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岡田武史監督に求む!中村俊輔を外すカンフル剤を打て by 藤江直人

■サッカーW杯南アフリカ大会壮行試合
日本代表 0‐2(前半0‐1) 韓国代表
[5月24日午後7時20分キックオフ@埼玉スタジアム/観衆5万7,873人]
公の場でなぜ言わずもがなの一件を口にしたのか。日本代表の岡田武史監督の意図がまったく理解できない。宿敵韓国に惨敗を喫した後の公式会見。いつものように冒頭で試合を振り返っている最中に突然、指揮官が切り出した。
「1年に2回も韓国に負けて申し訳ないと思っていますし、当然、責任問題も言われると思います。ただ、犬飼会長に一応問いただして......いや、尋ねてみましたが『やれ』ということだったので、前へ進むしかないと思っております」
文書ではなく口頭ではあったが、試合後に進退を伺っていたことを自ら明かしたのだ。会見場が騒然としたのも無理はない。
その数分前にミックスゾーンで取材に応じた日本サッカー協会の犬飼基昭会長は岡田監督の進退伺の件にはいっさい言及せず、指揮官の様子をこう語っていた。
「思うようなサッカーができない、ということにはショックを感じているようだった。セルビア戦よりも? そんなことはない」
W杯本番まで残り3週間というタイミングで、代表監督が進退伺を出すことの重大さを分かっていたからだろう。「残り2つの強化試合がどうなっても体制を変えることはない」と明言した犬飼会長としては、一連のやり取りは胸の中に秘めておくつもりだったに違いない。
会見の質疑応答では、当然、進退伺の真意について質問が飛んだ。
「自信をなくしたとかそういうのではなくて『続けていいんですか、会長もいろいろ言われますよ』という感じで聞いたんですけど」
その場を取り繕うように笑いを誘おうとしても、会見場のメディアはとてもじゃないが反応できない。南アフリカへの壮行試合で喫した、決定的なチャンスすら作れないスコア以上の惨敗。もはやブーイングすら浴びせられない屈辱感に震えながら、それでも選手たちは必死に前を向こうとしていたが、そこに指揮官が「進退伺を出した」という一報が飛び込んできたのだ。
「エッ」
3日前にキャプテンに指名され、韓国戦後は任務を放棄した岡田監督に代わってサポーターへ決意を表明する役目を任されたGK川口能活が目を丸くして驚いたのも無理はない。
生気を失ったような表情の岡田監督は、明らかに自信を喪失している。
3か月前の東アジア選手権。韓国に1対3の惨敗を喫しても「進退に関しては契約上、勝とうが負けようが協会が権利を持っている。選手がついてきている限り、私は選手だけを投げ出すことはできない」と強弁していたのが嘘のように語気も弱い。
泣いても笑ってもW杯は間もなく開幕する。自らが掲げた「W杯ベスト4」のプレッシャーの板ばさみに屈し、文字通りの「敵前逃亡」を図ったと受け止められても何ら不思議ではない。
会見で発した「やれということだったので」という下りも、まるで人ごとのように聞こえる。トップに立つ者がこうした態度を見せれば、チームの空中分解は避けられない。
自信喪失の理由には、2007年12月の緊急登板から「コンセプト」という名のもとに積み重ねてきたサッカーが攻守ともに世界基準にまったく届かないレベルにあることを、今年に入って何度も痛感させられた点が挙げられる。
0対3と惨敗した4月のセルビア戦で破綻した守備は、この夜も修正されなかった。開始わずか6分。マンチェスター・ユナイテッドで活躍するMF朴智星に中盤でこぼれダマを拾われると、そのままドリブル突破を許してゴール左隅に鮮やかなミドルシュートを叩き込まれた。
プレミア仕込みの朴智星の力強さもさることながら、ここで見逃せないのは選手たちが「Jリーグの感覚」から脱却できていないことだ。
ドリブル突破を試みた朴に対して誰もチャージにいかない。ボランチの長谷部誠、最終ラインに配された今野泰幸、阿部勇樹、中澤佑二の誰もが中途半端なポジショニングに終始し、朴の突破を許してしまった。
ちょっとプレッシャーをかければパスを選択するだろう。この位置ならまだシュートを打たないだろう。こんな「Jリーグ基準」がちょっとでも脳裏をかすめれば対応は後手後手に回る。相手がプレミアリーグの名門でレギュラーを張るMFならなおさらだ。
セルビア戦でも「ちょっと裏を取られても追いつける」という「Jリーグ基準」の発想が大量失点につながった。いわゆるビッグネームの外国人選手がJリーグを席巻したのは過去の話。韓国戦までの3日間で徹底してミーティングを開催したが、頭でいくら理解しても体に染み付いた癖や感覚は一長一短には抜けない。
守備の崩壊に追い打ちをかけるように、この夜は攻撃の中心にすえてきた選手が計らずも限界を露呈してしまった。
後半18分。MF中村俊輔アウト、FW森本貴幸イン。
選手を試す意味合いの強い親善試合を除けば、岡田ジャパンで不動の司令塔を務めてきた俊輔がこれほど早い時間帯でベンチに下がったことはない。
「まだ万全ではないというか、途中から明らかにコンディションが下がってきたので」
岡田監督は最初の交代のカードで背番号10をベンチに下げた理由をこう語ったが、実際は「下がってきた」ではなく、明らかに試合開始から「下がっていた」となる。後半開始から交代させてもよかったほど、俊輔のプレーは精彩を欠いていた。
ボールがなかなか収まらない。簡単に失ってはカウンターを食らう。プレッシャーのないところばかりを探し、そこへ逃げるようなプレーを選択する。試合開始直後から日本は10人で戦っていたといっても決して過言ではない。
本田圭佑とどちらが蹴るか、で注目されたフリーキックの場面は最後まで訪れず、前半に2度あったコーナーキックでも得点の予感は抱かせなかった。
現在発売中の『論スポ』で中村俊輔の追跡レポートを取材したが、その中で評論家の風間八宏氏は「明らかに自信を失っている」と俊輔の心技体の特に「心」が重症だと指摘している。
それを証明するように、試合後のミックスゾーンに現れた俊輔は「いままで築き上げてきたサッカーがちょっとずつ消えている」と消え入るような声で敗戦を振り返った。
以下の俊輔のコメントからも自信喪失ぶりが伝わってくる。
「カウンターが怖いからといって、サイドハーフとサイドバックが連動して上がる今までのスタイルがまったくなくなってしまった。回せるのが自分たちの強みだった。サイドとの連動だったり、FWとの連動とか。それプラス、カウンターに気をつけるというのがテーマだったのに、サイドバックも上がらなかったし、結局、DFの4枚で回しているだけで。
今日の自分の出来は論外。最悪。これ以下はないと思うけど。足が痛いままやってきたからボールタッチが全然鈍い。ステップの途中で止まったような感じになったり、DVDを見ても明らかに以前とは違う。自分が思っている動きとはズレがある。Jでは何とかごまかせたけど」
俊輔については、所属する横浜F・マリノスの木村和司監督も不安を解消できないまま日本代表へ送り出したことを認めている。
「もうちょっと体のキレを戻さないとW杯では大変よ。いまのままじゃきついよね」
スペインのエスパニョールに所属していた2月に痛めた右太ももの裏の違和感が最後まで消えず、その間、左足首、左足甲とまさに満身創痍となりながらも「試合に出場しながら治したい」と希望する俊輔の意思を尊重。相手からのプレッシャーが比較的かからないボランチで起用しながらコンディションが上向くのを待ったが、苦肉の策も功を奏さなかった。
思うようなプレーができない焦燥感。自信を回復させるどころか、いまの俊輔は試合を重ねるごと自信を失う負のスパイラルに陥っている。
攻撃の中心に据えられた俊輔の不調は、当然、周囲に過度の負担を強いる。
俊輔のフォローに追われることの多かったボランチの長谷部誠は率直な思いを口にした。
「ボールを奪ってもなかなか前にいけない。どうしても遅攻、遅攻になってしまう。もっと速く攻めなきゃいけないのに、今日は運動量が少なかったから連携のところでメルトダウンしてしまった。もっと速い選手、もっと仕掛けられる選手が必要。これは僕らが考えることではないんですけど、僕らが実際にピッチで戦って感じたことです」
スピードと1対1の仕掛け。いずれもいまの俊輔にはない要素だ。決して過激にならないように、慎重に言葉を選んでいたが、中盤のダイナモとして欠かせない存在になった長谷部が精彩を欠き続ける俊輔に事実上のノーを突きつけたのだ。
しかし、現状を見る限り、岡田監督に打開策は浮かんでいない。攻撃に関しては俊輔に全権委任、うがった見方をすればすべてを頼ってきたツケがW杯本番を前に回ってきた。
「ウチは先制点を取られると厳しい。後半になって相手のスペースが空いてきた時にパスを回すなら可能なんですが、これからは前半ある程度、守備的な選手でやって、後半に攻撃的な選手を使うとかも考えないといけない。そういう戦い方も視野に入れないといけないかなと今日の試合では感じていました」
会見で岡田監督は「世界で戦うために」と熟成させてきたはずのコンセプトまで放棄するようなコメントも残した。これでは選手は何を信じてついていけばいいのか。
ここは開き直ってでもいいから「これがW杯本番でなくてよかった」くらいに胸を張ってほしかったが、会長に自らの進退を伺った衝撃的な一件と合わせて、こうしたネガティブな情報は瞬く間に選手たちの耳に入ってくる。
ドイツで一敗地にまみれた4年前のジーコジャパンをさらに上回る惨状のまま、岡田ジャパンは26日未明にキャンプ地のスイスへ向けて飛び発つ。協会トップが指揮官からの進退伺を即座に却下した以上、残されたカンフル剤はひとつしか思い浮かばない。
中村俊輔を外すこと。
不調が個人のレベルを超えてチーム全体に伝播している現状では、俊輔起用はディメリットしか生まない。俊輔を外せば「監督も覚悟を決めた」とチーム内に緊張感が芽生える。
そして、韓国戦では決して本調子ではなかったが、「早く攻めたい人とそうでない人と、まだわかれている感じはする。そういうところもわかったことはポジティブにとらえたい」と前向きに敗戦をとらえたMF本田圭佑を軸として攻撃陣を再編成する。
進退伺か何か知らないが、無責任に職務を投げ出す前に、監督としてチームが上昇気流に乗るための可能な限りの手をすべて打て、と言いたい。
俊輔の実績と経験は誰もが認める。ドイツで敗れた悔しさをこの4年間の糧にしてきたことも。今回が最後のW杯と心に誓い、「ドイツからの4年分ではなく、これまでのサッカー人生のすべてをぶつけたい」と集大成のピッチにしたいという思いも。
それでも、4年に一度の大舞台にピークを合わせられなければ、それは選手個人の責任となってはね返ってくる。非情な言い方になるが、カズを筆頭に、4年という周期の中で無念の涙を流してきた選手は決して少なくない。
この先、俊輔のコンディションが上向いてくればそれに越したことはないし、サイドからクロスを上げるパワープレー要員としてベンチに残せばいい。しかし、現状のままチームにとってマイナスでしかありえないならば......12年前にそのカズを切ったように、岡田監督は再び非情の決断を下さなければならない。
予備登録メンバー7人の中には長谷部が望む「速くて仕掛けられる選手」がいる。
FW田中達也しかり、MF石川直宏しかり、そしてサポートメンバーとして現地に帯同するMF香川真司しかり。日本協会は彼らに対して、万が一の事態に備えてコンディションをキープしておくように、との通達をすでに出している。
メンバー入れ替えは1次リーグ初戦の24時間前まで可能で、日本の場合は6月13日の現地時間午後4時となっている。
ただ、残された2つの強化試合が30日(対イングランド)と6月4日(対コートジボワール)に組まれていることを考えれば、チーム再編へ向けたカンフル剤を投与するか否か、決断までに残された時間は決して多くない。
2010年5月25日 04:30|記事URL|コメント(0)|トラックバック(0)
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