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横浜F・マリノスの合言葉/「ちゃぶる」がもたらした快勝劇 by 藤江直人
■J1第3節
横浜F・マリノス[勝ち点6] 4‐0(前半3‐0) 川崎フロンターレ[勝ち点6]
[3月20日午後2時キックオフ@日産スタジアム/観衆35,870人]
横浜F・マリノスの中でブームになっている言葉がある。
ちゃぶる。
聞き慣れないのも当然だ。実は広島弁で、意味は「おちょくる」。使い始めたのは広島県出身の木村和司新監督。今年1月のチーム始動直後から、声を大にして選手たちに「もっとちゃぶれ」と指示を飛ばした。
もっとも、木村監督の「ちゃぶる」には、サッカー的なテイストが多分に込められている。いわく「いい意味で相手をおちょくる」「相手の裏をかく」で、最初はキョトンとしていた選手たちもいまではすっかり「ちゃぶる」の意味を理解しているという。
前半12分。目指してきた「ちゃぶる」プレーが飛び出した。
左サイドをドリブルで前進するFW渡邉千真が、狙いすましたパスを川崎フロンターレの最終ラインの間に通す。オフサイドぎりぎりで飛び出したのはFW山瀬功治。日本代表GK川島永嗣がゴールを阻止しようと猛然と飛び出してくる。
山瀬の武器は豪快な突破と思い切りのいいシュート。そのデータは川島の頭にもインプットされていたはずだが、次の瞬間、山瀬は意外なプレーを選択する。
右足のアウトサイドで、ちょこんとボールにタッチ。まさに切っ先でコースを変えられた川島はなす術がない。ゆっくりとゴールに吸い込まれる2点目が試合の大勢を決めた。
前半40分にもダメ押しのゴールを決めた山瀬が言葉を弾ませる。
「1点目のシュートは、チームが始動して最初の練習で監督から言われた形なんです」
湘南ベルマーレを3対0で一蹴した前節に続く圧勝。しかも、相手は2シーズン連続2位の強敵・川崎フロンターレ。神奈川ダービーを制した木村監督は、当然のようにご満悦だ。
「ワシが就任してからの考えが(ピッチの上で)出せているかな。毎日のようにシュートを打たせているからね。山瀬には『相手のタイミングを外すようなプレーをしたら』と言ったんだけど、GKをかわして決めたあのゴールを見て本当に嬉しかった。ええ選手がいるから、ちょっと教えればできるのよ。連勝、気持ちいいね。悪いけど、完勝だったね。もう1点取っていたら(相手は)ショック死したかもしれんね......あまり大きいことは言わんようにしよう(笑)」
連勝を2で止められたフロンターレの高畠勉監督は、チーム全体の守備が崩壊しての惨敗に、木村監督とは対照的に意気消沈ぶりを隠せなかった。
「立ち上がりで2点を失ったことで浮き足立ち、自分たちのサッカーができなくなってしまった」
山瀬のゴールからさかのぼること4分。木村監督をして「あれでフロンターレがびびったね」と絶賛させたスーパーゴールが生まれた。
山瀬のシュートが右ポストを直撃し、こぼれダマをDFが自軍のゴール前から必死にかき出す。しかし、クリアはサイドラインを割らない中途半端なものとなり、右サイドでフリーの状態だったMF中村俊輔のもとへ渡ってしまう。
左足から放たれた一撃は無回転のまま緩やかな軌道を描き、ダイブしたGK川島をあざ笑うように、約30メートル先のゴール左隅へ鮮やかに突き刺さった。
復帰2戦目で飛び出した初ゴール。両拳を握りしめてのガッツポーズに投げキッス。派手なパフォーマンスとは無縁だった俊輔が珍しく喜びを爆発させた。
「ぶれるボールを練習していたので、狙ったところに飛んでよかった」
ベンチで戦況を見つめていた木村監督も、俊輔のところへクリアボールが飛んできた瞬間に「打てっ!」と心の中で呟いたという。
「いいコースだったね。蹴った時点で『入った』と思ったよ。でも、俊輔は『あれはキーパーがかわいそう』と言っとったよ。いいヤツだね、アイツ」
相手GK川島の心中を思いやるほどの完璧な一撃だったということなのだろう。
ボールの芯を射抜くように蹴って回転を与えず、よって空気の抵抗をまともに受けるから軌道が不規則にぶれる。欧州チャンピオンズリーグで日本代表MF本田圭佑が魅せた一撃はまだ記憶に新しいが、俊輔の復帰弾はそれとはちょっと異なる。
それは川島の証言を聞けば明白だ。
「無回転で真っすぐに伸びてきた、という感じだった。シュートを打つことはわかったし、コースもイメージ通りだった。自分のポジショニングもよかったし、普通だったらパンチングで弾けたんだけど、ボールが伸びた分だけ触ることができなかった。本田のシュートとは違います」
開始早々の失点に慌てたフロンターレは右サイドライン際を主戦場とする俊輔を過剰に意識し、ボールが渡った瞬間に数人が厳しくマークするようになる。
結果として中盤に余計なスペースが生じ、そこを山瀬やMF狩野健太、兵頭慎剛に面白いように突かれる。しかし、一方的な試合となる口火を切った俊輔は、左CKから4点目をアシストした直後の後半17分に交代でベンチへ下がっている。
前節に続いて右太ももの裏が張ってきたため、大事を取ってのお役御免だった。
「スペインでけがして、リハビリの途中で(横浜F・マリノスに)合流して、筋力が落ちている。徐々にコンディションを上げていきたい。今日はシュート以外では本当にミスばかりで、ボールが足についていかない場面が多すぎた」
俊輔自身によれば、身体のコンディションは「まだ65パーセントくらい」という。
衝撃の無回転シュートについても「今日みたいにノーマークじゃなく、自分の前に相手がいる時でもちょっとヨコに出して打てるようになれば」と課題をあげることを忘れなかった。何よりもゴール自体、ボールが伸びることを意図して放たれたものではなかった。
その一方で、木村監督も「もっとちゃぶれたで!」と百点満点は与えていない。となると、この試合で最もフロンターレをちゃぶった、つまりはおちょくったのは何か。
答えは「サッカーボール」となるだろう。
ボールの軌道に翻弄された川島が再び証言する。
「伸びたり、左右にぶれたりと、あのボールはとにかく不規則に変化する。ゴールキーパーとしては練習を重ねていく中で慣れていくしかない」
あのボールとは、今シーズンのJリーグ公式試合球として採用されたアディダス社製の「ジャブラニ」のことだ。
キックの安定性を得るための技術が凝縮された「ジャブラニ」は昨年12月に発表されたばかり。しかし、セットプレーのキッカー役やゴール前でシュートを打つ役とはおよそ縁のない日本代表DF中澤佑二も、自分が蹴ったボールがぶれダマとなって驚いたことがあるという。
「こすり上げるよりも押し出す方がいい。思ったよりも無回転で行くよね」
俊輔もようやく特徴を把握しつつあるという「ジャブラニ」は、来たるW杯南アフリカア大会においても公式試合球となることが決まっている。
果たして日本は魔法のボールで相手を「ちゃぶる」のか、はたまた「ちゃぶられる」のか。
2010年3月21日 02:14|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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