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横浜FCが開幕戦白星にこだわった特別な理由 by 藤江直人
■サッカーJ2第1節
横浜FC[勝ち点3] 2‐0(前半2‐0) ギラヴァンツ北九州[勝ち点0]
[3月7日午後4時キックオフ@ニッパツ三ツ沢球技場/観衆4,506人]
試合後の公式会見でここまで本音を吐露したJクラブの監督も珍しいのではないか。
「とにかく勝つこと。今日はこれしかなかった。PKでもオウンゴールでも何でもいから、今日は勝ちたかった。勝てて本当によかった」
ウインドブレーカー姿に、首にはチームのオフィシャルマフラー。試合中は逆にかぶるトレードマークのヒュンメル社製の赤い帽子は、ギュッと手に握られている。
あのラモス瑠偉氏をして「オレより熱い」と脱帽させる男。横浜FCの岸野靖之新監督がやや感極まった表情を浮かべながら、ひな壇で何度も「勝ちたかった」を連発した。
今シーズンから横浜FCの監督に就任した。しかし、その初陣だったから勝ちたかった、という至極単純な図式は歓喜の理由には当てはまらない。
答えはJFLから昇格したギラヴァンツ北九州をホームに迎えた開幕戦のスタメンにあった。
ピッチに立った11人のうち実に9人が新加入組。昨年まで5年間、コーチ及び監督を務めたサガン鳥栖で指導した選手がそのうちの5人を占めた。
監督交代を機にここまで選手が入れ替わる例もまた珍しい。
ネット上では「横浜FCの鳥栖化」と書き込まれることも少なくなかった。
サポーターも違和感を覚えるはずだし、それがチーム内の正当な競争の結果とはいえ、ポジションを取って代わられた古参組の心中も決して穏やかではないだろう。
1月中旬に始動して40日あまり。その間、練習を見学に訪れたサッカー関係者がこう危惧していたことを思い出す。
「寄せ集め軍団の感が否めないだけに、よほど監督に求心力がないと。負けが込んでくると空中分解してしまうこともあり得る」
もちろん、岸野監督自身は指導方法に絶対の自信を持っている。
東京ヴェルディで04年までの14年間、トップやサテライトのコーチとして積み重ねてきた経験が指導のベース。鳥栖時代は自ら寮に住み込み、選手たちと時間と夢を共有した。
その情熱は選手たちにも伝わり、かつてはJ2のお荷物と揶揄された鳥栖は「闘う集団」と化して何度も上位チームを辟易とさせた。最終的には5位に終わったものの、昨シーズンは終盤までJ1昇格の可能性を残した。
モットーとする「心の汗をかこう」は、横浜FCに移ったいまも変わらない。
もっとも、ただの熱血漢だけでは空回りに終わってしまう。
「遠まわしにモノを言わない。グサッとくるものがあるけど、僕たちのことを真剣に考えてくれるから真剣な態度でぶつかってくる。少しでも上のレベルでプレーしろ、少しでもお金を稼げ、少しでもいい暮らしをしろ、と。しゃべり下手なんですけど、伝わってくるものがある」
鳥栖で5年間にわたって岸野イズムの薫陶を受け、ともに横浜FCに移ってきたMF高地系治が、不器用を自任する51歳の指揮官に選手たちが魅せられる理由を語ってくれた。
ギラヴァンツ戦で2ゴールを叩き込んだのはその高地。4月で30歳になる遅咲きのレフティーだけでなく、センターバックの渡邉将基と右サイドバックで先発した柳沢将之は昨シーズン、GKシュナイダー潤之介とDF金裕晋は06年シーズンに鳥栖でプレーしている。
柳沢は自身のブログで鳥栖を後にすることを「断腸の思い」と表現。それでも恩師の岸野監督と行動をともにする決断を下したことを、鳥栖サポーターに詫びている。
鳥栖は専用の練習グラウンドもなかった。岸野監督が契約を更新しなかったのも、チーム側が成績に見合う年俸を払えないことが理由だった。
いわば、岸野自身も指導者としてのステップアップを期した末の決断。その後を選手4人、コーチ2人、トレーナー1人が追随したことで、鳥栖サポーターからも誹謗中傷された。
同様の複雑な思いが、迎え入れる横浜FCにも少なからずあったことは容易に想像できる。
岸野監督は会見で偽らざる胸のうちを打ち明けている。
「ある日突然集まった人間たちが、わずか40日間で心をひとつにして戦うのは難しい。まだまだ時間がかかるけど、勝って初めてチームは動くものだと思っている」
新キャプテンにはFWカズを指名して周囲を驚かせた。
ギラヴァンツ戦の後半33分から途中出場。自身のもつJリーグ最年長出場記録を43歳と9日に更新したキングは、ブラジルや日本、イタリア、クロアチアの数チームでプレーした経験から、チーム内の顔ぶれの変化を当然のこととして受け止めている。
「監督が代われば選手も入れ替わる。この世界では当然だし、僕らはやることは変わらない」
岸野監督にとっては何よりも勇気づけられる言葉だったに違いない。
昨シーズンは中盤、時にはボランチを務めたカズへ、新監督はFW一本を明言している。
「彼がゴールを決めればチームに元気が出るんです」
カズが躍動するほどに、チーム内に巣食う違和感が消えていく。ヴェルディ時代から旧知の仲のカズへ、指揮官はピッチの内外で大きな役割を果たしてくれることを期待している。
実際問題として、昨シーズンの横浜FCは18チーム中で16位。51試合でわずか43得点に終わったチームは、生半可な改革では蘇生しない。岸野監督自身、鳥栖を率いながら「こちらが1点取れば勝てるチーム」とまったくもって怖さを感じなかったという。
結果はともかく、ギラヴァンツ戦の内容は決してほめられたものではなかった。
2ゴールも経験で劣る相手のミスにつけ込んで挙げたもの。雨の中、後半は特にせわしない展開に終始した。
「確かに不細工な内容ですけど」
岸野監督は手にした白星が、スローガンに掲げる「昇格」への第一歩になると力を込めた。
「内容がよくても勝てないのがサッカー。内容がよければ負けても次につながる、なんてことはあり得ない。次の試合からは質も上げていきます。もっと落ち着いて、もっとボールを動かして、もっと統一感をもたせないと厳しい戦いになるので」
お互いを知り尽くすサガン鳥栖出身者だけではない。
ベガルタ仙台やアルビレックス新潟で実績のある33歳のベテラン・シルビーニョをボランチ、ガンバ大阪の下部組織でテクニックを磨いた寺田紳一を攻撃的MF、そして元日本代表の点取り屋・大黒将志を前線に据えた新布陣は、全員のベクトルが同じ方向を向けば決して侮れないチームに変貌する可能性を秘めている。
「他の誰よりもこの横浜FCというチームを愛し、これから仕事をしていくんだ、と勝った瞬間に強く思いました」
あらためて決意を表明した稀代の熱血指揮官による横浜FC革命。19チームとなった今季のJ2戦線は年間51試合から36試合に減り、その分、1試合の重みが増す。
12月4日のゴールへ笑顔で飛び込むために。待ったなしの戦いが始まった。
2010年3月 8日 00:41|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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