本紘司がこぼれダマに対して迷うことなく左足を一閃。相手GKが弾いたところを、直前のCKで前線に残っていたDFジャーンが右足で押し込んだ。
 お馴染みのコールがスタジアムに響く。
「ただいまのゴールはジャ、ジャ、ジャ、ジャーン!」


 プロ生活14年目の31歳。ベルマーレが強いられた10年間のJ2時代のすべてを知り、この日が遅咲きのJ1デビュー戦となった坂本が言葉を弾ませる。
「前半はテンポよくボールを回せたし、その部分ではJ1に通用すると思いました」
 坂本以外にもJ1での初陣となった選手が途中出場組も含めて5人を数えたが、ベルマーレ伝統の黄緑と青のユニホームがホームの平塚競技場のピッチで躍動した。
 湘南の暴れん坊。往年の異名がサポーターの脳裏に蘇りかけていた。


 しかし、好事魔多し。前半40分。同点とされるシーンは予告もなしに訪れる。
 左サイドを突破したモンテディオのMF古橋達弥が左足でクロスを上げる。必死にマークしたMF寺川の足をかすめ、微妙にコースを変えたボールがゴールに吸い込まれそうになる。
 GK野澤洋輔が必死にニアポストへ走り、体をゴールの内側に入れた体勢で、両手ではたき落すようにパンチングした瞬間だった。


 ボールは味方のFW田原豊の足に直撃。はね返って無情にもゴールネットを揺らした。
 それまで何度もファインセーブでゴールマウスを死守していた野澤が言う。
「あれは事故。ユタカ(田原)がカバーに来たから当たったということ。押し込んだのが相手のFWだったらショックだけど。前向きな失点です」


 もっとも、この時、田原はほぼ無防備な状態でオウンゴールを献上してしまった。
 味方のピンチにゴール前まで戻ってきた献身さは認めるが、一方で集中力があればボールの直撃は避けられかもしれないし、失点も防げたかもしれなかった。
 その点は田原も反省している。
「ひとつのオウンゴールで勝ち点3が遠いところに行ってしまった。ひとつのミスが命取りになるリーグだと、あらためて感じることができた」


 その後は流れを引き戻すことができず、J1初挑戦だった昨シーズンにおいて降格ラインぎりぎりで生き残ったモンテディオの牙城を打ち破ることができずに試合終了を迎えた。
 油断大敵。あらためて言うまでもない勝負の鉄則を、勝利を逃した代償として思い知らされた。そのことが眞壁社長を前向きにさせた「もうひとつ」の要素だった。


 ホームでのドロー発進を、まさに「良薬口に苦し」とすることことができるのか。
 戦いの舞台は1週間後の3月13日。横浜F・マリノスのホーム、日産スタジアムに乗り込んでの「神奈川ダービー」に移る。
 日本代表MF中村俊輔の8シーズンぶりのJリーグ復帰戦。いやがおうでも注目が集まる。
 しかも、開幕戦でFC東京のFW平山相太の一撃の前に屈したF・マリノスが、目の色を変えて臨んでくることは容易に想像できる。


 試合後の公式会見。抑揚のない言葉の中に最大限のプライドを込めて、反町監督は次戦への並々ならぬ決意を表明した。
「手応えを感じたといっても、このままなら勝ち点1を得るゲームしかできない。J1の試合における1対1の強さ、タマ際のギリギリのせめぎ合いといったものを体で感じ、慣れることができたので、それらを次のゲームにつなげたい。中村俊輔の復帰戦の舞台をお膳立てするつもりはない。勝つために準備をして、『湘南、やるじゃないか』と思わせるサッカーをします」
 目指すはただひとつ。暴れん坊の完全復活だ。


 J2の3位で昇格を果たしたチームを、反町監督は「J1では18番目の新入生」と呼ぶ。
 チームの財政的な問題もあり、昨シーズンを戦った戦力から大きな上積みができないまま迎えた開幕。不動のボランチ田村雄三、FWアジェルらけが人が続出した状況もあって指揮官は決して大風呂敷を広げず、現実的な目標として「15位内に入ってJ1残留」を掲げている。


 昨シーズンのJ1で15位だったモンテディオとの一戦はいわば絶好の試金石だった。
 それだけに、後半だけで惜しいシュートを3本放つなど主導権を握った内容はともかくとして、攻め切れずにドローで終わった結果には不安が残る。
 勝ち点が「3」から「1」に減った結果が、今シーズンの戦いにどんな影響を与えるのか。


 会見の終盤。反町監督は「やられたと思った」と胸をなでおろしたシーンとして、後半ロスタイムのモンテディオの攻撃をあげた。
 途中出場のFW北村知隆が右サイドを突破し、低く速いクロスに古橋が乾坤一擲のダイビングヘッド。GK野澤もどうすることができなかったシュートは、ポストの左をギリギリでかすめてゴールラインを割った。


「モンテディオは横のパスやクロスから生まれたゴールが50パーセントを占めているチーム。なので、この試合に向けては横からのボールに対するディフェンスを徹底してきた。最後だけマークが外れたら、向こうも外してくれた(笑)」
 いわばベルマーレには「ツキ」がある、ということか。


 そして、最善の努力をした者に、勝利の神様は時として「ツキ」をもたらしてくれる。
「次はもっと大勢のマスコミの方が来るでしょうね」
 不敵に笑う指揮官は、すでに脳裏にインプットしている横浜F・マリノスのデータに俊輔加入による加筆修正を施し、オフが明けた9日から選手たちに向けて対策を伝授する。


 

2010年3月 6日 23:53|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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