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「W杯へあえて二兎を追う」中村俊輔の悲壮な決意 by 藤江直人
■サッカーJ1第2節
横浜F・マリノス[勝ち点3] 3‐0(前半1‐0) 湘南ベルマーレ[勝ち点1]
[3月13日午後2時キックオフ@日産スタジアム/観衆32,228人]
完膚なきまでに叩きのめされた90分間に、白旗をあげざるを得なかった。
「完敗という感じです。顔を洗って出直して来い、ということなので出直してきます」
湘南ベルマーレの反町康治監督の表情が明らかにこわばっている。中村俊輔の7年半ぶりとなるJリーグ復帰戦として注目された一戦。開幕戦を終えた直後から「俊輔のお膳立てにはならない」と強気な姿勢を崩さなかった指揮官は、その俊輔の存在を惨敗の理由に挙げた。
「1点目が痛かった。クローズな展開にして、少ない好機を生かしたかった。いいボールが入ってくることを想定して、セットプレー対策に時間をかけてきたのに。情けない。セットプレーで失点を重ねるチームが下位に行くのはサッカー界の常識。最重点課題として修正したい」
敵将を脱帽させた俊輔のプレーは前半22分に飛び出した。
右CK。背番号25がゆっくりとボールをセットする。狙いは人ではなく空間。中央からやや遠めのエリアに弧を描きながら侵入してきたボールに、DF栗原勇蔵が頭をヒットさせる。
チームの今シーズン初ゴールとなる待望の先制点が生まれた直後に、チームメートたちから誘われるように俊輔が「ゆりかごダンス」の列に加わる。10日に生まれたばかりの三男へ、照れ笑いしながらパフォーマンスを捧げた。
俊輔「ああいうのは僕のキャラじゃないから(笑)。コーナーはニアとかファーを狙うんじゃなく、ボールが行ったところに人が入りました、という感じの方が入る。(ターゲットは)感覚で分かる。難しいボールを(栗原)勇蔵がよく当ててくれた」
以前は正確無比なプレースキックだけが注目されることを「それだけの選手じゃない」と極端に嫌がった。しかし、チームメートの特徴を把握し切れていない現状では、自分を支えてきた絶対の武器である左足をフル回転させるしかなかった。
相手GKの正面を突いたが、前半28分にはゴール右側から強烈な直接FKを見舞った。実に19本を数えたCKは、左右にかかわらず俊輔がすべてを蹴った。だからこそ、その後にCKで好機を作れなかったことに不満が残った。
俊輔「特に後半は単調なCKが多かった。ショートコーナーにしたり、右利きの選手に任せることも必要だと思った。セットプレーはこれからも武器になるから、修正していかないと」
与えられたポジションは2列目の右サイド。チームに本格的に合流したのが5日。当然のように周囲との意思疎通はスムーズにはかれない。
ならば、コンビネーションうんぬんに関係なく、いま現在の自分自身にできる最大限の仕事をするしかない。全権を託されたセットプレー。中盤での自在なボールキープ。体を張ったディフェンスで何度もボール奪取を試みた。
その中で非凡なセンスも垣間見せた。前半16分。逆の左サイドにいるMF山瀬功治への約40メートルのパス一本で、山瀬のシュートシーンを演出した。
俊輔「いままでのマリノスはどうしても攻撃が同じサイドに寄っていた。僕と(山瀬)功治がサイドに起点を作ることで、1本か2本のパスでシュートまでいける」
敵地で観戦したFC東京との開幕戦。サブ組に0対3で完敗した11日の紅白戦。この2試合で自軍の攻撃に足りない点を的確に看破し、微調整を施した。
一方で体は悲鳴を上げかけていた。後半になるとディフェンスに奔走するシーンが減り、試合の流れから消える時間帯も増えた。
俊輔「本当はもっと追いかけたかったんだけど。太ももの裏とかが張っちゃって」
その中で後半16分には敵陣の右サイドに侵入。MF兵動慎剛、逆サイドの山瀬と渡ったボールを最後はFW渡邉千真が押し込んで勝負を決めた。
本調子にはほど遠いことを承知の上でピッチに送り出した木村和司監督も、残り6分でお役御免とした日本代表の司令塔を手放しで賞賛した。
「十分に働いてくれた。早めに代えてあげたかったけど、ワシも勝ちたかったし(笑)。でも、中盤にタメができることでリズムの変化が生まれる」
所属していたエスパニョールでチーム構想から完全に外れ、けがも相まって試合出場機会が激減した。試合勘の欠如はプレーの質の低下を招き、長引くようならば「おそらく最後のW杯」と位置付ける6月の南アフリカ大会にも悪影響を及ぼす。
その打開策として決断した古巣の横浜F・マリノスへの移籍。しかしながら、俊輔の心中にあったのは前向きな思いだけではなかった。
俊輔「プレッシャーはあります。何をするんだろう、って思われるだろうし。いいプレーをひとつひとつ積み重ねていかないと代表だって危なくなるし。いろいろと考えます」
もちろん、W杯のことだけに没頭するわけにもいかない。
俊輔の加入で必然的に開幕戦で司令塔のポジションを務めたMF狩野健太がベンチを温めざるを得なくなった。結果を残せなければ不協和音が生じてもおかしくない。
俊輔「最初のスタートが悪いと厳しくなるから。今日もよかったわけではないけど、とにかく真っ白で試合に臨もうと思った。マリノスというチームのコマとして機能していかないと」
実際、短期間で順応しなければならない点は多い。7年半の間に大半が入れ替わったチームメートの特徴の把握。日本人特有のアジリティーにも慣れないと、鳴り物入りで移籍しながらJリーグで精彩を欠くという、これまでの外国人選手と同じ轍を踏みかねない。
それでも、俊輔はあえて「二兎」を追う覚悟を固めている。
俊輔「今日ここでプレーしたからといって、海外の感覚を忘れてはいけない。質を落とさないでやるのはすごく難しいし、自主練とかが大事になってくるけど、2つを追うような感じでやらないと。(W杯まで)あと3か月しかないから」
決してマリノスを軽視するわけではない。それでも、目線の高さはセリエA、スコットランド、スペイン、そしてチャンピオンズリーグで戦ってきたこの7年半から下げない。
俊輔「日本の環境の中でもレベルは上げられるけど、これからはセリエAやオランダ代表選手をイメージして練習に取り組まないと。チャンピオンズリーグのDVDを見たりして」
日本代表として臨んだ3日のバーレーンとのアジアカップ最終予選でも、後半になるとガス欠を起こしたかのようにミスが目立った。
ただ単に試合から遠ざかっていたことが原因なのか。それとも、6月に32歳を迎える肉体に忍び寄る衰えが試合欠場が続いたことで加速されたのか。後半になって覚えた太ももの裏の張りは急ピッチ調整の代償なのか。
不安視される材料を挙げればきりがないし、決して簡単な道ではないことは俊輔自身が誰よりも理解している。
日本の諺に「二兎を追う者は一兎も得ず」とあるように、最悪の場合、心身のリズムがさらにバラバラになる危険性もあるが、俊輔に迷いはない。
俊輔「こうやってテレビカメラや記者の人たちが大勢きて、勝ってよかったと喜んでくれる人もたくさんいるけど、そこはぶれずにやっていきたい。帰ってきてすぐに代表に呼ばれたりして、フィジカル的にはきつい部分もあったけど、もっと自分を追い込んでいかないと。やりすぎてもいけないから、追い込み方を工夫したりして」
俊輔の代わりに途中出場した狩野が終了間際に怒りのロングシュートを豪快に突き刺すなど、文字通りの「俊輔効果」で就任後の初白星を手にした木村監督は、「勝つのはいいね」と笑顔を浮かべながら今後も俊輔を起用していくことを明言した。
「俊輔のよさを引き出してあげるのが周囲の選手の仕事。俊輔も自分のプレーをどんどん味方にさらけ出すことが必要。失敗しても、パスをどんどん出せばいい」
20日には開幕2連勝と波に乗る川崎フロンターレを再びホームの日産スタジアムに迎える。04年のリーグ総合優勝以来、タイトルから遠ざかっている名門チームを復活に導くと同時に自らのレベルもW杯仕様に上げる。
俊輔「特に前半に何回かミスがあったけど、狙った上でのミスなので、これから修正していけばいい。いい選手がいるし、連動していけばもっと個々の力がでると思う」
眼前に伸びる「いばらの道」は承知の上。チームが今シーズン初勝利に沸く中で、ふと漏らした短い言葉の中には悲壮な決意が凝縮されていた。
俊輔「今日の試合はもう忘れた。次に集中する」 (写真=高須力)
2010年3月14日 18:29|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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