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日本代表GK楢崎正剛の貪欲なまでのこだわり  by 藤江直人


■J1第3節
名古屋グランパス[勝ち点6] 2‐0(前半1‐0) ジュビロ磐田[勝ち点1]
[3月21日午後4時キックオフ@瑞穂公園陸上競技場/観衆12,749人]


 勝利を祝う光景には見えなかった。
 試合終了を告げるホイッスルが鳴り響き、名古屋グランパスが今シーズンのホーム初勝利を初の完封で飾った直後だった。キャプテンのGK楢崎正剛とDF田中マルクス闘莉王が、自陣の中央付近で真剣な表情を浮かべながら何かを確認しあっている。
 ジュビロ磐田を無得点に封じた2人の立役者の緊急会談。楢崎は「よく見ていますね」と照れ笑いを浮かべながら、1分ほどの話し合いの中身を教えてくれた。


 日本代表の守護神いわく、こうなる。
「何が起こったのかを(闘莉王と)確かめていたんです」
 勝利に浮かれることなく今後の戦いへの課題を見つけ、その場で修正する。楢崎が重要視したのは3分間を数えた後半ロスタイムのワンプレーだった。
 右サイドを突破した日本代表DF駒野友一が絶妙の低空クロスをゴール前に放つ。飛び込んでくるのは韓国代表FWイ・グノ。ボールにコンタクトさえすれば1点、のシーンだった。


 もちろん、楢崎もボールへ向けてダッシュしてくる。もっとも、無我夢中ではなく、クロスの軌道と自身のスピードが交錯するか否かを瞬時に計算することも忘れていない。
「最初は出ていこうと思いましたが、ちょっと届かないと判断したので。たとえボールに触ったところで、前に残ってしまう。だから、次のポジションをとることを考えました」
 クロスを防いでも、ゴール前にボールがこぼれ、自らが体勢を崩していてはイ・グノに押し込まれる危険性もある。楢崎はとっさの判断で、相手のシュートに反応する対応策を選択した。


 ところが、これが闘莉王にはうまく伝わらない。
「闘莉王も僕が(クロスを)止めると思っていたみたいで。だから、最後まで追ってこなかった」
 イ・グノにほぼフリーの状態で足を合わされてしまうが、シュートは左ポストをかすめて事なきをえた。残り時間を考えれば、決められたとしても大勢に影響はなかったかもしれない。
「イ・グノも僕の動きが目に入ってシュートをミスしてくれたと思うけど」
 それでも、楢崎は今後を見据えて、結果ではなく過程にこだわった。


 豊田スタジアムで行われた前節では川崎フロンターレに2対3で敗れた。
 NHK総合で全国生中継された一戦。壮絶な点の取り合いに「負けたのは残念だけど、サッカーの面白さは伝えられたと思う」とチーム関係者は話すが、キャプテンとして、そしてゴールの番人として、楢崎は胸中に大いなる不満を募らせていた。
「フロンターレ戦では自分のプレーを見せられなかった。だからこそ、今日は絶対に勝たなければいけなかった。前の日からずっと勝つことばかりを考えていた」


 迎えた突風の中でのジュビロ戦。開始わずか17秒。天がグランパスに微笑む。
 自陣のセンターサークルのやや後方。こぼれダマに対してMFブルザノビッチが思い切り右足を振り抜くと、ボールは強烈な追い風に乗ってグングン伸びる。蹴った本人が誰よりも驚いた60メートルの先制弾。後方で見ていた楢崎は兜の緒を締めることを忘れなかった。
「自分だってあれを打たれたら決められてしまうかも。やばい、と思いました」
 先制点で逆に研ぎ澄まされる集中力。それがマックスに達したのは前半29分だった。


 ジュビロが鋭いカウンターを仕掛ける。左サイドのイ・グノ、MF西紀寛と渡ったボールは一気にゴール中央のDFパク・チュホへ。攻撃に参加していた闘莉王と増川隆洋の両センターバックは戻り切れない。絶対絶命のピンチが、次の瞬間、さらに険しさを増した。
 パク・チュホはシュートを打つと見せかけて、右サイドにフリーの状態でいたFW前田遼一へパスを流す。誰もが同点を覚悟したシーンだったが、ボールに振り回されることなく戦況を読み切っていた楢崎が起死回生のセーブでゴールマウスを守った。


「完全に読まれていた。(自分が)下手くそなんです」
 昨シーズンの得点王・前田が唇を噛みしめたのとは対照的に、4月で34歳になるベテランGKは余裕すら漂わせていた。
「あまりにフリーすぎて、逆に(前田)遼一の方がプレッシャーを感じたんじゃないですか」
 後半6分にMF松浦拓弥が放った無回転のブレ球シュートは体勢を崩しながらもしっかりと相手のいないサイドに弾き、同37分のMF山本康裕の強烈なミドルシュートもジャンプ一番、パンチングでCKに逃れた。「仁王立ち」。そんな言葉がぴったりと当てはまる90分間だった。


 別のチーム関係者は楢崎の心中をこう慮る。
「負ければ上位チームから離されることもあるし、この試合には期するものがあったと思う。今日は特に絶対的な存在感があったね」
 基本的に首都圏で開催されるJリーグを視察する日本代表の岡田武史監督も名古屋まで駆けつけた一戦で見せた安定感。これには岡田監督もご満悦だった。
「名古屋の守備はよかったんじゃないの」


 もっとも、楢崎は零封にも勝利にも満足していない。
「まだ(前節の敗戦の借りを)取り返せたとは思っていない。これからも(零封を)続けていかないといけない。勝ち点を積み上げていくことで挽回したい」
 横浜フリューゲルスの消滅に伴い、グランパスに移籍したのが99年。その年の天皇杯こそ制したものの、在籍11シーズンで獲得したタイトルは現時点でこれだけ。真の実力が問われるリーグ戦は08年シーズンの3位が最高と、不完全燃焼の戦いを余儀なくされてきた。


 それだけに、日本代表の闘莉王、FW金崎夢生が加入し、攻守両面でさらにパワーアップした今シーズンにかける思いは誰よりも強い。
 就任3シーズン目のドラガン・ストイコビッチ監督のもとで超攻撃的なスタイルを貫くグランパスにおいて、土台となる守備陣の安定抜きにはタイトルうんぬんは語れないからだ。
 楢崎を「将軍」と命名し、全幅の信頼を置いている指揮官ピクシーも「タフなゲームを制したことで勢いが戻ってくる。今日は特に守備が安定していた」と手放しで喜んだ。


 ガンバ大阪を2対1で下した敵地万博での開幕戦に続く2勝目で、勝ち点7で首位に並ぶ3チームをぴたりと追う位置につけた。
「開幕3試合で2勝1敗はよくもないし、最低でもない。自分たちの戦い方をする時間帯を増やしていくことが大事だと思う」
 悲願の頂点を目指すからこそ、楢崎は細部にまで貪欲にこだわる。そして、守護神の高い目線はシーズン半ばの6月に迎えるW杯南アフリカ大会へとつながっていく。
 

2010年3月22日 17:52|記事URLコメント(0)トラックバック(0)

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